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現実
2話 邂逅
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現実での超能力の使用というあり得ない事実を前にしても、功の心中は穏やかだった。
首藤功という男はなんでも受け入れてしまう。この男は昔からそうだったのだ。
BRO内でログアウト用のアイテムが爆発した時。功がどうやら内部からのログアウトは絶望的だということを聞いて、一刻も早くクリアするために、能力を強化するために狩り場へ走った。それは自分に出来ることを出来る限り早くするためである。
なんでも受け入れてしまうが故に、死を受け入れようとしたこともあった。
こんなデスゲームは早くクリアしなければ、などとは一切思っていなかった。ただ、出来ることを出来るだけ早くしただけだった。その結果ゲーム内で強プレイヤーと呼ばれるまでになったが、最強ランクである1000人級には届かなかった。
その届かなかった最強ランクの面々は、ゲーム開始からログアウト不可になってもずっと能力を強化するために狩り場にこもり、正しく状況を把握したのは寝る時だったという。しかも、状況を把握しても行動は変わらなかったというのだから格が違う。
そして今日、現実に戻ってきて異常を認識した時もすぐに情報収集に走った。1000人級、特に最強の玖神はあの広大すぎるラストダンジョンから出てくるまでに時間がかかると予想し、今は他人に頼れないという結論に至ったのも行動の理由の1つだ。
衝撃の事実を受けて、功がこれからどうしようかと思いを馳せ始めた時だった。
功はガリッと瓦礫を踏む音を背後に聞いた。
「またお前か!ここにはもう来るなと言っているだろうが!」
デスゲームを生き抜いたプレイヤーとしての勘が功に危険を告げていた。功が振り返ると目前に半透明の球体が迫っていた。
功は無言のままそれを透かして見えた襲撃者の背後へとワープする。
「な、」
功が足のホルダーからナイフを取り出す。
「一体どこに行った」
襲撃者がそう言い切らないうちに功が首に腕を回しナイフを口につき入れる。
(そういえば服装とか持ち物はBROの中の時のまんまだな)
そんなことを考えながら襲撃者に訊く。
「誰だ?お前ら」
周りの本棚からぞろぞろと、次々と人が出てくる。総勢40人程だ。全員何かしらの仮装をしていて素顔は見えない。その中のキョンシーが口を開く。
「あ、こいつじゃないじゃん」
隠れていた事を見破られて焦った様子も見られない。
「だからお前らは誰だって訊いてるんだ」
キョンシーは答えない。
「とりあえずうちのリーダー離してくんない?」
と硬直している襲撃者を指差す。この襲撃者もジェイソンという呼び名で有名なマスクを着けていた。
「まあ、いいか」
功はこの、相手が答えないという状況も受け入れてしまう。ナイフをジェイソンの口から無造作に抜き、腕を離す。ナイフを刺した時に仮面を貫いていたようだがナイフはぴったりと口に収まっていた。
「ごめんごめん。ちょっと人違いだったみたい」
キョンシーがどうでもよさそうに謝る。ジェイソンはむせて咳き込んでいる。
「別に構わないよ」
命を脅かされた被害者とは思えない言葉にキョンシーと咳き込んでいるジェイソン以外が、気持ち悪そうに、得体の知れないものを見たように、後ずさる。
「君、物凄く強いね。まさか不意打ちに対応されるとは思わなかったよ」
キョンシーは図々しく笑いながら功に話しかける。
「どう?うちのグループに入る気はないかな」
キョンシーは加害者の仲間だというのに被害者を誘った。しかし、功はそれは最善でないと勘と経験で、独断と偏見で判断する。
「いや、それは止めとこう」
キョンシーが肩をすくめる。仮装した人間がやるとなんとも間抜けに見えてしまう。
「そりゃ残念」
功の言葉はまだ終わっていなかった。
「そのかわり情報交換をしないか」
その言葉にはキョンシーの代わりに、回復したジェイソンが答えた。
「いや、遠慮しよう。今は情報に困っていない。こんな場所を拠点にしているものでな」
功にとっては当然予想された言葉。功も想定していた言葉を返す。
「俺がBROプレイヤーでも?」
功が放った一言で状況は豹変していた。
「おい、それは冗談か?それならお前をこの37人みんなで叩き潰さなきゃいけないんだが」
ジェイソンが言い、キョンシーも同調する。
「そうだね。言って良い冗談とそれ以外ぐらいは知らなきゃ」
(37人位ならなんとでもなるが、今は情報が欲しいな)
そう考えた功は説得にかかる。
「お前らに見せただろ。あれだけの対応力を持つ奴がこっちにいるのか?」
ついさっきしてやられたリーダーはばつが悪そうだが、キョンシーは無視して言い返す。
「うーん。確かに珍しいけれど皆無じゃないよ?」
これは功にとっては意外な情報だった。BRO内でもかなり上位だと自負する功には自分より上が居るというのが信じがたかった。説得は続ける。
「なら情報の先払いだ。ダンジョンを見に行ってみろ。きっとまだ生還者が残ってるはずだから」
それを聞いて、移動に秀でた能力の持ち主であろう人狼の仮装をしたメンバーが猛スピードで駆けていく。
「嘘なら今度こそ叩き潰すぞ」
「でも、本当なら面白いね」
対照的なキョンシーとジェイソンの言葉を最後にして膠着が訪れる。
40分後。功のタイムよりも少し遅い。こういったところからも中と外の違いが感じられる。
「そいつの言ってる事本当です!」
人狼は止まるなりそう叫んだ。
「ふむ、どんな様子だった」
あまり驚いていない様子のジェイソン。
「はい。200人程の正体不明のグループが魂が抜けたようにへたり込んでいました」
再起不能になったと思われる者のあまりの多さに功は驚きを隠せない。
(200人……少し多いな)
「これで証明できたかな?」
取り繕って仮装集団に尋ねる。
「ああ、信用するしかないようだ。さあ、情報交換といこう」
ジェイソンとキョンシーは相も変わらず余裕だが、周りのメンバーは嬉しさや悲しみで泣き出したり、雄叫びをあげたり様々な反応だった。
周りの反応はうって変わってほとんどお客様の様な扱いになったが、あの2人は全く変わらなかった。事前の話し合いの結果、お互いに1つずつ質問をしそれに回答、交代して繰り返しという形式に決まった。
ジェイソンが質問する。
「お前の能力は」
「答えられない」
交代。
「お前の能力は」
「秘密」
功は質問したが恐らく、玖神内にもいた「波動使い」ではないかと予想していた。ジェイソンも瞬間移動系の能力ではないかと予想していたが功ができるのは相手は以後へのワープだけなので少し過大評価していることになる。
キョンシーが質問する。
「これからどうするの」
「情報収集だ。玖神が出てきたら合流する」
交代。
「現最強の能力者は」
キョンシーが答える。
「帰還者を除けば、『孤炎帝』」
交代。
「玖神って何」
キョンシーがまた訊く。
「BROの中で最強だったパーティー」
交代。
「孤炎帝とは」
「たまにこんなグループが集まって強いやつ決めたりしてるんだけど、そこの最強」
交代。
「ゲームの中のアイテム持ってる?」
「ナイフと日本刀があるが、現実のものと変わらない。特別な道具もあるはず」
功は無根拠でこんなことを言っているわけではなく、ダンジョンの壁のスクリーンを思い浮かべている。
「こんなグループって」
「戦って強いやつを決める。うちは団体戦専門だ。他のグループもそういうのが多い」
ジェイソンが答える。
「最後だ。ゲームはどうやってクリアした?」
「ラストダンジョンの攻略だな。あの帰還者がいるとこの地下だ」
功も言う。
「こっちからはもうない」
キョンシーが質問する。
「さよなら?」
功が答えようとした時だった。
図書館の近くで連続して爆発音がした。続いて何か大きなものが落下する音がした。功はきっとこれがグループ同士のバトルなのだと理解し、更に情報を得るチャンスだと思った。
「リーダー、相手する?」
「もちろんだ。全員行くぞ」
ジェイソンが静かに言う。その一言でグループ内の空気が変わる。緊張の糸が張り詰める中、その全員が全員とも笑っていた。もはや聞くまでもないと思ったが功は質問する。
「もうないと言ったが、お前らはなんでこんなことしてるんだ?」
「こっちの方が」「「「楽しいから」」」
幾つもの声が重なる。何度も言ってきた言葉なのだろう。
外に出るとタキシード姿の25人程の集団が待ち受けていた。帽子を被っているもの、そうでないもの、杖を持っているもの、傘を持っている者。様々だ。
合図も無く先頭が始まる。お互いから不可視の攻撃力を持つ何かや、刃物、瓦礫が飛び交う。近接タイプの者は走って相手の集団に突き進む。キョンシーも前に出ているが、なにやら不規則な動きをしている。まず、キョンシーは敵に狙われていない。近づくと鈍器で殴られそうになったりしているが遠距離攻撃は向かってこない。その上キョンシーは遠距離攻撃に突っ込んでいく。恐らく能力なのだろう、手ですべて受け止めている。質量を持たない攻撃は手に触れた途端に霧散する。質量を持つ攻撃は手に当たるとピタリと止まり傷つけることはない。
ジェイソンは後方から強大な不可視攻撃を放つ砲台と化していた。
どちらも物凄く楽しそうに殺し合っているが、タキシード集団側はそれが更に顕著だった。
功が少し離れた所から見始めてから5分程で戦場は大きく動いた。タキシード集団が全力で撤退し始めたのだ。まだ、どちらにも損害と呼べるようなものは出ていなかった故に功は困惑する。
次の瞬間。キョンシーが攻撃を受け止めていたのとは逆の手を突き出すと、先程までタキシード達がいた場所に光が降り注いだ。レーザーの様な光は瓦礫を貫通する。キョンシーの能力は「攻撃を攻撃力を持つ光に転化する」だったらしい。
戦いを見届けた功はその場を離れる。図書館に留まっていれば功の目標は早く達成されたかもしれないのに。
10分後図書館には生きた人間がいなかった。
否、2人だけいた。
「あ、やりすぎちまったかなー」
「興太郎さん張り切りすぎたんですよ」
その2人は老いた夫婦だった。
「そりゃ多く倒した方が勝ちって言われちゃあな」
「だからって奥の手まで使わなくてもいいじゃないですか」
夫婦の周りには17人の壁や床に埋まった人間と、20体の石や矢で出来た人の形をしたモノが立っていた。
「強い奴がどこにいるか聞けばよかったな」
「本当考え無しね」
「いや、だからそれは」
出てくるのに時間が掛かると功が予想した玖神。この老夫婦はその9人中の8番目と9番目の序列を持つ。また、玖神内でもメンバーから最も敵に回したくないと言われる生きる伝説だ。
首藤功という男はなんでも受け入れてしまう。この男は昔からそうだったのだ。
BRO内でログアウト用のアイテムが爆発した時。功がどうやら内部からのログアウトは絶望的だということを聞いて、一刻も早くクリアするために、能力を強化するために狩り場へ走った。それは自分に出来ることを出来る限り早くするためである。
なんでも受け入れてしまうが故に、死を受け入れようとしたこともあった。
こんなデスゲームは早くクリアしなければ、などとは一切思っていなかった。ただ、出来ることを出来るだけ早くしただけだった。その結果ゲーム内で強プレイヤーと呼ばれるまでになったが、最強ランクである1000人級には届かなかった。
その届かなかった最強ランクの面々は、ゲーム開始からログアウト不可になってもずっと能力を強化するために狩り場にこもり、正しく状況を把握したのは寝る時だったという。しかも、状況を把握しても行動は変わらなかったというのだから格が違う。
そして今日、現実に戻ってきて異常を認識した時もすぐに情報収集に走った。1000人級、特に最強の玖神はあの広大すぎるラストダンジョンから出てくるまでに時間がかかると予想し、今は他人に頼れないという結論に至ったのも行動の理由の1つだ。
衝撃の事実を受けて、功がこれからどうしようかと思いを馳せ始めた時だった。
功はガリッと瓦礫を踏む音を背後に聞いた。
「またお前か!ここにはもう来るなと言っているだろうが!」
デスゲームを生き抜いたプレイヤーとしての勘が功に危険を告げていた。功が振り返ると目前に半透明の球体が迫っていた。
功は無言のままそれを透かして見えた襲撃者の背後へとワープする。
「な、」
功が足のホルダーからナイフを取り出す。
「一体どこに行った」
襲撃者がそう言い切らないうちに功が首に腕を回しナイフを口につき入れる。
(そういえば服装とか持ち物はBROの中の時のまんまだな)
そんなことを考えながら襲撃者に訊く。
「誰だ?お前ら」
周りの本棚からぞろぞろと、次々と人が出てくる。総勢40人程だ。全員何かしらの仮装をしていて素顔は見えない。その中のキョンシーが口を開く。
「あ、こいつじゃないじゃん」
隠れていた事を見破られて焦った様子も見られない。
「だからお前らは誰だって訊いてるんだ」
キョンシーは答えない。
「とりあえずうちのリーダー離してくんない?」
と硬直している襲撃者を指差す。この襲撃者もジェイソンという呼び名で有名なマスクを着けていた。
「まあ、いいか」
功はこの、相手が答えないという状況も受け入れてしまう。ナイフをジェイソンの口から無造作に抜き、腕を離す。ナイフを刺した時に仮面を貫いていたようだがナイフはぴったりと口に収まっていた。
「ごめんごめん。ちょっと人違いだったみたい」
キョンシーがどうでもよさそうに謝る。ジェイソンはむせて咳き込んでいる。
「別に構わないよ」
命を脅かされた被害者とは思えない言葉にキョンシーと咳き込んでいるジェイソン以外が、気持ち悪そうに、得体の知れないものを見たように、後ずさる。
「君、物凄く強いね。まさか不意打ちに対応されるとは思わなかったよ」
キョンシーは図々しく笑いながら功に話しかける。
「どう?うちのグループに入る気はないかな」
キョンシーは加害者の仲間だというのに被害者を誘った。しかし、功はそれは最善でないと勘と経験で、独断と偏見で判断する。
「いや、それは止めとこう」
キョンシーが肩をすくめる。仮装した人間がやるとなんとも間抜けに見えてしまう。
「そりゃ残念」
功の言葉はまだ終わっていなかった。
「そのかわり情報交換をしないか」
その言葉にはキョンシーの代わりに、回復したジェイソンが答えた。
「いや、遠慮しよう。今は情報に困っていない。こんな場所を拠点にしているものでな」
功にとっては当然予想された言葉。功も想定していた言葉を返す。
「俺がBROプレイヤーでも?」
功が放った一言で状況は豹変していた。
「おい、それは冗談か?それならお前をこの37人みんなで叩き潰さなきゃいけないんだが」
ジェイソンが言い、キョンシーも同調する。
「そうだね。言って良い冗談とそれ以外ぐらいは知らなきゃ」
(37人位ならなんとでもなるが、今は情報が欲しいな)
そう考えた功は説得にかかる。
「お前らに見せただろ。あれだけの対応力を持つ奴がこっちにいるのか?」
ついさっきしてやられたリーダーはばつが悪そうだが、キョンシーは無視して言い返す。
「うーん。確かに珍しいけれど皆無じゃないよ?」
これは功にとっては意外な情報だった。BRO内でもかなり上位だと自負する功には自分より上が居るというのが信じがたかった。説得は続ける。
「なら情報の先払いだ。ダンジョンを見に行ってみろ。きっとまだ生還者が残ってるはずだから」
それを聞いて、移動に秀でた能力の持ち主であろう人狼の仮装をしたメンバーが猛スピードで駆けていく。
「嘘なら今度こそ叩き潰すぞ」
「でも、本当なら面白いね」
対照的なキョンシーとジェイソンの言葉を最後にして膠着が訪れる。
40分後。功のタイムよりも少し遅い。こういったところからも中と外の違いが感じられる。
「そいつの言ってる事本当です!」
人狼は止まるなりそう叫んだ。
「ふむ、どんな様子だった」
あまり驚いていない様子のジェイソン。
「はい。200人程の正体不明のグループが魂が抜けたようにへたり込んでいました」
再起不能になったと思われる者のあまりの多さに功は驚きを隠せない。
(200人……少し多いな)
「これで証明できたかな?」
取り繕って仮装集団に尋ねる。
「ああ、信用するしかないようだ。さあ、情報交換といこう」
ジェイソンとキョンシーは相も変わらず余裕だが、周りのメンバーは嬉しさや悲しみで泣き出したり、雄叫びをあげたり様々な反応だった。
周りの反応はうって変わってほとんどお客様の様な扱いになったが、あの2人は全く変わらなかった。事前の話し合いの結果、お互いに1つずつ質問をしそれに回答、交代して繰り返しという形式に決まった。
ジェイソンが質問する。
「お前の能力は」
「答えられない」
交代。
「お前の能力は」
「秘密」
功は質問したが恐らく、玖神内にもいた「波動使い」ではないかと予想していた。ジェイソンも瞬間移動系の能力ではないかと予想していたが功ができるのは相手は以後へのワープだけなので少し過大評価していることになる。
キョンシーが質問する。
「これからどうするの」
「情報収集だ。玖神が出てきたら合流する」
交代。
「現最強の能力者は」
キョンシーが答える。
「帰還者を除けば、『孤炎帝』」
交代。
「玖神って何」
キョンシーがまた訊く。
「BROの中で最強だったパーティー」
交代。
「孤炎帝とは」
「たまにこんなグループが集まって強いやつ決めたりしてるんだけど、そこの最強」
交代。
「ゲームの中のアイテム持ってる?」
「ナイフと日本刀があるが、現実のものと変わらない。特別な道具もあるはず」
功は無根拠でこんなことを言っているわけではなく、ダンジョンの壁のスクリーンを思い浮かべている。
「こんなグループって」
「戦って強いやつを決める。うちは団体戦専門だ。他のグループもそういうのが多い」
ジェイソンが答える。
「最後だ。ゲームはどうやってクリアした?」
「ラストダンジョンの攻略だな。あの帰還者がいるとこの地下だ」
功も言う。
「こっちからはもうない」
キョンシーが質問する。
「さよなら?」
功が答えようとした時だった。
図書館の近くで連続して爆発音がした。続いて何か大きなものが落下する音がした。功はきっとこれがグループ同士のバトルなのだと理解し、更に情報を得るチャンスだと思った。
「リーダー、相手する?」
「もちろんだ。全員行くぞ」
ジェイソンが静かに言う。その一言でグループ内の空気が変わる。緊張の糸が張り詰める中、その全員が全員とも笑っていた。もはや聞くまでもないと思ったが功は質問する。
「もうないと言ったが、お前らはなんでこんなことしてるんだ?」
「こっちの方が」「「「楽しいから」」」
幾つもの声が重なる。何度も言ってきた言葉なのだろう。
外に出るとタキシード姿の25人程の集団が待ち受けていた。帽子を被っているもの、そうでないもの、杖を持っているもの、傘を持っている者。様々だ。
合図も無く先頭が始まる。お互いから不可視の攻撃力を持つ何かや、刃物、瓦礫が飛び交う。近接タイプの者は走って相手の集団に突き進む。キョンシーも前に出ているが、なにやら不規則な動きをしている。まず、キョンシーは敵に狙われていない。近づくと鈍器で殴られそうになったりしているが遠距離攻撃は向かってこない。その上キョンシーは遠距離攻撃に突っ込んでいく。恐らく能力なのだろう、手ですべて受け止めている。質量を持たない攻撃は手に触れた途端に霧散する。質量を持つ攻撃は手に当たるとピタリと止まり傷つけることはない。
ジェイソンは後方から強大な不可視攻撃を放つ砲台と化していた。
どちらも物凄く楽しそうに殺し合っているが、タキシード集団側はそれが更に顕著だった。
功が少し離れた所から見始めてから5分程で戦場は大きく動いた。タキシード集団が全力で撤退し始めたのだ。まだ、どちらにも損害と呼べるようなものは出ていなかった故に功は困惑する。
次の瞬間。キョンシーが攻撃を受け止めていたのとは逆の手を突き出すと、先程までタキシード達がいた場所に光が降り注いだ。レーザーの様な光は瓦礫を貫通する。キョンシーの能力は「攻撃を攻撃力を持つ光に転化する」だったらしい。
戦いを見届けた功はその場を離れる。図書館に留まっていれば功の目標は早く達成されたかもしれないのに。
10分後図書館には生きた人間がいなかった。
否、2人だけいた。
「あ、やりすぎちまったかなー」
「興太郎さん張り切りすぎたんですよ」
その2人は老いた夫婦だった。
「そりゃ多く倒した方が勝ちって言われちゃあな」
「だからって奥の手まで使わなくてもいいじゃないですか」
夫婦の周りには17人の壁や床に埋まった人間と、20体の石や矢で出来た人の形をしたモノが立っていた。
「強い奴がどこにいるか聞けばよかったな」
「本当考え無しね」
「いや、だからそれは」
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