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婚約者の押し売り
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「アルフレード王太子殿下にご挨拶申し上げます。本日は、2分!もの、お時間を頂き、恐悦至極に存じます」
王太子殿下の執務室に入り、私は腰を折り礼を取った。
「10日ぶりだね、レティシア嬢。楽にして。2分の所が、なにやら嫌味に聞こえたけど気のせいかな?」
王太子殿下は椅子から立ち上がり、いつものアルカイックスマイルで私を出迎えてくれた。だが、椅子を勧められたりはしない。
「気のせいですわ。それよりも殿下。聞きましてよ。殿下が秘密裏に婚約話を勧めていたご令嬢に、物の見事に振られたそうですわね」
アルフレード王太子殿下の肩が、微かにだがピクリと震えた。この最凶王太子がほんのわずかでも動揺すると言うことは、やはりこの情報は正しかったと確信する。
「……それはどういった話かな?」
「それはもう、楽しすぎて笑ってしまうような喜劇ですわ。殿下の意中の方は、ご婚約者に浮気され、いつご婚約が解消されてもおかしくない状態でいらしたのですわよね。そこで、そのご令嬢と現婚約者の婚約が解消された時点で、その方と殿下は新たに婚約を結び直す手筈だったのに、ご令嬢は婚約者の浮気相手の女性にはめられて、冤罪で断罪されそうになってしまった」
私の言葉を殿下はアルカイックスマイルを保ったまま、ただ、黙って聞いている。だから私は得意げにそのまま話し続けた。
「そこで殿下は秘密裏に手を回し、予め彼女の冤罪の証拠を彼女に渡していた。そして彼女は見事、その証拠を元に自らの無実を証明してみせた。そこまでは殿下の計算通りだったのでしょう。だけど、冤罪を跳ね除けた彼女の凛とした姿に、浮気者の婚約者が惚れ直してしまい、こともあろうに元サヤに収まってしまったとか。我が国最凶の王太子殿下は見事当て馬に。この話を聞いた時は、面白すぎて腹の皮が捩れるかと思いましたわ」
おほほほほ…と、私は右手の甲を左頬に当てて、ここぞとばかりに、思いっきり高笑いしてやった。私の幼なじみであり、我が国最凶の王太子の恋の結末は、余りにも滑稽で、本人の前で笑わずにはいられない。目の前のアルフレード王太子殿下の笑顔が、より一層深まった。
「当事者に向けて、わざわざ事細かな説明ありがとう。まさかそこまで知られているとは。ねぇ、レティシア。その話、一体誰に聞いたのかな?」
「そんな事、最凶殿下に教えるはずはございませんでしょ。アルフレード殿下にわたくしの情報網を潰されるとわたくしの娯楽が半減してしまいますもの」
絵本の中から出てきたような、金髪に青い目を持つこの王子様は、既に亡き隣国の姫を母に持つ、この国の第一王子で王太子だ。
富も権力もあり、優秀で仕事もできる。ついでに言えばとてつもなく顔も良い。
まあ、難を言えば、彼にかかればただの常識ですら、人を打ちのめす凶器に変わり、秘書官や文官、貴族議員にまでも、影で最凶王太子と恐れられているところくらい。
だが、そこはどうでも良い。
肝心なのは、金があり、権力があり、とてつもなく優秀。そして姑がいない。これにつきる。まさに理想の男。
「へぇ。そう。他人の不幸は蜜の味と言う所かな?それで? 今日は 私を笑いに来たの?」
「まさか、そんなわけもございますが、本日はこちらをお届けに参りましたの」
執務室で執務に励んでいるアルフレード殿下に、2分だけと言うお約束で執務室に入れて頂いた私は、殿下に一通の封筒を差し出した。
「何これ?」
「夜な夜な涙で枕を濡らしている、お気の毒な当て馬王太子殿下への朗報ですわ。本日のお買い得品は、22歳の公爵令嬢レティシア・マクレガー。殿下の幼なじみで気心も知れている相手。今なら持参金に加え、ボリジア領に、魔石の鉱山、伯爵位までお付け致しております。さらに、今回の豪華特典は、レティシア絵姿&取扱説明書付きですわ」
「……つまり、いつもの通り、君の釣書だね。じゃあこれ」
殿下はそう言って、机の引き出しから、一通の封筒を差し出してきた。
端的に言えば、いつもの如く、私の求婚へのお断りのお手紙だ。あらかじめ用意しているとは、なんて無駄のない男だ。
「まあ、いつもの事ながら、準備のよろしい事。ではわたくしはこれにて失礼致しますわ。よろしければ、今度お茶でもご一緒して下さいませ。やけ酒にもお付き合い致します。既成事実大歓迎ですわ」
封筒を受け取った私は、できるだけ優雅に礼をする。その私の姿をみて、殿下は手元の懐中時計に視線を落とした。
「ピッタリ2分。いつもながら見事だね。では、帰り道には気をつけて」
殿下は自らの手で扉を開けて下さり、私を追い出し……いえ、見送って下さった。
王太子の執務室を出て、通路を歩き、私は王太子殿下の庭園に出た。
ここは殿下の客だけに立ち入る事が許された庭で、私は10日に一度、釣書を持って殿下の執務室に乗り込んだ時にだけ、この庭園の散歩を楽しんでいる。
元々は王弟殿下の庭園で、王弟殿下が臣籍降下したときに、執務室と共に、アルフレード王太子殿下が受け継いだものだ。
殿下の許可なくこの庭に自由に出入り出来る人は、とても少ない。陛下と王弟殿下、第二王子のエリアス殿下、第一王女のエヴァンジェリン殿下、侯爵位をついではいるが、王妹を母に持つラローヴェル侯爵であるルイス様。
そしてもう一人。唯一、王家とは何の血の繋がりもない、アリヴェイル伯爵家のご令嬢である、アリシティア様くらいだ。
彼女はここが王弟殿下の庭であった時、知らずに遊び場にしていたとかで、王弟殿下に自由な出入りを許され、アルフレード殿下が受け継いだ後もそのままこの庭園に自由に立ち入る許可を得ているらしい。
ここで彼女を見かけた時には、木陰で一人静かに本を読んでいるか、ベンチに座りエリアス殿下と話している事が多い。
だから、この庭園の中を顔の良い男達を引き連れて、我が物顔で歩く女性はただ一人だ。
「レティシア様」
「ご機嫌よう、エヴァンジェリン殿下」
内心舌打ちしながら、私は目の前にやってきた第一王女であるエヴァンジェリン殿下に、アルフレード王太子殿下並みの、アルカイックスマイルを浮かべて見せた。
ああ、面倒なやつと会ってしまった。
王太子殿下の執務室に入り、私は腰を折り礼を取った。
「10日ぶりだね、レティシア嬢。楽にして。2分の所が、なにやら嫌味に聞こえたけど気のせいかな?」
王太子殿下は椅子から立ち上がり、いつものアルカイックスマイルで私を出迎えてくれた。だが、椅子を勧められたりはしない。
「気のせいですわ。それよりも殿下。聞きましてよ。殿下が秘密裏に婚約話を勧めていたご令嬢に、物の見事に振られたそうですわね」
アルフレード王太子殿下の肩が、微かにだがピクリと震えた。この最凶王太子がほんのわずかでも動揺すると言うことは、やはりこの情報は正しかったと確信する。
「……それはどういった話かな?」
「それはもう、楽しすぎて笑ってしまうような喜劇ですわ。殿下の意中の方は、ご婚約者に浮気され、いつご婚約が解消されてもおかしくない状態でいらしたのですわよね。そこで、そのご令嬢と現婚約者の婚約が解消された時点で、その方と殿下は新たに婚約を結び直す手筈だったのに、ご令嬢は婚約者の浮気相手の女性にはめられて、冤罪で断罪されそうになってしまった」
私の言葉を殿下はアルカイックスマイルを保ったまま、ただ、黙って聞いている。だから私は得意げにそのまま話し続けた。
「そこで殿下は秘密裏に手を回し、予め彼女の冤罪の証拠を彼女に渡していた。そして彼女は見事、その証拠を元に自らの無実を証明してみせた。そこまでは殿下の計算通りだったのでしょう。だけど、冤罪を跳ね除けた彼女の凛とした姿に、浮気者の婚約者が惚れ直してしまい、こともあろうに元サヤに収まってしまったとか。我が国最凶の王太子殿下は見事当て馬に。この話を聞いた時は、面白すぎて腹の皮が捩れるかと思いましたわ」
おほほほほ…と、私は右手の甲を左頬に当てて、ここぞとばかりに、思いっきり高笑いしてやった。私の幼なじみであり、我が国最凶の王太子の恋の結末は、余りにも滑稽で、本人の前で笑わずにはいられない。目の前のアルフレード王太子殿下の笑顔が、より一層深まった。
「当事者に向けて、わざわざ事細かな説明ありがとう。まさかそこまで知られているとは。ねぇ、レティシア。その話、一体誰に聞いたのかな?」
「そんな事、最凶殿下に教えるはずはございませんでしょ。アルフレード殿下にわたくしの情報網を潰されるとわたくしの娯楽が半減してしまいますもの」
絵本の中から出てきたような、金髪に青い目を持つこの王子様は、既に亡き隣国の姫を母に持つ、この国の第一王子で王太子だ。
富も権力もあり、優秀で仕事もできる。ついでに言えばとてつもなく顔も良い。
まあ、難を言えば、彼にかかればただの常識ですら、人を打ちのめす凶器に変わり、秘書官や文官、貴族議員にまでも、影で最凶王太子と恐れられているところくらい。
だが、そこはどうでも良い。
肝心なのは、金があり、権力があり、とてつもなく優秀。そして姑がいない。これにつきる。まさに理想の男。
「へぇ。そう。他人の不幸は蜜の味と言う所かな?それで? 今日は 私を笑いに来たの?」
「まさか、そんなわけもございますが、本日はこちらをお届けに参りましたの」
執務室で執務に励んでいるアルフレード殿下に、2分だけと言うお約束で執務室に入れて頂いた私は、殿下に一通の封筒を差し出した。
「何これ?」
「夜な夜な涙で枕を濡らしている、お気の毒な当て馬王太子殿下への朗報ですわ。本日のお買い得品は、22歳の公爵令嬢レティシア・マクレガー。殿下の幼なじみで気心も知れている相手。今なら持参金に加え、ボリジア領に、魔石の鉱山、伯爵位までお付け致しております。さらに、今回の豪華特典は、レティシア絵姿&取扱説明書付きですわ」
「……つまり、いつもの通り、君の釣書だね。じゃあこれ」
殿下はそう言って、机の引き出しから、一通の封筒を差し出してきた。
端的に言えば、いつもの如く、私の求婚へのお断りのお手紙だ。あらかじめ用意しているとは、なんて無駄のない男だ。
「まあ、いつもの事ながら、準備のよろしい事。ではわたくしはこれにて失礼致しますわ。よろしければ、今度お茶でもご一緒して下さいませ。やけ酒にもお付き合い致します。既成事実大歓迎ですわ」
封筒を受け取った私は、できるだけ優雅に礼をする。その私の姿をみて、殿下は手元の懐中時計に視線を落とした。
「ピッタリ2分。いつもながら見事だね。では、帰り道には気をつけて」
殿下は自らの手で扉を開けて下さり、私を追い出し……いえ、見送って下さった。
王太子の執務室を出て、通路を歩き、私は王太子殿下の庭園に出た。
ここは殿下の客だけに立ち入る事が許された庭で、私は10日に一度、釣書を持って殿下の執務室に乗り込んだ時にだけ、この庭園の散歩を楽しんでいる。
元々は王弟殿下の庭園で、王弟殿下が臣籍降下したときに、執務室と共に、アルフレード王太子殿下が受け継いだものだ。
殿下の許可なくこの庭に自由に出入り出来る人は、とても少ない。陛下と王弟殿下、第二王子のエリアス殿下、第一王女のエヴァンジェリン殿下、侯爵位をついではいるが、王妹を母に持つラローヴェル侯爵であるルイス様。
そしてもう一人。唯一、王家とは何の血の繋がりもない、アリヴェイル伯爵家のご令嬢である、アリシティア様くらいだ。
彼女はここが王弟殿下の庭であった時、知らずに遊び場にしていたとかで、王弟殿下に自由な出入りを許され、アルフレード殿下が受け継いだ後もそのままこの庭園に自由に立ち入る許可を得ているらしい。
ここで彼女を見かけた時には、木陰で一人静かに本を読んでいるか、ベンチに座りエリアス殿下と話している事が多い。
だから、この庭園の中を顔の良い男達を引き連れて、我が物顔で歩く女性はただ一人だ。
「レティシア様」
「ご機嫌よう、エヴァンジェリン殿下」
内心舌打ちしながら、私は目の前にやってきた第一王女であるエヴァンジェリン殿下に、アルフレード王太子殿下並みの、アルカイックスマイルを浮かべて見せた。
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