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本当の黒幕は
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アリヴェイル伯爵令嬢、アリシティア様。彼女は、薔薇色と朱色を混ぜ合わせた夜明けの空のような、パパラチアサファイアの瞳に、長い青紫がかった銀糸の髪の美少女だ。
透けるような白磁の肌、高すぎない細い鼻に、人を誘うような艶っぽい薄紅色の唇。彼女には大人の女性的な妖艶さや大輪の薔薇のような華やかさは無いけれど、その存在は見る者を魅了する。
たしかに髪の色も目の色も違うし、顔付きもメイクでかなり変えている。それでも見間違えたりしない。エリアス殿下がまぶしげな表情でみつめる視線の先には、いつも儚げな彼女がいた。
………あら?儚げの定義を私は勘違いしていたのかしら?
馬の調教に使うような長い革の鞭を持ったアリシティア様の全身に目をやる。
美しい体に沿う様なデザインの黒いシャツに、半ズボンというには短すぎる、股下5センチあるか無いかの、丈の短いズボンを履き、その上には、ズボンと同じ位の丈の革製のタイトなスカートを重ねていた。足は膝上まであるブーツカバーで覆って革のスカートについた2本のベルトで吊るしているが、短すぎるズボンとブーツカバーの間に見える肌色の領域が妙に生々しい。
いや、この際彼女の服装はどうでも良い。長い間、世間には殆ど知られてはいなかったが、ルイス様の幻の婚約者が、このアリシティア様だ。
ルイス様が婚約している事を知っている人達には、エヴァンジェリン殿下の存在のせいで、アリシティア様と彼の婚約解消は、時間の問題だと思われていた。
かくいう私も、同じ事を思っていた。
そして、エリアス殿下はその婚約解消を待っているのだろうとも。
……でも、いまのアリシティア様の姿が彼女の本性だとすれば、多分私はものすごい勘違いをしていた。少なくとも、アリシティア様はエリアス殿下に対して、恋愛的要素での好意は欠片も持ってはいなさそうだ。
エリアス殿下も、仲の良い幼馴染?いや、妹枠かしら??
ルイス様はアリシティア様を宥めつつ、髪にこめかみに頬にと、キスをおとしている。
普段は全方位に向けて、無差別に散布されている殺人級の色気が、今は全てアリシティア様に向けて注がれている。だが、肝心のアリシティア様は、自分を抱きしめているルイス様の存在など全く気にも止めずに、エリアス殿下にナイフを投げようとしていた。
あの歩く媚薬のターゲットになっていながら、かれの存在など全く視界に入っていないアリシティア様はある意味凄すぎる。
彼女が持っているナイフは鋭利すぎる程鋭利なのに、何故か、玩具で遊びたいともがく子猫を飼い主が無理に抱っこして、愛でているようにしか見えない。
「あの…、わたくし、助かったのでしょうか?」
なんだか、口を挟めない空気ではあるが、ここはあえて空気を読まない事にした。でなければ、いつまでたってもこのドタバタ劇は終わらなさそうだから。
とりあえず一番重要な事を問うと、アリシティア様がルイス様の腕を振り払い、私の寝かされている寝台の隣に跪き、目を潤ませ私を見つめた。
「もちろんです。マクレガー公爵令嬢のお立場を守る為にも、この件が公にならないように、最低限の人数で乗り込んだのですが、そこの外道が、先に一人でマクレガー公爵令嬢の所に行ってしまい、人数が減った為に悪党共の始末に手間取ってしまいました。本当に申し訳ございません」
何一つ悪くは無いアリシティア様が謝ってくださる。だけど、今の話では、殿下はアリシティア様やルイスさまと一緒にここへ来たと言う事になる。
あら?
それってつまり。もしかしなくとも、助けに来て下さったエリアス殿下を、私は誘拐の黒幕扱いして…しまったのかしら?
まさかそれで怒った殿下に、あんな嫌がらせをされたの?
いや、でも。それにしては彼が現れた時間が早すぎた。まるであらかじめ全てを知っていたような….…。
「…エリアス殿下。もしかしなくとも、わたくしを囮になさいましたのね?」
冷静になってたどり着いた真実は、あまりにも馬鹿らしくて、体さえ動いたら、私自身の足で殿下を蹴飛ばしたかった。
王宮の庭園でのあの時の警告といい、エリアス殿下は絶対私が狙われる事を知っていたのだ。
「違う!! 俺は反対したんだ。囮にすると決めたのは、兄上だ」
「アルフレード王太子殿下が.…」
私の脳裏で、キラキラしい笑顔の、陰湿でねちっこい、最凶王太子の姿が浮かぶ。
納得だ。あいつならやる。にっこりと誰よりも綺麗に笑いながら、冷酷な指令を下した姿が目に浮かぶ。
というか、この前、奴が振られた事を高笑いした仕返しだ、これは。
10倍返しどころじゃない!!
だけどとりあえず……。
「アリシティア様。第二王子殿下ともあろうお方が、公爵令嬢であるわたくしに無体な事などなさる筈はございません。とすれば、そこの者は殿下の偽者。どうか、存分にちょん切って下さいませ」
「まあ、さすがは生悪役…いえ、マクレガー公爵令嬢。存分に痛めつけてから、1センチ間隔で輪切りにして、野良犬にでもくれてやります」
いや、だから生って何?
生の意味が知りたいが、それを聞く前に、殿下の悲痛な言い訳が響いた。
「待て待て待てアリス!!じゃない、ドール!! 俺がこいつのために、ずっとこの事件を追って、ようやく黒幕を突き止めて、必死で助けに来たのに、こいつは俺を黒幕扱いしたうえに、この俺がこいつを殺すと勘違いしたんだぞ?! いくらなんでも酷すぎないか?! だからちょっとだけこいつの期待に沿ってやっただけだ」
ああ、やっぱりそうなのね。冷静に考えたら、簡単にたどり着く答えだったのに、冷静なつもりでも私は全く冷静じゃなかったという事だ。
「ちょっと? これがちょっと? 怖がって泣いていらしたのに? か弱いご令嬢が誘拐されて、体の自由すら奪われて、どれ程恐ろしい状態だったと思っているの?! 恐怖で錯乱してもおかしくないでしょう。そんな時に、ここにいるはずもない人間が現れたら、誘拐犯だと思うのは当たり前の事。しかもレティシア様の胸に付いている、あのアザは一体何かしら?」
「いや、あれは、ちょっと勢い余って…」
「……腹を切れ」
座り込んだエリアス殿下の前の床に、アリシティア様はダガーナイフを勢いよく突き立てた。
透けるような白磁の肌、高すぎない細い鼻に、人を誘うような艶っぽい薄紅色の唇。彼女には大人の女性的な妖艶さや大輪の薔薇のような華やかさは無いけれど、その存在は見る者を魅了する。
たしかに髪の色も目の色も違うし、顔付きもメイクでかなり変えている。それでも見間違えたりしない。エリアス殿下がまぶしげな表情でみつめる視線の先には、いつも儚げな彼女がいた。
………あら?儚げの定義を私は勘違いしていたのかしら?
馬の調教に使うような長い革の鞭を持ったアリシティア様の全身に目をやる。
美しい体に沿う様なデザインの黒いシャツに、半ズボンというには短すぎる、股下5センチあるか無いかの、丈の短いズボンを履き、その上には、ズボンと同じ位の丈の革製のタイトなスカートを重ねていた。足は膝上まであるブーツカバーで覆って革のスカートについた2本のベルトで吊るしているが、短すぎるズボンとブーツカバーの間に見える肌色の領域が妙に生々しい。
いや、この際彼女の服装はどうでも良い。長い間、世間には殆ど知られてはいなかったが、ルイス様の幻の婚約者が、このアリシティア様だ。
ルイス様が婚約している事を知っている人達には、エヴァンジェリン殿下の存在のせいで、アリシティア様と彼の婚約解消は、時間の問題だと思われていた。
かくいう私も、同じ事を思っていた。
そして、エリアス殿下はその婚約解消を待っているのだろうとも。
……でも、いまのアリシティア様の姿が彼女の本性だとすれば、多分私はものすごい勘違いをしていた。少なくとも、アリシティア様はエリアス殿下に対して、恋愛的要素での好意は欠片も持ってはいなさそうだ。
エリアス殿下も、仲の良い幼馴染?いや、妹枠かしら??
ルイス様はアリシティア様を宥めつつ、髪にこめかみに頬にと、キスをおとしている。
普段は全方位に向けて、無差別に散布されている殺人級の色気が、今は全てアリシティア様に向けて注がれている。だが、肝心のアリシティア様は、自分を抱きしめているルイス様の存在など全く気にも止めずに、エリアス殿下にナイフを投げようとしていた。
あの歩く媚薬のターゲットになっていながら、かれの存在など全く視界に入っていないアリシティア様はある意味凄すぎる。
彼女が持っているナイフは鋭利すぎる程鋭利なのに、何故か、玩具で遊びたいともがく子猫を飼い主が無理に抱っこして、愛でているようにしか見えない。
「あの…、わたくし、助かったのでしょうか?」
なんだか、口を挟めない空気ではあるが、ここはあえて空気を読まない事にした。でなければ、いつまでたってもこのドタバタ劇は終わらなさそうだから。
とりあえず一番重要な事を問うと、アリシティア様がルイス様の腕を振り払い、私の寝かされている寝台の隣に跪き、目を潤ませ私を見つめた。
「もちろんです。マクレガー公爵令嬢のお立場を守る為にも、この件が公にならないように、最低限の人数で乗り込んだのですが、そこの外道が、先に一人でマクレガー公爵令嬢の所に行ってしまい、人数が減った為に悪党共の始末に手間取ってしまいました。本当に申し訳ございません」
何一つ悪くは無いアリシティア様が謝ってくださる。だけど、今の話では、殿下はアリシティア様やルイスさまと一緒にここへ来たと言う事になる。
あら?
それってつまり。もしかしなくとも、助けに来て下さったエリアス殿下を、私は誘拐の黒幕扱いして…しまったのかしら?
まさかそれで怒った殿下に、あんな嫌がらせをされたの?
いや、でも。それにしては彼が現れた時間が早すぎた。まるであらかじめ全てを知っていたような….…。
「…エリアス殿下。もしかしなくとも、わたくしを囮になさいましたのね?」
冷静になってたどり着いた真実は、あまりにも馬鹿らしくて、体さえ動いたら、私自身の足で殿下を蹴飛ばしたかった。
王宮の庭園でのあの時の警告といい、エリアス殿下は絶対私が狙われる事を知っていたのだ。
「違う!! 俺は反対したんだ。囮にすると決めたのは、兄上だ」
「アルフレード王太子殿下が.…」
私の脳裏で、キラキラしい笑顔の、陰湿でねちっこい、最凶王太子の姿が浮かぶ。
納得だ。あいつならやる。にっこりと誰よりも綺麗に笑いながら、冷酷な指令を下した姿が目に浮かぶ。
というか、この前、奴が振られた事を高笑いした仕返しだ、これは。
10倍返しどころじゃない!!
だけどとりあえず……。
「アリシティア様。第二王子殿下ともあろうお方が、公爵令嬢であるわたくしに無体な事などなさる筈はございません。とすれば、そこの者は殿下の偽者。どうか、存分にちょん切って下さいませ」
「まあ、さすがは生悪役…いえ、マクレガー公爵令嬢。存分に痛めつけてから、1センチ間隔で輪切りにして、野良犬にでもくれてやります」
いや、だから生って何?
生の意味が知りたいが、それを聞く前に、殿下の悲痛な言い訳が響いた。
「待て待て待てアリス!!じゃない、ドール!! 俺がこいつのために、ずっとこの事件を追って、ようやく黒幕を突き止めて、必死で助けに来たのに、こいつは俺を黒幕扱いしたうえに、この俺がこいつを殺すと勘違いしたんだぞ?! いくらなんでも酷すぎないか?! だからちょっとだけこいつの期待に沿ってやっただけだ」
ああ、やっぱりそうなのね。冷静に考えたら、簡単にたどり着く答えだったのに、冷静なつもりでも私は全く冷静じゃなかったという事だ。
「ちょっと? これがちょっと? 怖がって泣いていらしたのに? か弱いご令嬢が誘拐されて、体の自由すら奪われて、どれ程恐ろしい状態だったと思っているの?! 恐怖で錯乱してもおかしくないでしょう。そんな時に、ここにいるはずもない人間が現れたら、誘拐犯だと思うのは当たり前の事。しかもレティシア様の胸に付いている、あのアザは一体何かしら?」
「いや、あれは、ちょっと勢い余って…」
「……腹を切れ」
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