余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第一章(書籍化により、前半削除されています)

12.錬金術師の塔とオネェな魔女 1

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 王宮の敷地内の外れ。一際高い緑の蔦が覆う塔に、錬金術師と呼ばれる者達の研究室は用意されていた。

 国に認められた変わり者達が、各々自由な研究をしたり、王宮の各部署からの依頼をこなしたりしている。そのジャンルは多岐にわたっていた。




 塔の入口の扉を開けた先には受付がある。だが、そこには常に本を読んでいる、とてつもなくやる気のない受付担当がいるだけだった。
 目的の人物の名を告げると、その人の研究室がある階と、部屋番号を教えてはくれる。だが、その間も、受付担当は本から目を離さない。

 来客の対応をするのは、各々の住人達だ。





 塔を尋ねたルイスは、何度か訪れた事のある5階を目指した。階段を登りきり、最奥の部屋の扉を目にして、扉が少し開いている事に気がついた。室内から話し声がする。

 先客がいる事に気がつき、幼い頃からの癖で、ルイスは無意識のまま気配を消した。


 漏れ聞こえる声から、彼らの使っている言葉が、この国の言語ではない事に気付いた。
パトリア語だ。

 とてつもなく流暢に話しているが、その言語は既にどの国でも使われていない死語だった。



 過去、世界を救い、リネスの女神と結ばれた勇者が使っていた言語であったらしく、今も神殿での特別な式典や、教典などに使われる。その為、高位の者は教養として学ぶ。

 その中のいくつかの単語は、現代でも日常会話の中に残り、今の言語に混ざって使われてはいる。だが、母国語のようにパトリア語を操ることのできる者は、この国でも高位学者や神職につく者くらいで、数えるほどしか存在しない筈だった。





『それで、いいとこ取りしようとして、どんぐりを食べさせてホエーを飲ませたの?』

 部屋の主のバリトンボイスが扉の隙間から聞こえる。そして、客の声も。

『そーなんだけど、上手くいかなくて』

 鈴を転がすような声が耳をくすぐる。

『当たり前よぉ、どんぐりを食べた豚がイベリコ豚じゃなくて、イベリコ豚って品種だからね? 普通の豚にドングリを食べさせてもイベリコ豚にはならないわよ。そもそも、本当にドングリを食べてるイベリコ豚なんて、1割くらいよ?』

『ええ、そーなの? 先に教えて欲しかった』

 バリトン以外の聞き覚えのある声に、ルイスは秀麗な眉間にシワを寄せた。

『まあ、結局は品種改良が上手くいったんだから良かったじゃないの。それに、この国って軽い植物油が無くて、揚げ物なんて論外だったじゃない。菜種油が出来たなら、今度、マヨネーズと唐揚げ作ってよ』

『別に良いけど。この世界ってライフラインなんかは結構ご都合主義なのに、食品なんかは植物や家畜を育てるところからなのよね』

『たしかに豚の品種改良してる転生者って、聞いたことない気がするわねぇ。……それで?今回の闇オークションで、あなたの探し物は何か見つかった?』


『見つけられなかったわ、残念ながら。ただ、あきらかにリーベンデイルの生きた人形目当てに闇オークションに参加してた客がいたの』

『へぇ……』

 バリトンがわずかにトーンを落として、声には冷たさが混ざる。

『ルイスが口を滑らせたのだけど、私を落札しようとしたチューダー伯は、いかに人を美しく殺せるか…という趣味があるらしいの』

『あら、サイコパスな猟奇殺人犯ってこの世界にもいるのね』

『多分そのせいで、なんらかの調査対象になっているんだと思うの。彼を調べたら客同士のつながりが見つけられるかも』


 殆ど理解できない程に早口の会話から、自分とチューダー伯爵の名前を拾い上げ、ルイスの肩が小さく揺れた。

 警吏の調査対象であるチューダー伯爵がオークション会場にいた事で、ルイスは余計な事を話してしまった自覚はあった。

 


 理由はわからないが、リーベンデイルの生きた人形として売られた者たちを、アリシティアは子供の頃からずっと探している。

 ルイスはこれ以上アリシティアに、リーベンデイルの生きた人形として売られた者達の行く末に関わって欲しくはなかった。

 これまで見つかった被害者達は、皆悲惨な結末を辿っていた。
できるなら、彼らのそんな結末をアリシティアには見せたくはない。
 父亡き後、それら全ては、ルイスが一人で背負う罪だと考えていたから。

 にもかかわらず、アリシティアに余計な情報を与えてしまった自らの浅慮さを、ルイスは後悔した。





 ルイスは教養として、パトリア語を学んではいる。とはいえ儀式に使うような単語や経典に記載されるような単語はスムーズに理解できるが、日常会話に使うような単語はあまり覚えてはいない。

 だが、この2人はかなり砕けた日常会話として、パトリア語を母国語のごとく操っていた。

 魔女と呼ばれる天才的頭脳を持つこの部屋の主はともかく……。




 ルイスは思考を巡らせたものの、これ以上は、話させてはいけない気がして、ふっと息を吐き、扉へと近づいた。


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