余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

文字の大きさ
51 / 204
第二章

2

しおりを挟む

 ルイスはアリシティアの首筋に顔を埋めて、額をぐりぐりと擦り付けてくる。
そんな彼の仕草に、前世で猫を飼っていたアリシティアは改めて確信する。



──── 絶対、ルイスの前世は猫だ。



 額や頬、胴体を擦り付けられてマーキングされようが、いきなり手や足を噛まれようが、背中に乗られたまま熟睡されようが、相手が猫なら仕方がない。

 幼い頃からルイスが何をしても全て許してしまうし、されるがままになってしまうのは、きっとアリシティアが前世で飼っていた猫にそっくりだからだ。




 だが、いくらルイスの前世が猫でも、アリシティアがメイド姿に変装している時には、ルイスの姿のままで近寄らないで欲しい。

 ただでさえルイスは『王女の恋人候補』で、『ぽっと出の婚約者』がいるのだ。その上『王宮で可愛いと有名なメイド』にまで手を出しているなどと噂が出たらどうするつもりだ。

 エヴァンジェリンの恋人候補だと言われていた事は、ただの噂と言えば済む。だが、こんな事をされていると、社交界デビューしたばかりのアリシティアは婚約者をメイドに奪われたと言う不名誉な噂が立ってしまう。



──── 婚約者本人だけどね。



 子供の頃からの癖で、ルイスに何かされても、ついされるがままでいてしまうが、流石にやめさせた方がよいかなとぼんやりと考えた時。

「ルイス、ドールから離れなさい」

 決してルイスが盾突く事のできない、天の声が響く。王太子であるアルフレードが隣に立った。

「だって……」

 抱きしめた手を離しはしないが、ルイスはアリシティアの肩から顔をあげて王太子であるアルフレードに拗ねたように小さな声で反論する。
ほんの数分前まで、襲撃犯と剣で切り結び、襲撃犯の手を地表に串刺しにしていた男と同一人物だとは、到底思えない。

 アルフレードは呆れたように、ため息をついた。

「ルイス、よく見て。その子は誰?」

「……ドール」

「そうだね。そもそも、君はエヴァンジェリンと一緒に来たんじゃないの?」

「え? それは……」

 ルイスは言い辛そうに、ちらりとシェヴァリをみた。



──── なんだ。タイミングが良すぎると思った。



 アリシティアは自分の中から、わずかな期待が抜け落ち、いつものように諦めに埋め尽くされたのを感じた。




「もう一度だけ言うね。離れなさい」

 アルフレードの言葉に、ルイスは渋々アリシティアから離れる。

「王太子殿下、わたしはもう行っても良いですか? 目的のお祭り限定のスイーツが売り切れてしまいます。王弟殿下にもお土産を頼まれてるんですよ?」

 嘘だ。頼まれてなどいない。
けれど、王弟ガーフィールド公爵のお使いと言えば、間違いなくアリシティアは解放される筈だ。

「行って良いよ。今日はご苦労様。祭りを楽しんでおいで」

 思った通り、アルフレードはアリシティアを解放してくれた。
ついでにキラキラとした柔らかな笑顔で、頭を撫でてくれる。それはドールの姿の時だけ、アルフレードから与えられるご褒美だった。

「はい。王太子殿下にも何かお土産を買ってきますね」

「楽しみにしているよ」

 アリシティアはアルフレードを見上げ、なんの含みもない純粋な笑みを浮かべた。





 アリシティアは意見を変えられる前にと、急いでアルフレードとルイスから離れ、シェヴァリにペコリと頭を下げたのち、回廊の方に走り出す。
その先には、いつの間にか2階から降りてきた、黒髪の秀麗な姿の青年が立っていた。


「お待たせベアトリーチェ」

 嬉しそうに走り寄ってくるメイド服の少女に、ベアトリーチェは柔らかな視線を向ける。

「遅いわよ。女神さまから美の祝福が貰えなかったらどうしてくれるのよ」

「魔女なのに、誘惑じゃなく美が欲しいの? 大丈夫よ、ベアトリーチェは十分美人だから」

「当たり前じゃない。そういうあんたは何の祝福が欲しいの?」

「もちろん全部」

「ま、強欲な子ね。あんたの寄り道に付き合ったお詫びに何か奢って貰おうかしら?」


 ベアトリーチェはアリシティアのカゴの中に手に持っていた小型のクロスボウを入れる。そのままうさぎが鎮座した籠をアリシティアの代わりに持ち、アルフレードとルイスに視線を向けた。

 二人と視線が交わると同時に、ベアトリーチェは口の端だけで笑い、アリシティアと共に踵を返した。




「魔女殿。…勝手に塔から出てきてるみたいだけど良いのかな?」

 独り言のように呟くアルフレードのとなりで、ルイスはとてつもなく険しい顔をする。



「ルイス!! お兄様!」

 エヴァンジェリンが、アリシティアとベアトリーチェの隣をすり抜けて早足で歩いてくる。すぐ後ろにいるレオナルドはとてつもなく不機嫌な顔をしているし、リカルドは死んだ魚のような目になっていた。

 追い払ったはずのエヴァンジェリンだが、彼女は外で待たせていた王太子の護衛達を連れていた。




「ルイス、怪我はない?」

 エヴァンジェリンは黄金の髪を揺らして、唐突にルイスに抱きつく。


 回廊の端で振り返ったアリシティアは、ルイスの姿をちらりと視界の端にとらえ、そのまま回廊を後にした。



しおりを挟む
感想 111

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。