71 / 204
第二章
4※
しおりを挟む─── やっぱり、転生者同士という事で、無条件に信頼してしまっていたのかも……。
転生者だから、仲間だと思っていたし、ベアトリーチェもそう思っていると感じていた。
けれど、ベアトリーチェという存在そのものが、何かモヤがかかったように、ハッキリとした外輪を失っていく。
本当に彼女はこの世界に存在しているのか。そんな疑問すらでてくる。そもそも誰が、何のために、あの錬金術師の塔を存在させているのか……。
そこまで考えて、アリシティアは小さく息を吐いた。
今日来たのは、ベアトリーチェの話をする為ではないし、ルイスに押し付けた筈の昨日の襲撃事件について、話す為でもない。
本来の目的を達成する必要がある。
「そんな事より閣下、私のお願いを聞いてください。今度チューダー伯爵が仮面舞踏会を開くようなのです。その招待状を手に入れてほしいんです」
チューダー伯爵は、先の闇オークションでアリシティアを落札しようとして、最後までルイスと競り合っていた人物だ。
アリシティアがここにきたのは、その彼が王都の外れにある湖畔の離宮を借り切って開催する、仮面舞踏会への招待状を手に入れる為だった。
だが、それを聞いた公爵の細めた目が、一瞬大きくなり、またもとの細さに変わった。そして、ほんの小さな舌打ちが聞こえた。
その姿を目に、アリシティアの方が驚く。
「閣下、今舌打ちしました? 人の行動に一々淑やかにしろだの礼節を保てだの言う、天下の腹黒陰湿策士の王弟殿下が舌打ちしませんでしたか?」
アリシティアの台詞に、思わずガーフィールド公爵は眉根を寄せて、
「してない」
と、平然と嘯いた。
その姿に、公爵の後ろに控える侍女は、またも肩を震わせてクスクスと笑いだした。公爵はそれに気づき、後ろを振り返って侍女を一睨すると、ふたたびアリシティアに視線を戻した。
「ルイスだな? あいつは君に、何を話した?」
たった一言で、ルイスが何らかの余計な情報をアリシティアに話した事に気づいたようだった。だが、アリシティアは対した情報など持ってはいない。けれど、余計な事は言わない。
そのせいで、公爵がどう考えるかは、アリシティアには関係のない事だ。
もし、それによってルイスが公爵にお仕置きをされても、それはアリシティアのせいではない。
公爵の反応に内心ほくそ笑みながら、「別に何も?」と、短く意味深に聞こえるような声音で話しておいた。
一呼吸おいて、いつも通りの態度に戻った公爵は、ほんの少し思案するように、視線を左側に彷徨わせた。
「何がしたいかによるね」
「と言うと?」
「君が本当にあの変態……ではなく、チューダー伯が開催する、いかにも怪しげな仮面舞踏会を楽しみたいだけなら、私が手に入れる招待状でも問題ないが…」
「……確かに」
公爵の言わんとする事に気づいて、アリシティアは頷いた。公爵経由の招待状を持って初めて現れた客など、監視してくださいと言っているようなものだ。
であれば……。
「この話は一旦保留で。別の所を当たります」
アリシティアは、紅茶を飲み干してカップを戻し、立ち上がった。
「では、失礼します」
略式礼を取ったアリシティアは、あっさりと部屋を出て行ってしまった。
閉まったドアを見ながら、公爵はため息を吐いた。
「今度は何をするつもりなのか。本当に、困った子だよね」
カップを片付ける為に、テーブルに手を伸ばした侍女に話しかける。
侍女はくすりと笑った。
「頑張り屋さんですよね」
侍女の言葉を意外に思ったのか、公爵はわざと細めていた目を元に戻して、侍女を見遣った。
「君にはそう見えるの?」
公爵の質問に、侍女は頷いた。
「ええ。頑張り屋さんですよ。だって私は早々に、全てを諦めてしまいましたから……」
皿を手にした侍女は、空気に溶けるような声で呟く。
「君の言葉の意味はいつもよくわからない」
「そうですか?」
淡々と返す侍女の真意を見定めようと、公爵はじっと侍女を見つめた。
「ああ。それよりも、ルイスの所に届いた怪文書。『女神の祝福の代わりに、王太子に血の雨が降る』って書いてあったんだけど、君、何か知らない?」
「あら、物騒ですわね」
「だろ? ルイスがノル達を連れて急いで駆けつけた時には、既にアルフレードは襲撃を受けていたらしい。ただアリスが問題なくアルフレードを守っていたから、ルイスが彼の影を表に出す事はなかったらしいけどね」
「そうですか。それはよかった」
「ねぇ、ソニア。君は、アリシティア以上に、何か重要な情報を持っていたのでは?」
ガーフィールド公爵は、彼の侍女ソニア・ベルラルディーニをじっと見つめる。
「アリシティア様がおっしゃった以上の事は何も知りません」
ソニア・ベルラルディーニはほんの少し垂れた目で、優しく微笑んだ。
30
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。