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第二章
29.その頃の王太子殿下と破滅フラグが立った二人の騎士 1
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夜の王宮内部の廊下に微かな足音が響く。扉の前に立つ護衛達は、揃って足音の方へ視線を向けた。
彼らの視線の先には、この国の社交界で最も美しいと言われる青年が、珍しく慌てたように、二人の護衛が守る扉へと歩み寄ってきた。
「王太子殿下に、ルイス・エル・ラ=ローヴェルが来たと伝えてくれる?」
「伺っております。どうぞ」
護衛の1人がルイスに答え、扉を軽く叩くと中から短い返事が聞こえ、護衛が扉を開いた。
扉が完全に開ききる前に、ルイスはその隙間から体を滑り込ませる。この国の最高級の職人が手掛けた家具が並べられた瀟洒な室内で、いつもとはどこか違った面持ちで執務机の前に座る人物に、ルイスは挨拶をすることもなく話しかけた。
「アルフレード兄上。大至急こちらに来るようにと言付かったのですが……」
夜も遅い時間帯。既に執務を終えた筈の王太子であるアルフレードが、執務室で1枚の紙を片手に頬杖をついていた。
「ああ、ルイス。こんな時間に呼び出してすまない。君が王宮にまだ残っていて良かった。できるなら私は君を叱りたくはないからね」
「叱る…ですか?」
アルフレードの不可解な言葉に、ルイスはわずかに眉根に皺を寄せた後、室内に視線を巡らせる。
王太子の執務室にしてはさして広くはない室内には、既に秘書官や文官達の姿は無かった。
代わりに普段は王太子の執務室で見かけることなど滅多に無い近衛の隊長であるフィオリ伯爵が、来客用のソファーの上でガックリと肩を落としている。
「フィオリ隊長? 一体何が……?」
フィオリの眉間には皺が寄っていて、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。そんなフィオリとは対称的に、アルフレードはいつも通りの優雅なアルカイックスマイルを浮かべ、歩み寄ったルイスに一枚の紙を差しだした。
「うん、まずはこれを見てくれる?」
「これは?」
「叔父上からの泣き言」
「叔父上?」
差し出された紙を受け取りながら、ルイスが怪訝な表情を浮かべた。
「叔父上がね、ソニア・ベルラルディーニのサロンでの特別演奏会の招待状を、なんとか僕に用立てて欲しいってさ」
「…はぁ?」
思わずといった感じで漏れた声からは、普段の甘さは霧散している。
ルイスはアルフレードの言葉の意図を掴みかねていた。
「アリシティアがチューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状を欲しいと、叔父上の所に行ったらしいんだ。だけど、叔父上は持ってはいなかった。するとアリシティアは、チューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状の代わりとして、ソニア・ベルラルディーニのサロンへの招待状を、叔父上の所から持っていってしまったようなんだ。叔父上はとてもお嘆きでね。あの招待状の価値があの子にはわかっていない……っていう感じで、白々しい泣き言が、つらつらと書かれている」
唖然とした様子で、急いで手渡された紙の上の文字を、ルイスは目で追う。そんなルイスをアルフレードは完璧な微笑みを浮かべたまま眺めていた。
手紙の上に視線を落としたルイスの纏う空気が徐々に冷めていく。
「失礼ですが、これはいつ届いたんですか?」
「んー。一時間半位前かな」
「一時間半?!」
ルイスの普段からは考えられないような、低く、怒りを押し殺したような声に、アルフレードが思わずといったように苦笑した。
「兄上、ここに書かれているチューダー伯爵の仮面舞踏会と言うのは、もしかして……」
「もちろん今夜だよ。まさに今、仮面舞踏会の真っ最中。やってくれるよね、叔父上も。こんなギリギリ間に合わないタイミングで、こんな手紙を送って寄越すなんてね」
それは一時間半も、手紙の事を隠したアルフレードも同じだとルイスは内心アルフレードを罵倒した。
アリシティアを連れ戻すにしても、間違いなく間に合わないようにした貴方も同類ですよね?…などと思ってはいても、ルイスは口に出すことはしなかった。
「…つまりアリスは誰かのツテを使い、よりにもよってソニア・ベルラルディーニの招待状をチューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状と交換して、あの仮面舞踏会に行ったと?」
要点だけをルイスは確認した。
「その反応なら、君の所の女の子達は関与してなさそうだね」
ルイスはさも心外だと言わんばかりに、しっかりと頷いた。
「もちろんです。彼女達を使うと、僕に筒抜けですから。止められるのがわかっているので、流石の考え無しも、それくらいは考えたのでしょう」
「という事は、残る可能性はあと一人か」
アルフレードが呟いたときノックが響いた。
返事を待たず執務室の扉が開かれ、エリアスが姿をみせた。
彼らの視線の先には、この国の社交界で最も美しいと言われる青年が、珍しく慌てたように、二人の護衛が守る扉へと歩み寄ってきた。
「王太子殿下に、ルイス・エル・ラ=ローヴェルが来たと伝えてくれる?」
「伺っております。どうぞ」
護衛の1人がルイスに答え、扉を軽く叩くと中から短い返事が聞こえ、護衛が扉を開いた。
扉が完全に開ききる前に、ルイスはその隙間から体を滑り込ませる。この国の最高級の職人が手掛けた家具が並べられた瀟洒な室内で、いつもとはどこか違った面持ちで執務机の前に座る人物に、ルイスは挨拶をすることもなく話しかけた。
「アルフレード兄上。大至急こちらに来るようにと言付かったのですが……」
夜も遅い時間帯。既に執務を終えた筈の王太子であるアルフレードが、執務室で1枚の紙を片手に頬杖をついていた。
「ああ、ルイス。こんな時間に呼び出してすまない。君が王宮にまだ残っていて良かった。できるなら私は君を叱りたくはないからね」
「叱る…ですか?」
アルフレードの不可解な言葉に、ルイスはわずかに眉根に皺を寄せた後、室内に視線を巡らせる。
王太子の執務室にしてはさして広くはない室内には、既に秘書官や文官達の姿は無かった。
代わりに普段は王太子の執務室で見かけることなど滅多に無い近衛の隊長であるフィオリ伯爵が、来客用のソファーの上でガックリと肩を落としている。
「フィオリ隊長? 一体何が……?」
フィオリの眉間には皺が寄っていて、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。そんなフィオリとは対称的に、アルフレードはいつも通りの優雅なアルカイックスマイルを浮かべ、歩み寄ったルイスに一枚の紙を差しだした。
「うん、まずはこれを見てくれる?」
「これは?」
「叔父上からの泣き言」
「叔父上?」
差し出された紙を受け取りながら、ルイスが怪訝な表情を浮かべた。
「叔父上がね、ソニア・ベルラルディーニのサロンでの特別演奏会の招待状を、なんとか僕に用立てて欲しいってさ」
「…はぁ?」
思わずといった感じで漏れた声からは、普段の甘さは霧散している。
ルイスはアルフレードの言葉の意図を掴みかねていた。
「アリシティアがチューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状を欲しいと、叔父上の所に行ったらしいんだ。だけど、叔父上は持ってはいなかった。するとアリシティアは、チューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状の代わりとして、ソニア・ベルラルディーニのサロンへの招待状を、叔父上の所から持っていってしまったようなんだ。叔父上はとてもお嘆きでね。あの招待状の価値があの子にはわかっていない……っていう感じで、白々しい泣き言が、つらつらと書かれている」
唖然とした様子で、急いで手渡された紙の上の文字を、ルイスは目で追う。そんなルイスをアルフレードは完璧な微笑みを浮かべたまま眺めていた。
手紙の上に視線を落としたルイスの纏う空気が徐々に冷めていく。
「失礼ですが、これはいつ届いたんですか?」
「んー。一時間半位前かな」
「一時間半?!」
ルイスの普段からは考えられないような、低く、怒りを押し殺したような声に、アルフレードが思わずといったように苦笑した。
「兄上、ここに書かれているチューダー伯爵の仮面舞踏会と言うのは、もしかして……」
「もちろん今夜だよ。まさに今、仮面舞踏会の真っ最中。やってくれるよね、叔父上も。こんなギリギリ間に合わないタイミングで、こんな手紙を送って寄越すなんてね」
それは一時間半も、手紙の事を隠したアルフレードも同じだとルイスは内心アルフレードを罵倒した。
アリシティアを連れ戻すにしても、間違いなく間に合わないようにした貴方も同類ですよね?…などと思ってはいても、ルイスは口に出すことはしなかった。
「…つまりアリスは誰かのツテを使い、よりにもよってソニア・ベルラルディーニの招待状をチューダー伯爵の仮面舞踏会の招待状と交換して、あの仮面舞踏会に行ったと?」
要点だけをルイスは確認した。
「その反応なら、君の所の女の子達は関与してなさそうだね」
ルイスはさも心外だと言わんばかりに、しっかりと頷いた。
「もちろんです。彼女達を使うと、僕に筒抜けですから。止められるのがわかっているので、流石の考え無しも、それくらいは考えたのでしょう」
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