余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第三章

4.ベアトリーチェとウィルキウス・ルフス①

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 ここにきて、ようやくアリシティアは自らの周囲で何が起こっているかを理解した。



 アリシティアが誘拐された日。
 エヴァンジェリンは取り巻きだけではなく、単なる顔見知り程度のアリシティアを強引に呼び出し、仮面舞踏会に連れ出した。


   そしてその仮面舞踏会で、エヴァンジェリンは仮面で素顔を隠した、どこの誰ともわからない“男”と出会う。
 男は単純な囁き一つで、いとも簡単に、エヴァンジェリンからの信頼を得た。

『貴方の邪魔者が社交界デビュー出来なくなるように協力しましょう。貴方には何一つ悪いようにはなりません』

 甘い甘い“男”の誘惑に、エヴァンジェリンはあっけなく堕ちた。
 “男”はエヴァンジェリンを使い、アリシティアを誘拐犯が待ち構える庭園へと誘導させる。そして“男”は、アリヴェイル伯爵令嬢、アリシティア・リッテンドールの誘拐を成功させた。
 きっと“男”は、アリシティアが大人しく誘拐され、自ら闇オークションの競売にかけられる事すら、予想していたのだろう。

 そして“男”の筋書き通り、アリシティアは『宵闇の少女』と名付けられ、リーベンデイルの生きた人形愛玩奴隷として競売にかけられた。



 『宵闇の少女』の名を知る者は、さぞ色めき立った事だろう。

 あの闇オークションにどれだけリーベンデイルを詳しく知る人物がいたのかは分からない。けれどあの件がきっかけとなり、リーベンデイルの生きた人形『宵闇の少女』の噂は、闇社会に浸透していく。

 現実世界に現れた、十三体目の宵闇の少女。
 それは闇社会に投げ入れられた、甘美で、けれど猛毒を持つ極上の生き餌だった。




 闇オークションの翌日の、エリアスとの会話がアリシティアの脳裏をよぎる。


『全く金が絡んでない。エヴァンジェリンからの見返りもない。あるのは王族の婚約者を誘拐し愛玩奴隷として闇競売にかけたという、とてつもないリスクだけだ』


『私をリーベンデイルの生きた人形として競売にかけるという事自体が目的? そんな事をしてなんの意味があるの?』





───── 間違いなく意味はあった。


 あの闇オークションをきっかけに、噂は徐々に広がっていった。そしてその噂に引き寄せられるように、『リーベンデイルの生きた人形愛玩用奴隷』を欲しがる人間、『宵闇の少女』の熱狂的な信者、他にも欲に目がくらんだ者達が蠢きだした。

 リーベンデイルに興味がなくとも、『宵闇の少女』と名付けられたアリシティアが、とてつもない価値を持つと気づいた人間もいる。






 だからこそ、あの闇オークションのすぐ後、王弟ガーフィールド公爵は子供の頃から鳥籠に閉じ込めるように隠し続けてきたアリシティアを、社交界に出すと決めたのだろう。

 こうなった以上、隠し続けるよりも表に出し、アリシティアが常に多くの人から注目される方がよい。
 
 そして王位継承権を持ち、若き侯爵であるルイス・エル・ラ=ローヴェルという存在をアリシティアの側に置くことで、彼女に対してよからぬ事を考える者達への抑止力にしようとした。


 アリシティアを社交界デビューさせると決めた時の公爵は、エヴァンジェリンへのお仕置きだともっともらしい事を言ってはいた。けれど、あの公爵たぬきが、ずっと意図的に隠していたアリシティアを社交界に出すのだ。そんな単純な理由だけであるはずがない。

 なぜなら、公爵のひとつの行動には、常にいくつもの理由があるからだ。



 公爵はリーベンデイルの名に引き寄せられる有象無象に対して、アリシティア・リッテンドールが、王家にとっていかに大切な存在であるかという事を知らしめようとした。


 だからこそアリシティアのデビュタントでは、王子の称号を持つルイスが、王族が特別な式典だけで着用する衣装を身に纏い、アリシティアをエスコートしたのだ。

 そしてアリシティアは、王位継承権第二位のエリアス、第一位の王太子アルフレード、第四位であるルイス、三人の王子達とダンスを踊った。
 本来であればデビュタントが、ダンスを踊ることが出来る王族は一人だけ。あの時、アリシティアがアルフレードからダンスに誘われた意味を、彼女はようやく理解した。

 あのダンスによって、誰もがアリシティアと王子達の仲の良さを認識した事だろう。それは、アリシティア・リッテンドールに危害を加える事は、王家を敵に回すという事だと、知らしめる行為でもあった。
 そして、政局を読むことに機敏な貴族に対しては、ルイスが正妃側には付かないという意思表示にもなる。

 何よりも、アリシティア自身は、あの日から正妃側の暗殺や誘拐を常に警戒し、変装する事が多くなった。きっと、そんなアリシティアの行動すら、公爵にとっては想定内の事なのだ。

 公爵は“男”の書いた筋書きから、アリシティアを守っていた。アリシティアはまたも気づかぬ内に、公爵に守られていた。






    アリシティアの頭の中で、バラバラに散らばっていたパズルのピースが、勝手に組み上がっていく。



 美しい“男”が、アリシティアの脳裏で笑った気がした。



 
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