余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第三章

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「君の推測通りだよ。彼女の存在が国を二分し、国が荒れるならば、僕は彼女を殺す事になる」

 ルイスの声は、決意を秘めた、穏やかな声だった。ここは綺麗事だけで生きていける世界では無い。

「貴方にそれができる?可哀想な現代の取り替え姫を、あなたは手にかける事が出来るの?」

 この国の民が愛する取り替え姫。


 

「……できるよ。まあ、エヴァンジェリンを殺したりしたら、レオナルドあたりに僕の方が殺されるかもしれないけどね」

 じっとアリシティアはルイスを見た。虚言も、虚勢も何一つ許さないというような女神の瞳で、真っ直ぐにルイスを見つめた。
 ルイスは苦笑し、そっと彼女の額にかかる髪を避け、キスを落とす。そんなルイスにアリシティアは両手を伸ばし、彼の首元に絡め、その身体を引き寄せる。
 ルイスは体重がアリシティアにかからないよう注意しながらも、彼女の上に上半身を預けた。

 とくんとくんと彼女の心臓が脈打っているのが伝わってくる。当たり前の事なのに、なぜかそれがとてつもなく幸福で愛おしかった。


「いつか貴方が死ぬ時には、私を連れて行って。地獄でも、世界樹のある、誰もいない世界の果てでもいい。もしも私が消えたなら……」



──── 私を探して。


 取り替え姫の魂を追い求める、世界樹の守護者のように。前世のあの子のように。

 けれど、願いは言葉に出来なかった。それがどれほどに残酷な願いなのか、アリシティアは知っている。


 どこか遠くで、猫の鳴き声が聞こえた気がした。



「僕はきっと、君がどこにいても、君を見つける。君か国を選べと言われたら、君を選ぶ」

「……貴方に、国を捨てられるの?」

「君と引き換えにできるなら、この世界を差し出してもいい」

 とてつもなく規模の大きな話になったと、アリシティアはくすりと笑った。
 この世界を対価に彼が望む物が、こんなちっぽけな命だなど、不釣り合いにも程がある。


「世界を対価に差し出すことが出来るのは、世界樹の守護者くらいよ?」


 世界樹の守護者。それは、あらゆる世界線を支える世界樹を守る者。世界の番人。世界の王。王の交代の時には、世界への生贄となる存在。


「だったら、今の守護者を殺して、僕が新たな守護者になろう」

「魔術師でもないのに?」

「この国を作った初代である御伽話の兄王子の血は、アルフレード兄上よりも、エリアスよりも、僕が一番色濃く受け継いでいる。つまりは魔力も多い。だから、魔術師になろうと思えばなれる筈だよ」

 多分……とルイスは笑った。
 この世界のことわりから外れた存在。それが魔術師であり魔女である。
この世界の何物を持ってしても、決して彼らを縛ってはならない。強制してはならない。それがこの国の不文律。

「魔術師や魔女になるには、家族も地位も権力も、全てを捨てなければならないのに?」

「すでに手の内から失われているものは、対象外だ。だから君が消えたら僕は魔術師になってでも、守護者を殺してでも、君を探すよ」

 夢物語のような甘美で、途方も無い話が、アリシティアの胸を揺さぶる。



 十分だと思った。この、狂った答えが、きっとルイスの本心だ。

 もし、この先アリシティアが王太子暗殺を食い止められず、ルイスがエヴァンジェリンを庇って死んでしまっても。
 彼が死ぬ時に、アリシティアを連れて行くという約束を守れなくても。

 ルイスがアリシティアを裏切って、エヴァンジェリンを選んだ事にはならない。




 これまでずっと長い間、アリシティアはアルフレードやルイスを救って、ルイスがエヴァンジェリンと幸せに生きる未来のために努力してきた。

 けれど、全ての前提は崩れ去った。

 小説とは違い、ルイスは子供の頃から変わらず、アリシティアを想っていた。
 お姫様と出会い、お姫様に恋したルイスは、現実には存在しなかった。
 アリシティアは忘れられた婚約者にはならなかった。

 いつか、ルイスがエヴァンジェリンを庇って死ぬ事があったとしても、死にゆく前に青い蝶を見れば、ルイスはアリシティアを思い出してくれるだろう。

  この先の未来は、青い蝶が見る夢の世界ではない。御伽話でも無い。
 残酷で、けれど何よりも美しい現実。だから……。



──── 貴方の幸せの為に、私は何ができるだろう。






「アリス?」

 ルイスの問いに、返事はなかった。小さな寝息が鼓膜をくすぐり、ルイスの首に絡んでいた手が、力を失いぱたんと寝台に落ちる。
 


「……君、寝付き良すぎ」

 ルイスは苦笑して、アリシティアのドレスに手を伸ばす。
 こうなったらアリシティアは起きない。
 無理矢理起こしても、完全に寝ぼけた状態で、次の日には忘れている。
 ふにゃふにゃと怒ったり泣いたりしながら文句を言う彼女の姿は、それはそれでとてつもなく可愛いくて、ルイスはタガが外れたように彼女を貪ってしまうのだが……。
 今日くらいは、ゆっくりと眠らせる事にした、



「おやすみ、僕の眠り姫」

 ルイスはアリシティアからドレスを脱がして、柔らかな夜具で包み込み、閉じた瞼に己の唇を押し当てた。




──────────────── 

読んでくださりありがとうございました。
ここまでの流れで、改定前の三章の話から色んなシーンを削除し構成しなおしました。人気のあったアルフレードの話などはSSにでもしようかと思っています。この先は改定前の続きとなります。更新速度は落ちると思いますが、お付き合い頂けると嬉しいです。感想、エール、本当にありがとうございます。とても励みになります。
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