162 / 204
第三章
10.美女と野獣と暴走娘1
しおりを挟む
噴き上がった炎は、触れる物全てを飲み込み、喰らい尽くそうとしている。
肌を焼くような熱が、煙と共に周囲を覆う。
一人、また一人と、男達が建物から飛び出してきて、炎の渦に巻き込まれた庭師小屋を見て、瞠目した。
「おい!!火事だ!!」
真っ先に飛び出して来た男が、別荘内の人間に聞こえるように、大きな声で叫んだ。
「なんだこれ、なんで急にこんな場所に火が…。見張りは何をしてる?!」
最初の男に追いついた男が、炎にまかれる庭師小屋を見て、背後から近づいて来た気配に問いかける。
「見張りなら寝てるよ。起きるかどうかはわからないけど」
「は?」
大人になりきっていない少年の声に、男達は振り返った。その視線の先には、熱風に黒髪を散らされながら、にっこりと笑う少年がいた。
トンッ、と少年が男に向かって跳躍し、抜き放った銀の刃を横に払う。同時に、男の身体から赤い鮮血が飛び散り、男は声もなく倒れた。
倒れた仲間を見たもう一人の男は、怒りの声をあげて、腰の剣を抜き放つ。
だが剣が交わる前に、男は短く呻き声を吐き出し、その場に崩れ落ちた。地に膝をついた男の両太ももと利き手の左肩には、クロスボウの矢が突き刺さっていた。
「あ、ちょっと、ドール。邪魔しないでよ!!」
文句を言いながら、少年は反転して剣を振り下ろす。キンッと硬質な金属音が響き渡り、新たに別荘から走り出して来た男によって、ディノルフィーノの剣が受け止められた。
「なんだ、お前達は!!」
少年が振り下ろした斬撃を、剣で受け止めた男が叫ぶ。
だが、次の瞬間。男が短い呻き声を漏らし、剣を持った手が奇妙に痙攣した。指先が引き攣ったように開き、男の右手から剣がこぼれ落ちる。男は歯を食い縛り、ディノルフィーノを睨みつけた。その右肩には、ディノルフィーノのもう一本の剣が、深く突き刺さっていた。
「そんな事聞いて、何か意味あんの?」
男の肩に突き刺さった剣を抜く代わりに、ディノルフィーノは男の腹を思いっきり蹴り飛ばした。男が後ろに倒れたと同時に、少年は剣を払い血を飛ばす。
「あれ?王子様は??」
振り返ったディノルフィーノが、アリシティアの方を見て、数度瞬きする。
「え?」
アリシティアは、集まって来た誘拐犯達にクロスボウの矢を打ち込みながら、驚いた声を上げ振り返った。
「エリアスなら、もうとっくに中に入って行ったよ」
剣を腰に佩いているものの、ただ見学していただけの黒衣姿のルイスが、小さく首を傾げて甘ったるく微笑む。
実の所、ルイスはこの案件からは外されていた。
それは当然だろう。王位継承権第二位のエリアスを連れて行くのに、第四位のルイスまで、同じ事件に関わらせる訳にはいかない。どれ程エリアスやルイスが強くても、何が起こるかはわからない。
けれどルイスは、アリシティアに頼みこみ、「ついて行くなとは言われていない」と屁理屈を捏ねて、ついて来たのだ。そして「手を出さないで下さいね。あと、僅かにでも危険を感じたら、逃げてください」と、愛しい婚約者に言われた事を、今の所は忠実に守っている。
もちろん、あらかた中の人間が出て来た時点で、エリアスが建物の中に飛び込んで行ったのも見ていた。けれどルイスは、手も声も出さず、ただ傍観していた。
「ああ、もう!!あの人は自分が王位継承権第二位って自覚はあるんですかね?!」
勢いよく1メートル近くはある剣を振り下ろしながら、ラブと名付けられたまとめ役の影、ヴィラブルが呻くような声をあげて、目の前の男の手を、剣ごと切り落とした。
幾重にも悲鳴や呻きが重なる。
中には逃げ出そうとする人間もいて、アリシティアは容赦なく足にクロスボウの太く短い矢を打ち込んでいく。
「絶対に殺さないでね!!後で拷問するんだから」
連写式のクロスボウの弾倉を取り替えながら、アリシティアは声をあげた。
「てか、お前こそ大丈夫なのかよ、あれは」
「ただの痺れ薬よ。多分ね」
「多分ってなんだ、多分って」
ヴィラブルが呆れた声を上げる。彼の視線の先には、アリシティアに矢を打ち込まれ、地に膝をついた男達が、必死に立ち上がろうとしていた。けれど身体が思うように動かないのか、直ぐにべしゃりと地に沈んでいた。
別荘から出て来た男達は、皆地に伏せているが、中には剣を手に立ちあがろうともがく者もいる。ディノルフィーノはそんな男達の腕を蹴り上げ、剣や目につく武器を足先で彼らの手の届かない所へと払っていった。
「私、レティシア様が心配だから、先に中に行くね、こいつらの事お願いしてもいい? 絶対死なせないで」
「おお。公女様を頼んだぞ」
アリシティアにヴィラブルが答えた。アリシティアはクロスボウを置き、腰に巻いたベルトの背に、ダガーナイフを差し込む。そして、ターゲットウィップを手に持った。
黒い鞭の持ち手には、レザーでできた赤い薔薇の花がついていて、3メートル程の鞭は複数の細い革紐を束ね、1本に編み込まれている。
アリシティアが手に持った鞭を軽く振るった瞬間、鈍く重い打撃音が響く。音速で蛇のようにしなった鞭先は、地に倒れた男の手から剣を吹き飛ばした。
「嫌な音」
肩をすくませ、ディノルフィーノが笑う。そんな黒髪の少年を一瞥して、アリシティアは建物の中に走り込んで行った。
肌を焼くような熱が、煙と共に周囲を覆う。
一人、また一人と、男達が建物から飛び出してきて、炎の渦に巻き込まれた庭師小屋を見て、瞠目した。
「おい!!火事だ!!」
真っ先に飛び出して来た男が、別荘内の人間に聞こえるように、大きな声で叫んだ。
「なんだこれ、なんで急にこんな場所に火が…。見張りは何をしてる?!」
最初の男に追いついた男が、炎にまかれる庭師小屋を見て、背後から近づいて来た気配に問いかける。
「見張りなら寝てるよ。起きるかどうかはわからないけど」
「は?」
大人になりきっていない少年の声に、男達は振り返った。その視線の先には、熱風に黒髪を散らされながら、にっこりと笑う少年がいた。
トンッ、と少年が男に向かって跳躍し、抜き放った銀の刃を横に払う。同時に、男の身体から赤い鮮血が飛び散り、男は声もなく倒れた。
倒れた仲間を見たもう一人の男は、怒りの声をあげて、腰の剣を抜き放つ。
だが剣が交わる前に、男は短く呻き声を吐き出し、その場に崩れ落ちた。地に膝をついた男の両太ももと利き手の左肩には、クロスボウの矢が突き刺さっていた。
「あ、ちょっと、ドール。邪魔しないでよ!!」
文句を言いながら、少年は反転して剣を振り下ろす。キンッと硬質な金属音が響き渡り、新たに別荘から走り出して来た男によって、ディノルフィーノの剣が受け止められた。
「なんだ、お前達は!!」
少年が振り下ろした斬撃を、剣で受け止めた男が叫ぶ。
だが、次の瞬間。男が短い呻き声を漏らし、剣を持った手が奇妙に痙攣した。指先が引き攣ったように開き、男の右手から剣がこぼれ落ちる。男は歯を食い縛り、ディノルフィーノを睨みつけた。その右肩には、ディノルフィーノのもう一本の剣が、深く突き刺さっていた。
「そんな事聞いて、何か意味あんの?」
男の肩に突き刺さった剣を抜く代わりに、ディノルフィーノは男の腹を思いっきり蹴り飛ばした。男が後ろに倒れたと同時に、少年は剣を払い血を飛ばす。
「あれ?王子様は??」
振り返ったディノルフィーノが、アリシティアの方を見て、数度瞬きする。
「え?」
アリシティアは、集まって来た誘拐犯達にクロスボウの矢を打ち込みながら、驚いた声を上げ振り返った。
「エリアスなら、もうとっくに中に入って行ったよ」
剣を腰に佩いているものの、ただ見学していただけの黒衣姿のルイスが、小さく首を傾げて甘ったるく微笑む。
実の所、ルイスはこの案件からは外されていた。
それは当然だろう。王位継承権第二位のエリアスを連れて行くのに、第四位のルイスまで、同じ事件に関わらせる訳にはいかない。どれ程エリアスやルイスが強くても、何が起こるかはわからない。
けれどルイスは、アリシティアに頼みこみ、「ついて行くなとは言われていない」と屁理屈を捏ねて、ついて来たのだ。そして「手を出さないで下さいね。あと、僅かにでも危険を感じたら、逃げてください」と、愛しい婚約者に言われた事を、今の所は忠実に守っている。
もちろん、あらかた中の人間が出て来た時点で、エリアスが建物の中に飛び込んで行ったのも見ていた。けれどルイスは、手も声も出さず、ただ傍観していた。
「ああ、もう!!あの人は自分が王位継承権第二位って自覚はあるんですかね?!」
勢いよく1メートル近くはある剣を振り下ろしながら、ラブと名付けられたまとめ役の影、ヴィラブルが呻くような声をあげて、目の前の男の手を、剣ごと切り落とした。
幾重にも悲鳴や呻きが重なる。
中には逃げ出そうとする人間もいて、アリシティアは容赦なく足にクロスボウの太く短い矢を打ち込んでいく。
「絶対に殺さないでね!!後で拷問するんだから」
連写式のクロスボウの弾倉を取り替えながら、アリシティアは声をあげた。
「てか、お前こそ大丈夫なのかよ、あれは」
「ただの痺れ薬よ。多分ね」
「多分ってなんだ、多分って」
ヴィラブルが呆れた声を上げる。彼の視線の先には、アリシティアに矢を打ち込まれ、地に膝をついた男達が、必死に立ち上がろうとしていた。けれど身体が思うように動かないのか、直ぐにべしゃりと地に沈んでいた。
別荘から出て来た男達は、皆地に伏せているが、中には剣を手に立ちあがろうともがく者もいる。ディノルフィーノはそんな男達の腕を蹴り上げ、剣や目につく武器を足先で彼らの手の届かない所へと払っていった。
「私、レティシア様が心配だから、先に中に行くね、こいつらの事お願いしてもいい? 絶対死なせないで」
「おお。公女様を頼んだぞ」
アリシティアにヴィラブルが答えた。アリシティアはクロスボウを置き、腰に巻いたベルトの背に、ダガーナイフを差し込む。そして、ターゲットウィップを手に持った。
黒い鞭の持ち手には、レザーでできた赤い薔薇の花がついていて、3メートル程の鞭は複数の細い革紐を束ね、1本に編み込まれている。
アリシティアが手に持った鞭を軽く振るった瞬間、鈍く重い打撃音が響く。音速で蛇のようにしなった鞭先は、地に倒れた男の手から剣を吹き飛ばした。
「嫌な音」
肩をすくませ、ディノルフィーノが笑う。そんな黒髪の少年を一瞥して、アリシティアは建物の中に走り込んで行った。
21
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。