余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第三章

13.事実とあっけない結末1

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「何故と言われても、ここは僕に与えられた屋敷だからね」

 ゆったりとした傾斜の背置きに上半身を預けたルイスは長椅子ジェーズロングの上で足を組んだ。

 そんなルイスを横目に、アリシティアは周囲を確認する。そして昨夜、彼女は自分自身でこの『忘却の舘』と呼ばれる高級娼館へ来た事を思い出した。

 ここは高級娼館とは言っても、普通の娼館と違い、この館に客が自ら足を運ぶ事はあまりない。
 この舘の娼婦達は『高貴なるご婦人』と呼ばれ、王族や高位貴族レベルの知識や教養を身につけ、自ら高位貴族である客を選ぶ事すらできる。
そんな彼女達は社交界のファッションリーダー的な存在でもあり、彼女達に選ばれ連れ歩く事は、上流階級の男性の中では一種のステータスとなっていた。
 そしてそんな彼女達のもう一つの顔は、社交界や貴族の裏情報や噂を集める、ルイスの諜報員でもある。



「おはようー、アリアリ」

 アリシティアは思考を整理しつつ、いつも通りの笑顔を浮かべるディノルフィーノを無視して、執事に微笑みかけた。

「おはようバトラー。今日もすごく美味しそう。いつもありがとう」

「おはようございます。お嬢様にそのように仰って頂けると、料理人も喜びます」

 ロマンスグレーの執事に微笑みかけるアリシティアを、ディノルフィーノは拗ねたように睨む。

「酷い、アリアリ。何で俺無視されてんの?!」

「酷いのはそっちよ、ノル。敵襲とか言うから、目が覚めちゃったじゃない。せっかく気持ちよく寝てたのに」

「侯爵さまの体の上で?」

 その言葉に眉を顰め、アリシティアはルイスを見た。しばらく眉間に皺をよせこめかみを抑える。またもやらかしてしまったと、肩を落とし息を吐く。

「そうね、おはようノル。起こしてくれてありがとう。こんな朝早くからどうしたの?」

「王弟殿下に言われたの。一連の令嬢誘拐事件の顛末をまとめたのをね、持ってきたのぉ」

「そう」

「そうって、それだけぇ?」

「とりあえず今は、パンケーキが先」

 アリシティアは答えながら、バトラーに引かれた椅子に腰を下ろした。

「ディノルフィーノ様も、是非朝食をお召し上がりになってくださいませ」

 バトラーはアリシティアの前に紅茶を差し出しながら、ディノルフィーノに朝食をすすめた。

「うん、そうする~」

 ディノルフィーノは自分で椅子を引き、アリシティアの右隣に腰を下ろす。

「ねぇ、事の顛末を聞いてもいい?」

 そんなアリシティアの問いに、ディノルフィーノはルイスを見た。

「侯爵さま、アリアリに全部言ってもいい~?」

「良いよ」

 ルイスは報告書を封筒に戻し、ジェーズロングの隣に置かれた小さなテーブルに置く。

「まあ、簡単に言うとね。予想通り令嬢誘拐事件は王太子派の力を削ぐ為だった。王太子派を優位にする婚姻を結ぶ予定の令嬢がターゲット」

 ディノルフィーノの言葉からは、間延びした語尾が消えた。

「その犯人がなんで、王太子派のメルクオリ侯爵家の嫡男、リスティアード子爵なの?」

「お金の為」

「は?侯爵家嫡男が?」

「あいつさぁ、あの貴族派のチューダー伯爵の所の裏カジノにハマって、めちゃくちゃ借金しててね。親に知られたら廃嫡されるレベルだった訳」

「どこまで馬鹿なの」

 アリシティアはパンケーキにナイフを入れながら、目を眇めた。

「馬鹿だからこそ良かったんじゃない?貴族派の男に、借金肩代わりする代わりに仕事をして欲しいと頼まれたらしい」

「それで王太子派の、令嬢の誘拐事件になんて関わった訳?」

「そう。それでね、誘拐話を持ち掛けた奴が言ったんだって。裏カジノの別館に依頼すれば、その手のプロを紹介して貰えるって。それで、信用できる手駒や誘拐場所、あと、誘拐するときに令嬢に使う薬も、そこで全部そろえたらしいよ」

「あの阿片窟擬き、単に薬で遊ぶ場所ではなく、やっぱり裏社会との橋渡し場所だったのね」

 ガーフィールド公爵やルイスがあの場所に手を出さなかったのは、貴族と裏社会が繋がる場所として残しておく必要があったのだろう。
 下手に潰して各貴族に個別で闇社会との関係を持たれるよりは、全体的に見張りやすい筈だ。

「あれ?アリアリ、あそこにいた男達から話を聞き出したんじゃなかったの?」

 カトラリーを動かしながら、ディノルフィーノが首を傾げた。

「私は私の事件の事しか聞いてないわ」

「ふーん。まあいいや。その馬鹿子爵は、令嬢の予定を調べ、雇った実行犯を使い誘拐を指示して、実行犯が令嬢を傷つけず誘拐したか確認して、黒幕に渡された資金で実行犯に直接報酬を支払う。あとは誘拐した令嬢の家に、手紙で令嬢の居場所を教えるだけ。身代金の受け渡しみたいな危険な事もしなくて良いって言われて、簡単に引き受けたみたい」

 馬鹿子爵とは、もちろんリスティアード子爵の事だ。

「じゃあ、正妃の派閥に流れていたお金は、令嬢の居所を教える手紙で指示してたの?」

「いや、してなかった」

「どう言う事?誘拐された令嬢の家からは、投資の名目で正妃の派閥の事業にお金が流れていたでしょう?」

「その事は、馬鹿子爵は知らなかったらしい」

「じゃあ、そっちはリスティアード子爵じゃなくて、誘拐事件を企てた貴族派の仕業?」

「それがね、その貴族派って男は、他人の名前を語った偽物だったらしくて、見つからなかったの。だから本当に貴族派かどうかもわからなかった」

「ふーん。でも婚姻を結ぶ予定の令嬢を狙ったのに、なんでレティシア様が狙われたの?」

「そっちは、馬鹿子爵が独断で勝手にやらかしたらしい。レティシア様は王太子様と婚姻を結ぶ噂があったでしょう?で、これまでの誘拐が上手く行ったから、レティシア様を誘拐したら、彼女の家から身代金を取れると思ったらしいよ。借金帳消しだけじゃなく、さらに遊ぶお金も欲しかったんだって」

「本当に馬鹿ね。誘拐されたご令嬢方はどうなったの?」

 アリシティアが疑問を口にすると、ディノルフィーノではなく、彼女の正面に座ったルイスが口を挟んだ。

「助け出されたけど、恐怖で外出もできない状態らしいね」

「PTSD……」

 アリシティアは周囲に聞こえない程の、小さな言葉で呟いた。

「結局、本当の黒幕も、リスティアード子爵に話を持ちかけた人間も、お金の流れを指示した人間も、わからなかった。リスティアード子爵は、王太子派の人間だから、この件で王太子派が疑われる事はないと思ってたみたいだね」

 紅茶の入ったカップを手に、ルイスが嘆息する。

「つまり、相変わらず真相は闇の中って事」

「そうだね。それで、アリスがあの二人の男から聞き出した事を教えて貰える?」

 アリシティアの正面の席に座り、ルイスが問う。瞬間、アリシティアの美しい双眸に、悲しげな色が浮かんだ。





────────────────

諸事情により、更新がゆっくりで申し訳ありません。この先謎の解明と、クライマックスまで一気に物語が進む予定ですので、見捨てずお付き合い頂けると嬉しいです。
そして、いつも、エールをくださる皆様、お時間を使ってまでエールして頂き、本当にありがとうございます。
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