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第三章
【小休憩SS】王弟殿下の華麗なる1日…みたいな?話(後編)
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アリシティアとディノルフィーノが去った室内で、とりあえず着替えた王弟殿下は、夕食の為に、ダイニングルームへと降りて行った。
ソニアも王弟に続き、部屋を出たのを確認し、子猫を別館の猫部屋に戻したアリシティアとディノルフィーノは、再び王弟殿下の私室の前へと舞い戻ってきた。
「敵の影はない! これより第三次MILF作戦を決行する。レナート・ディノルフィーノ、敵本拠地へと侵入し、極秘任務を遂行せよ」
「イエス、マム」
王弟の部屋の前で、片手で何冊もの本を抱えながら敬礼するアリシティアと、ディノルフィーノの隣を、従僕やメイドが通り過ぎて行く。
王弟殿下の愛弟子とも言える二人の、極秘作戦前の会話は、周囲の使用人には丸聞こえである。
ただ、この時期風物詩的にみられるこの光景を、使用人達は警戒する事すらしない。どちらかと言えば、生暖かく見守られていたりする。
主のいない王弟の部屋に堂々忍び込んだアリシティアとディノルフィーノは、王弟の私室のその奥、ベッドルームの扉を開く。
王弟の寝室の壁には、執務室同様ソニア・ベルラルディーニの絵画がかかっている。ソニアの作品が稀少すぎる程に稀少な理由は、この王弟が、金に物を言わせて、買い集めているせいでもあるだろう。
とまあ、それはともかくとして、部屋の中央奥に置かれた寝台を、アリシティアはじっくりとみて回る。
寝台の隣にキャビネットなどはなく、小さなテーブルがあるだけだ。
「ねぇ、アリアリ~。どこに何を置くぅ?」
「分厚い文字ばっかの本は、キワドイとこにしおりを挟んで、寝台横のテーブルに置くとして……」
「薄い本はぁ?」
「うーん、枕の下とか、マットレスの下とか?」
「オッキー ドッキー」
軽快に返事して、ディノルフィーノは手の中の薄い本を、枕の下やマットレスの下に隠していく。
一通り、持ち込んだ本を室内に隠したあと、二人はくすくすと笑いながら、王弟殿下の寝室続きのクローゼットへと、姿を隠した。
とまあ、そんな工作が自室のベッドルームで行われているなど、知るはずも無い王弟殿下は、食事を終えて、そのまま一階の露天風呂へと向かった。
王弟殿下の自室には無論浴室がついてはいる。だが、じじくさ……いや、日本人や古代ローマ人のように、大きなお風呂が大好きな王弟殿下は、そこで1日の疲れを取るのであった。
その間に、ソニアは王弟殿下の部屋へと戻ってきて、寝室に入りシーツを替えるためにクローゼットを開けて、そしてクローゼットに隠れているつもりの少年と少女と目が合う。
「あら、アリシティア様にレナート様。さっきの子猫達、本当にノミダニ駆除はできていなかったんですか?」
驚くことすらなく、さながら廊下ですれ違った時の気軽な会話のように、ソニアは問う。
何故二人がこんなところにいるのかとか、何を企んでいるのかとか、他に聞くべき事は沢山ありそうではあるが、そんな事など気にしないのが、ソニアである。
「あの子達はここにくる前に、ちゃんと魔女さんの薬を使って、お風呂にも入れてチェックしたから大丈夫だよ~」
「そうですか。なら、隣のお部屋の方には特別な掃除は必要ありませんね」
ディノルフィーノの答えに、ソニアは少しだけ垂れた目を細め、ほんわかと微笑んだ。そして、クローゼット奥の棚からリネン類を一式取り出して、二人を残したまま、クローゼットの扉を閉めて出て行った。
忍び込んでいるアリシティアからすれば、それで良いのかと思わないでも無いが、きっとそれで良いのだろう。
二人がクローゼットの扉の隙間から部屋を覗いていると、ソニアがリネンを交換しながら「あら」と小さな声をもらした。
彼女の手には、アリシティアとディノルフィーノが持ち込んだ、うすい本があった。
表紙には、透け透けの衣装を羽織った、女豹ポーズの妖艶な女性が描かれている。女性の年齢は四十代後半くらい。胸は大きく、重力に従順で、腰やお腹にはたゆたゆとした脂肪がついている。
ちなみにタイトルは、『熟女模様~完熟熟女の濡れ濡れ日記』である。
この世界で言うなら艶本。アリシティア的に言うなら、エロ本である。
ソニアはしばらく思案したのち、マットレスの下と枕の下から薄い本を取り出してひとまとめにし、リネン類を交換し、一冊ずつ綺麗に枕元に並べていく。
一通り並べ終わったあと、寝室の扉が開き、王弟殿下が髪を拭きながら入ってきた。
が、すぐさま異変に気付いた。
「ソニア、その本は?」
「閣下の寝台に隠してあった本です」
「は?」
王弟殿下は急いで寝台に走り寄り、枕元に並べられた本をみる。
「なんだこれは」
王弟殿下が急いで手に持った本は、『人妻熟女は、大きいのがお好き』だの、『豊満熟女と結婚する方法』だの、『荒馬と熟女』など、見事なまでに、熟女オンパレードである。
流石の王弟殿下も、フルフルと肩を揺らし、怒りの声を上げた。
「出て来なさい、アリス、レナート!!」
怒気を含んだ声が響くと同時に、クローゼットの扉が開き、パンという破裂音と共に、クラッカーの紙吹雪が舞い散った。
「「ハッピー アーリー バースデー」」
「は?」
ふたりの言葉に一瞬唖然とした王弟殿下に、ソニアが横から、「明日は閣下のお誕生日ですから」と付け加えた。
「お誕生日プレゼント、第三弾です」
アリシティアの言葉に、王弟は続けるつもりだった言葉を飲み込んだ。
つまり、大量の砂糖入りの希少なコーヒー豆を使ったコーヒーも、大量の子猫も、この大量の熟女本も、全ては部下からの日頃の感謝を込めた誕生日プレゼントなのである。
それは誕生日プレゼントという名の、嫌がらせだろう、……などと言おうものなら、どうなるか。王弟殿下はソニアを見てぐっと耐えた。ここで何か言えば、アリシティアとディノルフィーノに泣き真似をされ、先ほどの二の舞になる。
確かに、コーヒーは王弟殿下が好んで飲んでいる物であり、子猫は王弟殿下自身が『大好きだ』と断言した。だがしかし。王弟殿下が口を開く前に、ディノルフィーノが本のチョイスについて、説明を始めた。
「この本はねー、じーちゃんが王弟でんかの好みの女の人を選んでくれたの~。王弟でんかは、昔からお胸もお腹もお尻もたぷんたぷんの、ちょっと垂れ目で童顔で、完熟した豊満な熟女が大好きだから、これなら絶対喜ぶって。じーちゃんの太鼓判つきだよぉ」
ちなみにディノルフィーノのじーちゃんとは、前世、アメリカ軍人の記憶を持つ転生者である。そして、彼らの文化は無修正で、過激。ついでに言うなら、表現方法も直接的なものを好む傾向にある。そんな訳で、ディノルフィーノの祖父が選んだ本は、たぷんたぷんのお肉以外にも、くぱっと開かれた部分には、ぴらぴら濡れ濡れが、がっつり精密に書き込まれている。
「────へぇ?」
ソニアの低い声が、室内に響いた。誰もが身震いする程に、室内の空気が一気に冷えた気がした。
途端、危険を感じたアリシティアとディノルフィーノは、視線を合わせ、互いに頷く。そして、王弟殿下に向かい、ぐっと親指を立てた。
「「アスタラビスタ ベイビー」」
同時に、室内にボンっと、いう破裂音と共に白い煙が充満する。
「くそ。あいつら……」
煙の中、王弟殿下は咳き込みつつも、窓を開ける。だが視界が開けた室内には、案の定アリシティアとディノルフィーノの姿は無かった。
室内に残ったソニアは、無言のままじっと手元に視線を落としていた。そこには、自重に耐えきれずにお腹近くまで垂れた巨乳女性が、M字開脚する表紙の、『熟女の浮気~熟女の蜜穴は、今日も濡れ濡れ~』なる本が握られていた。
その夜、王弟殿下の部屋からは、「違う」「誤解だ」「信じてくれ」などという叫びが聞こえたとか聞こえなかったとか。
その後しばらく、邸の使用人達の間では、『王弟殿下は熟女がお好き』という噂が広まったというのは、また別のお話。
数日後、草木も眠る丑三つ時。
アリシティアとディノルフィーノは、真夜中の広大な墓場で抱き合って、泣きながらぶるぶると震えていた。
墓の前の地面が盛り上がり、アンデッド化した死蝋化遺体が、二人の目前に這い出してくる。
「いやぁーーー!!! ノル、なんとかしてーー!!」
「なんとかって、何したらいいの?!」
「こいつら殺してーーーー!!」
「殺せって言っても、もう死んでるってば!!」
「やーーー!!!!」
一週間程前、どこぞの塔の6階に住む錬金術師が、何かの実験に失敗して、この墓場の死人が夜な夜な墓穴から出てきて、気ままに歩き回るようになってしまったらしい。だが、元々が死人なので、殺す事も出来ず、かと言って遺体を傷付けた所で意味もなく…。広大な墓地から、アンデッドが勝手に外に出ないようにするのが、彼らのお仕事だ。
「こんな事が民に知られては、国中がパニックに陥ってしまうからね」と、王弟殿下直々の、極秘任務である。
「おれ、知ってる! じーちゃんが言ってた、こいつら生きてる人間の脳みそ食べるんだ。それで脳みそ食べられたら、こいつらとおんなじ、生きた死体になっちゃうんだ!!!」
「いやーー!!!」
その夜、朝日が昇るまで、墓地にはアリシティアとディノルフィーノの悲鳴と喚きが響きわたっていた。
そんな二人の姿を、墓地内礼拝堂の屋根の上から見下ろす、プラチナブロンドの黒衣姿の青年が一人。「馬鹿すぎる……」などと、二つの満月を背に、美貌の青年は呆れ混じりに呟いていた。
無論、アンデッドから泣きながら逃げ回っていたふたりは、そんなことには気づかないのであった。
翌朝、アリシティアとディノルフィーノが、号泣しつつ王弟殿下の両足に縋りついて謝ったのは、いうまでもない。
おわり。
────────────────
※アスタ ラ ビスタ ベイビー
映画ターミネーター2で、めちゃ有名になったフレーズ。
スペイン語で、また後でねとか、さよならとかいう意味(確か)
映画ファン的には、親指を立てるのが基本(多分)
ちなみに、この国では賢い人に英語は通じるが、スペイン語は通じない。
※本編やSSで、古い映画のフレーズなどをアリスやノルが使っている時があります。
もし気づいたら、くすりと笑ってやってください。
お知らせ
ムーンライトノベルズさんの方で、公開していた短編が、久々に丸一日以上総合ランキング一位を頂きました。向こうで読んで下さった皆様には感謝します。
ソニアも王弟に続き、部屋を出たのを確認し、子猫を別館の猫部屋に戻したアリシティアとディノルフィーノは、再び王弟殿下の私室の前へと舞い戻ってきた。
「敵の影はない! これより第三次MILF作戦を決行する。レナート・ディノルフィーノ、敵本拠地へと侵入し、極秘任務を遂行せよ」
「イエス、マム」
王弟の部屋の前で、片手で何冊もの本を抱えながら敬礼するアリシティアと、ディノルフィーノの隣を、従僕やメイドが通り過ぎて行く。
王弟殿下の愛弟子とも言える二人の、極秘作戦前の会話は、周囲の使用人には丸聞こえである。
ただ、この時期風物詩的にみられるこの光景を、使用人達は警戒する事すらしない。どちらかと言えば、生暖かく見守られていたりする。
主のいない王弟の部屋に堂々忍び込んだアリシティアとディノルフィーノは、王弟の私室のその奥、ベッドルームの扉を開く。
王弟の寝室の壁には、執務室同様ソニア・ベルラルディーニの絵画がかかっている。ソニアの作品が稀少すぎる程に稀少な理由は、この王弟が、金に物を言わせて、買い集めているせいでもあるだろう。
とまあ、それはともかくとして、部屋の中央奥に置かれた寝台を、アリシティアはじっくりとみて回る。
寝台の隣にキャビネットなどはなく、小さなテーブルがあるだけだ。
「ねぇ、アリアリ~。どこに何を置くぅ?」
「分厚い文字ばっかの本は、キワドイとこにしおりを挟んで、寝台横のテーブルに置くとして……」
「薄い本はぁ?」
「うーん、枕の下とか、マットレスの下とか?」
「オッキー ドッキー」
軽快に返事して、ディノルフィーノは手の中の薄い本を、枕の下やマットレスの下に隠していく。
一通り、持ち込んだ本を室内に隠したあと、二人はくすくすと笑いながら、王弟殿下の寝室続きのクローゼットへと、姿を隠した。
とまあ、そんな工作が自室のベッドルームで行われているなど、知るはずも無い王弟殿下は、食事を終えて、そのまま一階の露天風呂へと向かった。
王弟殿下の自室には無論浴室がついてはいる。だが、じじくさ……いや、日本人や古代ローマ人のように、大きなお風呂が大好きな王弟殿下は、そこで1日の疲れを取るのであった。
その間に、ソニアは王弟殿下の部屋へと戻ってきて、寝室に入りシーツを替えるためにクローゼットを開けて、そしてクローゼットに隠れているつもりの少年と少女と目が合う。
「あら、アリシティア様にレナート様。さっきの子猫達、本当にノミダニ駆除はできていなかったんですか?」
驚くことすらなく、さながら廊下ですれ違った時の気軽な会話のように、ソニアは問う。
何故二人がこんなところにいるのかとか、何を企んでいるのかとか、他に聞くべき事は沢山ありそうではあるが、そんな事など気にしないのが、ソニアである。
「あの子達はここにくる前に、ちゃんと魔女さんの薬を使って、お風呂にも入れてチェックしたから大丈夫だよ~」
「そうですか。なら、隣のお部屋の方には特別な掃除は必要ありませんね」
ディノルフィーノの答えに、ソニアは少しだけ垂れた目を細め、ほんわかと微笑んだ。そして、クローゼット奥の棚からリネン類を一式取り出して、二人を残したまま、クローゼットの扉を閉めて出て行った。
忍び込んでいるアリシティアからすれば、それで良いのかと思わないでも無いが、きっとそれで良いのだろう。
二人がクローゼットの扉の隙間から部屋を覗いていると、ソニアがリネンを交換しながら「あら」と小さな声をもらした。
彼女の手には、アリシティアとディノルフィーノが持ち込んだ、うすい本があった。
表紙には、透け透けの衣装を羽織った、女豹ポーズの妖艶な女性が描かれている。女性の年齢は四十代後半くらい。胸は大きく、重力に従順で、腰やお腹にはたゆたゆとした脂肪がついている。
ちなみにタイトルは、『熟女模様~完熟熟女の濡れ濡れ日記』である。
この世界で言うなら艶本。アリシティア的に言うなら、エロ本である。
ソニアはしばらく思案したのち、マットレスの下と枕の下から薄い本を取り出してひとまとめにし、リネン類を交換し、一冊ずつ綺麗に枕元に並べていく。
一通り並べ終わったあと、寝室の扉が開き、王弟殿下が髪を拭きながら入ってきた。
が、すぐさま異変に気付いた。
「ソニア、その本は?」
「閣下の寝台に隠してあった本です」
「は?」
王弟殿下は急いで寝台に走り寄り、枕元に並べられた本をみる。
「なんだこれは」
王弟殿下が急いで手に持った本は、『人妻熟女は、大きいのがお好き』だの、『豊満熟女と結婚する方法』だの、『荒馬と熟女』など、見事なまでに、熟女オンパレードである。
流石の王弟殿下も、フルフルと肩を揺らし、怒りの声を上げた。
「出て来なさい、アリス、レナート!!」
怒気を含んだ声が響くと同時に、クローゼットの扉が開き、パンという破裂音と共に、クラッカーの紙吹雪が舞い散った。
「「ハッピー アーリー バースデー」」
「は?」
ふたりの言葉に一瞬唖然とした王弟殿下に、ソニアが横から、「明日は閣下のお誕生日ですから」と付け加えた。
「お誕生日プレゼント、第三弾です」
アリシティアの言葉に、王弟は続けるつもりだった言葉を飲み込んだ。
つまり、大量の砂糖入りの希少なコーヒー豆を使ったコーヒーも、大量の子猫も、この大量の熟女本も、全ては部下からの日頃の感謝を込めた誕生日プレゼントなのである。
それは誕生日プレゼントという名の、嫌がらせだろう、……などと言おうものなら、どうなるか。王弟殿下はソニアを見てぐっと耐えた。ここで何か言えば、アリシティアとディノルフィーノに泣き真似をされ、先ほどの二の舞になる。
確かに、コーヒーは王弟殿下が好んで飲んでいる物であり、子猫は王弟殿下自身が『大好きだ』と断言した。だがしかし。王弟殿下が口を開く前に、ディノルフィーノが本のチョイスについて、説明を始めた。
「この本はねー、じーちゃんが王弟でんかの好みの女の人を選んでくれたの~。王弟でんかは、昔からお胸もお腹もお尻もたぷんたぷんの、ちょっと垂れ目で童顔で、完熟した豊満な熟女が大好きだから、これなら絶対喜ぶって。じーちゃんの太鼓判つきだよぉ」
ちなみにディノルフィーノのじーちゃんとは、前世、アメリカ軍人の記憶を持つ転生者である。そして、彼らの文化は無修正で、過激。ついでに言うなら、表現方法も直接的なものを好む傾向にある。そんな訳で、ディノルフィーノの祖父が選んだ本は、たぷんたぷんのお肉以外にも、くぱっと開かれた部分には、ぴらぴら濡れ濡れが、がっつり精密に書き込まれている。
「────へぇ?」
ソニアの低い声が、室内に響いた。誰もが身震いする程に、室内の空気が一気に冷えた気がした。
途端、危険を感じたアリシティアとディノルフィーノは、視線を合わせ、互いに頷く。そして、王弟殿下に向かい、ぐっと親指を立てた。
「「アスタラビスタ ベイビー」」
同時に、室内にボンっと、いう破裂音と共に白い煙が充満する。
「くそ。あいつら……」
煙の中、王弟殿下は咳き込みつつも、窓を開ける。だが視界が開けた室内には、案の定アリシティアとディノルフィーノの姿は無かった。
室内に残ったソニアは、無言のままじっと手元に視線を落としていた。そこには、自重に耐えきれずにお腹近くまで垂れた巨乳女性が、M字開脚する表紙の、『熟女の浮気~熟女の蜜穴は、今日も濡れ濡れ~』なる本が握られていた。
その夜、王弟殿下の部屋からは、「違う」「誤解だ」「信じてくれ」などという叫びが聞こえたとか聞こえなかったとか。
その後しばらく、邸の使用人達の間では、『王弟殿下は熟女がお好き』という噂が広まったというのは、また別のお話。
数日後、草木も眠る丑三つ時。
アリシティアとディノルフィーノは、真夜中の広大な墓場で抱き合って、泣きながらぶるぶると震えていた。
墓の前の地面が盛り上がり、アンデッド化した死蝋化遺体が、二人の目前に這い出してくる。
「いやぁーーー!!! ノル、なんとかしてーー!!」
「なんとかって、何したらいいの?!」
「こいつら殺してーーーー!!」
「殺せって言っても、もう死んでるってば!!」
「やーーー!!!!」
一週間程前、どこぞの塔の6階に住む錬金術師が、何かの実験に失敗して、この墓場の死人が夜な夜な墓穴から出てきて、気ままに歩き回るようになってしまったらしい。だが、元々が死人なので、殺す事も出来ず、かと言って遺体を傷付けた所で意味もなく…。広大な墓地から、アンデッドが勝手に外に出ないようにするのが、彼らのお仕事だ。
「こんな事が民に知られては、国中がパニックに陥ってしまうからね」と、王弟殿下直々の、極秘任務である。
「おれ、知ってる! じーちゃんが言ってた、こいつら生きてる人間の脳みそ食べるんだ。それで脳みそ食べられたら、こいつらとおんなじ、生きた死体になっちゃうんだ!!!」
「いやーー!!!」
その夜、朝日が昇るまで、墓地にはアリシティアとディノルフィーノの悲鳴と喚きが響きわたっていた。
そんな二人の姿を、墓地内礼拝堂の屋根の上から見下ろす、プラチナブロンドの黒衣姿の青年が一人。「馬鹿すぎる……」などと、二つの満月を背に、美貌の青年は呆れ混じりに呟いていた。
無論、アンデッドから泣きながら逃げ回っていたふたりは、そんなことには気づかないのであった。
翌朝、アリシティアとディノルフィーノが、号泣しつつ王弟殿下の両足に縋りついて謝ったのは、いうまでもない。
おわり。
────────────────
※アスタ ラ ビスタ ベイビー
映画ターミネーター2で、めちゃ有名になったフレーズ。
スペイン語で、また後でねとか、さよならとかいう意味(確か)
映画ファン的には、親指を立てるのが基本(多分)
ちなみに、この国では賢い人に英語は通じるが、スペイン語は通じない。
※本編やSSで、古い映画のフレーズなどをアリスやノルが使っている時があります。
もし気づいたら、くすりと笑ってやってください。
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ムーンライトノベルズさんの方で、公開していた短編が、久々に丸一日以上総合ランキング一位を頂きました。向こうで読んで下さった皆様には感謝します。
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