【完結】よくある異世界の、とことん不毛な私の婚約事情。〜無口でクールな美形婚約者候補の頭の中には、どエロい事しか詰まってなかった〜

つゆり 花燈

文字の大きさ
5 / 8

私が転生した異世界の性事情

しおりを挟む


 夕闇の下、走る馬車の中でフィオレンティーナの隣にはレオナルドが座り、相変わらずの無表情で彼女を見下ろしていた。

 レオナルドはフィオレンティーナの唇を二本の指でそっと撫でると、おもむろに指示する。

『フィーナ、口を開いて』

  レオナルドの言葉にしばしの思案の後、フィオレンティーナは素直に唇を開く。そんな彼女の口の中に、レオナルドは自らの指を滑り込ませた。

『んっ…』

 フィオレンティーナは彼女の口内を愛撫するかのように動く指に、恍惚とした表情でゆっくりと舌を這わせていく。そして蠱惑的な上目遣いでレオナルドを見つめ、彼の瞳の中に情欲の熱を見つけた。フィオレンティーナは上目遣いのままで、おもむろにレオナルドの指に軽く歯を立て、視線だけで彼を誘惑する。
 そんな彼女の行動にレオナルドは一瞬眉を潜め、その口から指を抜きとった。

『突然噛むなんて、悪い子だな』

 レオナルドはもう片方の手で、フィオレンティーナの左手をとり、己の口元にもっていく。そのまま彼はフィオレンティーナの薬指の根本に噛み付いた。甘い痛みに小さな声を漏らしたフィオレンティーナを見て、レオナルドはほんの僅かに口角をあげた。


『んっ…。レオナルド様ったら、今私の薬指に歯形をつけましたわね』

 レオナルドを睨むフィオレンティーナの頬を、そっとレオナルドが撫でる。

『先に仕掛けたのは、君だ。それに君の指が寂しそうだったから、指輪代わりに俺の印をつけただけだ』

 レオナルドはフィオレンティーナの手をとり、薬指の歯形に淫靡な視線を落として、その上に軽く、けれどとても甘いキスを落とした。




 ──── くっ! 良い!!

 今のこの男の妄想は、私の乙女な性癖に、見事につき刺さった。

 いや、いやいや。冷静になれ、私。今のは絶対にたまたまだ。私の性癖と一致した訳では無い。
 いくら好きでも、顔がどれ程好みのタイプでも、セックスの相性だけはどうにもならない。相手が好きなら耐えられる?いや、どう考えても無理だろう。
 特殊性癖まで愛せる程に、私のこの男への愛は深くはない。私の愛は常に私自身に、重きを置いているのだ。




『ねぇ、レオナルド様。いつも私ばかり貴方に振り回されていて、不公平だと思われません?』

 フィオレンティーナは隣に座るレオナルドの足の間に手を伸ばし、太ももにそっと手を置いた。


 ──── ほらね、やっぱり!!


 上目遣いでゆっくりと足をなぞり、やがてスラックスの中央に触れる。僅かに力を持った膨らみを指先で辿れば、レオナルドは堪え切れないというように、吐息を零した。

『フィーナ…』

『気持ち良いですか? レオナルド様のここ、反応していらしゃいますね』

 フィオレンティーナの声に呼応し、レオナルドの下半身で雄を象徴する熱が、固さと大きさを増していく。

『フィーナ、……今は駄目だ』

 レオナルドがフィオレンティーナの手をどかそうとしたものの、フィオレンティーナは手のひらにあたる屹立を、スラックスの上から握りこむ。

『くっ……』

『まぁ、こんなに固く…。お辛いのでしょう? どうか私に、貴方を慰める許可を頂けませんか?』

 レオナルドの足の間に跪いたフィオレンティーナは、彼の目を見上げながら妖艶に微笑んだ。

『仕方がない。少しだけなら…』

『ありがとうございます』

 レオナルドはいつものような無表情だけど、どこか苦しそうにフィオレンティーナを見下す。スラックスの上から兆した膨らみに軽く口付けしたフィオレンティーナは、頬を緩めながらレオナルドの前をくつろげる。下着を引き下げれば、既に固く漲った赤黒い棒が勢いよく飛び出した。

『あら、ここはレオナルド様の意思とは違い、私にして欲しくて、待っていらしたようですわね。ふふっ、美味しそう』

 フィオレンティーナは嬉しそうに微笑み、彼の先走り液に濡れた先端に、そっと唇を寄せ……





「レオナルド様!!」

 唐突に私は声を上げる。同時に私の脳内で展開されていた映像が、一瞬にして掻き消えた。

「何か?」

 レオナルドは相変わらずの無表情……というか、僅かにアンニュイな表情で、前髪をかきあげている。とても蠱惑的で、無性にエロい。が、目の前の乙女にフェラをさせる妄想をしているような顔ではない。


 ──── 『何か?』じゃねーよ!!このマグロが!!処女に何をさせる気だ!!

 思わず口に出しそうになる文句を、何とか飲み込む。
 やっぱり最初の妄想にグッときたのは、ただの気のせいだ。

 
 そう、私が今見た光景は、目の前の無表情マグロ野郎の、いつもの妄想である。
 今日も今日とて、自称魔女に貰ったピンクの小粒ちゃんは、しっかりとお仕事をしていた。

 ──── いつまで効くんだ、この薬!

 今夜もこの男の頭の中は、いつも通りエロで埋め尽くされているようだ。

 だが、いつもとは一味違う妄想を止める為に、私はつい声を出してしまったのである。
 本心ではこのまま文句の一つも言ってやりたい。やりたいが!!
 レオナルドの脳内プライバシーをガン無視で、勝手に妄想を覗き見している立場では、何も言えない。言えないけど、言いたい。

 私は引き攣りそうになる頬に、さりげなく手を当てた。私は何とかこの男の妄想をとめるべく、当たり障りのない言葉を探す。

「今夜のマクレガー公爵家の夜会、楽しみですわね。お友達も招待されていらっしゃるのでしょう?」

 レオナルドの妄想とは違い、対面の椅子に座っている私は、痙攣しそうになる頬を手のひらで押さえ、ほっと息を吐き、うっとりとしたような微笑みを浮かべる。瞬間、レオナルドの喉仏が揺れた。

「……ええ。近衛の友人や幼馴染も招かれていると思いますので、もしも会場で会った時には、是非紹介させて下さい」

 レオナルドは珍しく口角を上げ、穏やかな笑みを作ってみせた。同時に、彼の心の声が響く。

『あいつらの姿を見かけたら、全力で逃げてやる』

 
 ──── はぁ? 当て馬の私如きを、お友達には合わせたくないって事?!

 思わず殴りたくなるが、マナー違反どころか、脳内盗聴、盗撮?みたいな事をしているのは私なので、ここは何とか耐え、エロを連想させない会話を心掛けた。


 私はここ数日、どうすればこの男の婚約者候補から外れる事が出来るのかを、真面目に色々と調べたのだ。自称魔女のオネェさんの言う通り、目の前のこの男は王女殿下の婚約者候補だった。
 
 だが、婚約者ではなく候補でしかないのは、この国は女性も王位継承権を持つ事に起因する。どうやら王女を降嫁させず、女王にしたい派閥の思惑もあり、王女の結婚は簡単には決まりそうにもない。
 そんなわけで、王女の国内での第一婚約者候補であるレオナルドもまた、王女のお相手が正式に決まるまでは、婚約も結婚もできないようだ。
 だからこその、私のような婚約者候補スペアが必要ということだろう。


 などと考えていた時。レオナルドと私の視線が合い、レオナルドがわずかに目を細め口角を上げる。私はそれにつられて微笑みそうになったのだが……

『今日のフィーナは、なんかいつもにも増してエロいな。このまま俺の膝の上に跨がらせて、ガンガン腰振らせたいな』

 なーんて心の声が聞こえてくる。もはやお約束の展開といえよう。しかも、この男の上に乗るのも腰を振るのも、やはり私の役らしい。

 本当にやめてくれと言いたい。この男の妄想の中はともかく、現実の私はバリバリの処女だ。前世から続く鉄壁の処女膜は、もはや、鉄の処女と言っても過言ではないはずである。
 だからこそ、妄想の中とはいえ処女である私に気を使って、最低でも自分で腰をふる努力くらいしてほしいものだ。


『できれば今夜は酔っ払って、俺にドエロい感じで迫ってくれないかな』

 ……などという脳内の声と共に、立ったままドレスを捲り上げ、見せつけるように下着だけ脱ぐ私の姿が。いや、どんな痴女だよ。
 ちなみに妄想の中の私は、パニエを付けてないようだ。まあ確かに、パニエあればもごもごして、そんなエロい感じにするりとぱんつは脱げんよね。


 ──── って、私の方から迫るのか? お前、そこも受け身なのか!!このマグロが!!

 しかしながら、この男本当に表情と思考が乖離し過ぎている。その上ちょっとでも会話が途切れると、すぐエロい妄想を始める。しかも受け身。めちゃくちゃ受け身。そしてマグロ。

 男のマグロなんて絶対いやだ。とは思うが、この世界…と言うか、この国のセックスは、キスして前戯無しで突っ込んで三十回位腰振って終わり…なんてのが、スタンダードらしい。らしいというのは、そう習ったから。
 淑女教育係のロッテンマイヤーさんが、指で眼鏡をクイっと上げながら『三分です。三分の我慢ですよ』と、言った時の衝撃を、どう言い表せば良いだろうか。

 まさに晴天の霹靂。
 


 前世、私は官能小説…というか、R18なTL小説のような恋愛を夢見ていた。だからこそ、せっかく異世界転生したのなら、めくるめく官能の世界へようこそ…みたいな、ひたすら求められてイチャラブしたいと思っていたのだ。にも関わらず、私の小さな願望はあっけなく崩れ去った。

 よりにもよって海外ドラマの、いきなり突っ込んで三十回腰振って、以上、終わり!! みたいな世界だったとは。

 私の落胆はいかばかりか。

 異世界転生におけるよくある話といえば、真っ先に出てくる単語が『溺愛』の筈ではなかったか?!女性転生者の場合、『溺愛』無くして異世界物は語れない筈である。そしてその『溺愛』にもれなくくっついてくるのが、『朝まで寝かせない』からの、ドロドロに蕩かされて、賢者タイム無しで何度も求められ『めくるめく官能の世界へようこそ』みたいなのが、標準装備でなければならない。

 にも関わらず、異世界転生における最も『良くある話』が抜けているなど、誰が思うだろう。
 愛の営みが、たったの三分で終わる世界であれば、私が愛ではなくお金と結婚しようと決意したとして、誰に責められようか。

 しかも、私の婚約者候補は、淫語好きなドエロいマグロ。細マッチョなのに、全くそれを有効活用しないマグロなのだ。


 ──── 私、この世界の神様に文句を言っても良いかな?




 などと私が自分の思考に浸っていた時。レオナルドからリアルな声をかけられた。

 「フィオレンティーナ嬢?降りないのですか?もしかして、気分がすぐれませんか?」

 「え??あ、いえ、申し訳ございません。少しぼんやりとしておりました」

 レオナルドのくっそえろい心の声や妄想が聞こえないと思ったら、いつの間にか馬車は目的地についていた。男はスマートに馬車の扉の前で、私に手を差し出している。
 私の顔が思わず赤くなる。やっぱりめちゃくちゃ好みだ!!

 ……心の声さえ聞こえなければ。

 そう。こいつの妄想と性癖が、全てを台無しにしている。
 私は思わず嘆息したくなった。

 けれど、そんな諦めモードの私は、この後すぐに、文句を言った神様に謝罪する事となるのであった。



 レオナルドにエスコートされた私は、これでもかと言うほどに贅を尽くしたシャンデリアが輝く豪華な夜会の会場に入った。
 だが、中に入ってすぐにレオナルドの無表情がほんの一瞬崩れたのを、私は見逃さなかった。その視線の先を見た私は、自然と息を呑んだ。
 ドキドキと存在を主張する心臓を押さえて、沢山の人の注目を集めている場所を凝視する。

 私の視界に真っ先に飛び込んで来たものは、美しく煌めくピンクの髪だ。

 そこでは、まさに私が待ち焦がれていた、『よくある話』が展開されていたのである。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...