上 下
10 / 18
何やら様子がおかしいターゲット

10話 王子様だった者

しおりを挟む
もう11年も前のことだっけ
僕が裏ルートで売られたのは



僕は18年前、シソーラスの王家で産まれた
僕の母親は正妃だったけど、不妊や民からの不評のせいで側室になったらしい
なんとか王子を産まないと側室ですら居られない状況で僕が産まれた
……その瞬間から、僕は姫では無く王子になった
その時の名前が『シード・トゥ・シソーラス』
国王である父との記憶は全く無い
もし性別を偽ってると知られたら罪人になってしまうから
僕は6年間隠されていた

思えば、産まれた時から僕は男装していたんだな
ドレスなんて一度も着たことない


11年前のある日、とうとう母様が壊れた
いや、娘を王子と偽る時点で壊れてはいただろう
それでも、僕と侍女だけを連れて城を出て行くなんてことをした
侍女を連れて行った理由は、1人じゃなんも出来ないから
僕を連れて行った理由は……お金のため
城を出て行くにも大した財力の無い母様は僕を売ること前提で僕を連れて行った
結果的には大儲け
金貨をジャラジャラと鳴らしながら僕を大人に渡して立ち去った


その一年後に僕はとある研究所のモルモットとして連れて行かれた
研究所では点滴を打ちながら過ごしているだけ
それでも何度も死にかける程に危険で…苦しかった
そんな時だった
1人の少年に出会ったんだ
彼の名前はレイディン
僕と同じでは無いけど、濃い紫の瞳をしていた
同じ紫の瞳だと言うだけでどこか身近に感じるほど世間を知らない僕に、彼は言った

「妖精みたいだ……」

金髪と大きな瞳の僕が物語の妖精みたいに映ったらしい
その出会いをきっかけに、僕は名前を変えた
幼かった僕にとって『シード』として生きた時間は長く感じた
だから、全てを変えずに『エルシード』とした
妖精の別の呼び方がエルフだと聞いたから
『エルフシード』じゃ長い
なら『エルシード』にしよう
なんて簡単な理由
共に過ごして仲良くなったレイディンを兄として慕い、苦しい時もなんとか2人で耐えてきた


9年前に研究そのものが取り押さえられるまで
どこからか研究が明るみになり、僕達は被験体じゃ無くなった
でも薬に対応しきれなかった僕の体は、世に出ることは出来ない
気を抜けばいつ化け物になるかも分からない意識で表に出れないことは幼いながらに分かっていた
だから僕だけは裏社会で生きるしか無い
そう思った時にお兄ちゃんが僕についてくると言った
僕を1人にしたく無いと、守りたいと

たった1人、『僕』を要る子だって言ってくれたお兄ちゃん
2人で研究所から盗んだ情報を元に暗殺組織に参加した


1.2ヶ月に一回でも殺しか戦闘をしていれば衝動は起きない
僕は積極的に仕事をこなした
報酬だってあったし、仕事なら殺しも不思議と怖くなかったから
でも、僕は最近になるまで知らなかったんだ
この組織の最奥で行われてることを




僕は組織に自分の血液を提出していた
『解毒薬の開発のため』
『殺人衝動を抑える方法を探すため』
親身になってくれる大人たちに頼って、僕は自分のために血を与え続けた

でも、それは研究のためだった

よく考えれば分かることだ
僕達に与えられた毒の解毒方法を調べれば、この毒の正体も研究者達は知ることになる


一度明るみに出て抑えられた研究を、この組織でも行なっていた
それを知った時は怖かった
僕よりも全然幼い子供や小動物まで被験体にされていたから
それでも大人たちは知っていた

今更僕が協力を辞めないことを

血液の提供は研究材料を与えること
新たな犠牲者が出ると分かっていても、確かに僕は薬のおかげで暴走を止められる
僕は、僕のために被験体を見捨ててしまった


それでも僕は考え続けた
本当にこんな事をしていていいのか、と
良い訳が無いのに

そんな事を考えてしまったからなんだろう
僕が捨て駒としてここに送られたのは
裏切り者は処分される
裏切りそうな奴も処分される
自分の行動に疑問を持った時点で僕は処分の対象だったんだ



そんな事も知らずに、僕は言われた通りにアイリス様を殺すためにこんな所まで来てしまった
しおりを挟む

処理中です...