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何やら様子がおかしいターゲット

11話 得た1日

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僕の過去を教えた
教えてしまった…
僕がロクな生き方をしてこなかった自覚はある
気付いた時には今更だったけど

それを知っても、アイリス様は僕を抱きしめた
優しく、暖かく

「教えてくれてありがとう。辛かったよね、私には想像出来ないほど…」
「…僕は、死の苦痛を受けても蘇る方が苦しそうに感じるよ?」
「私?そんな事ないよ。私は過去3回死んだけど、その内の2回は大切な人を守ってだったから。恐怖も苦痛も無かった。私はずっと、眠ってただけだ」


僕もアイリス様みたいに、自分の傷を誇れるようになりたい
そんな強い心が欲しい
…そんな強いアイリス様が欲しい




「そうだ、もう一つ報告があったんだ」
「報告?」
「そう、シード以外の唯一の生き残りについて。弟が命をかけて助けたらしい」

唯一の生き残り?
誰だろう…
『最恐の神子』が命をかけて助けたって…
もしかして…いや、それは都合がいい?
でも、神子カメリアと接点があるのはお兄ちゃんの筈……

「黒髪でガタイのいい男性らしい。よくある特徴だけど、もしかしたら知ってるかもと思って」
「え…嘘、本当に………もしかしたら……!あの、その人と合わせて欲しい!もしかしたら僕の兄かもしれないの…!」


そう頼むと、アイリス様はすぐに連れて行ってくれた
案内された部屋に入ると、青い長髪の人がいた
特徴からして恐らく第二王子
そして、その部屋のベッドに医者と思われる人が集まっていた
近付いてベッドに横たわる人を見ると、確かにそれは兄だった

「ぁ……お兄、ちゃん………?」
「失礼、貴女は?」

震える僕に声をかけたのはラディクス王国第二王子アスフォデル
僕に明らかな敵意を向けている

「僕は…エルシード。レイディンの、この人の妹です。兄に何があったんですか……?」
「私も詳しいことは分かりません。気になるようだったら本人かカメリアが目覚めた後に直接聞いてください」

神子カメリア…
今はお兄ちゃんもカメリア様も昏睡状態らしい
お兄ちゃんは……損傷が酷い左腕を切り離すことになってしまった
カメリア様が眠ったままなのは原因が分からないらしい
でも…お兄ちゃんが生きてて良かった


「アスフォデル、彼をどうする気だ?」
「おや、アイリス様もいたのですか。彼をどうするかはカメリアが目覚めてから決めますよ。でも特に何も無いと思いますけどね。ところで……」

第二王子は僕に視線を向けた
組織の生き残りの妹だと伝えた以上、僕が何なのかも分かっているのだろう
警戒されて当たり前

「あぁ、紹介しよう。彼女はエルシード、私の恋人だよ」

アイリス様は、僕が第二王子に向けられた視線を気にしてると気付いたのだろうか
僕の顔を隠すように抱きしめた

「彼…レイディンだったか。の、様子は私達の方にも伝えてもらうよう医師によろしく伝えてくれ」
「自分で伝えたらどうです?」
「ならシードを怖がらせないでくれ」

あ、やっぱり全部気付かれてたんだ
すぐに第二王子から謝られたし、本当にアイリス様は王子様みたい
優しくて強くてかっこいい



この日、僕はアイリス様の恋人となり、眠ったままの兄との再会を果たした
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