【完】性依存した末の王子の奴隷は一流

輝石玲

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4.奴隷以上、人間未満

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 ある日の夕方のこと。午前中に授業を終えてから不機嫌なアスラは兄の所へと向かっていた。沢山兄弟がいる中で、母親が同じなのは第三王子のアレンだけ。アスラが唯一関わった事のある兄弟だ。
 しかし、それは幼少期のこと。今ではアレンともあまり関わっていない。


「あ、いた。アレン兄様……。」
「なんだアスラ、私はお前と違って忙しいんだ。その邪魔をする程の要件なのか?」
「っ、その……それは…………」
「なら後にしてくれ。全く………。」


 アスラは用を告げることすら出来ずに跳ね返されてしまった。

 アスラとアレンの母親は貴族では無く娼婦の出だ。アレンは第三王子と高い立場であり、他の兄弟に負けないよう必死になっている。何もできないアスラは、他の兄弟や両親にすら目を向けられることは無い。



 部屋で掃除を続けていたマルス。突如部屋を後にして直ぐに戻ってきたアスラに疑問を持っている。何をしに行ったのだろうかと。しかし立場が違う以上は深入りしてはいけないと。だから決して、遠い目をしたアスラに自分から話しかけなかった。


「……マルス、着替えを。」
「分かりました。」


 マルスは気付いていた。毎週決まった日はアスラは入浴せずに眠ること。その日はアスラに笑顔は無く、自身の奴隷すら遠ざけて1人になろうとする。着替えを用意するだけで、いつものように着せることは無い。それが何を意味するのか、マルスは勘付いていた。


「お前、何で何も聞かないの?」
「……何をですか?」
「ここに来てだいぶ経つのに、違和感に気付いてすらいないの?」


 そんな筈が無い。しかしマルスは自身に対して奴隷としての認識が強いため、主人の私情に決して口を出さない。まるで、自身を主人と同じ人間では無いとでも思っているかのように。


「……そうだよな。お前はずっと命令だけ。」
「申し訳ありません…?」
「思ってないことを言うな。『命令』に『ご機嫌取り』、お前の場合は『利用』もか?どいつもこいつも………!」


 不思議といつも以上に感情を制御出来ていないアスラ。怒りを全面に出した顔にはうっすらと涙が滲んでいた。


「アスラ様?」
「なぁ、お前言ってたよな。『自分で考えるのが苦手だから奴隷になった』って。それってさ、お前自身の事を決めるために僕が利用されてるって事だよな。」


 ベッドに座るアスラの元に着替えを運ぶマルス。アスラの言葉の意味が分からず、いつも通りに淡々と仕事をこなしている。アスラの横に着替えを置くと、力一杯に胸ぐらを掴まれた。


「お前もそう…なんだろ?お前に必要なのは僕じゃない。他の奴らが『王子』を必要とするみたいに、お前は『主』が必要なだけ……!」


 アスラは胸ぐらを掴んだままマルスをベッドに押し倒した。本来ならその程度マルスは抵抗できる。しかし素直にされるがままに倒された。




「マルス、最後の命令だ。…奴隷を辞めろ。」




『出ていけ』でも『消えろ』でも無い。この命令は、マルスが完全に奴隷という身分で無くなるようにという意味。それはマルスにとって生きたまま死ぬ事と同意。奴隷としての生き方しか知らないマルスへの罰のようなもの。


「…分かりました。」


 しかし、その最後の命令にマルスは従った。あとは正式な書類を作って追い出すだけ。………の、筈だった。

 マルスの返事の後、アスラはそのままベッドの上で三角座りをした。どうやら泣いているようだ。呼吸が大きく乱れ、声も体も震えている。


「もう…いやだ……。なんで…僕は、何のために…生きて……産まれて………。あぁ…はやく、はやく死にたいよ………。誰でもいいから、殺してよ………。」


 自死すら出来ない臆病なアスラはずっと震えていた。これはマルスが来る前から何度もなった事だ。産まれた時からの悩み。自分の存在の必要性。本当の生きる屍はマルスでは無くアスラの方だった。
 そんなアスラを見たマルスは……


「全く、鈍感にも程がありますね。」


 マルスは、うずくまるアスラを押し倒した。


「え……?お前、何を………?」


 困惑するアスラを無視して、マルスはアスラの首元を強く噛んだ。ようやく口が離れると、歯形がしっかりと残っているのが見える。


「マルス!何をしてる!こんな……んっ!」


 何も言わず、ただ騒がしいアスラの口を唇で塞いだ。そのまま舌が絡み、アスラの唸り声は段々と高くなっていった。


「んん~っ!……っは!はぁ、はぁ……。何を、してるんだ!」
「私はもう奴隷で無いんでしょう?なら貴方に従う必要もありません。」
「何を言って……って言うか、お前、自分の事は自分で決めれないんじゃ………?」
「苦手なだけです。」


 間違えた認識を訂正した所で、マルスは口付けを再開させた。何度もしつこく口内を舐められ、ようやく離れる頃には惚けた顔をしていた。


「そう言えば、キスは初めてしますね。」
「ゃ、やめっ…んっ、んんっ!」


 口付けながら慣れた手付きで服を脱がせるマルス。傷一つない綺麗な体に、青あざが目立っていた。あざに軽く触れると、アスラは小さな悲鳴を上げて震え出した。


「やだ…やだぁ………」
「まさか、私が貴方に傷を作るとでも思ってるんですか?……そう言えば、先程噛み跡をつけましたっけ。」
「痛いのやだ………」
「落ち着きなさい。これからするのは痛いことでは無く気持ちいいことですから。」


 マルスはずっと萎えたままのアスラのにそっと触れ、少しずつ小さく刺激を与え始める。じわじわと来る快楽に、段々思考が溶けていく。


「あっ…うぅ……、…っは、やだって…、あぁっ、んっ…♡」
「嫌?自分で腰振ってる自覚あります?」


 何とか抗おうとしても、快楽に依存しきっているアスラは無意識に媚びてしまっている。言葉で抵抗しようとしても、甘い声は止まない。


「あっ、あっ……だめっ、いく、でるっ…!やっ、やぁ……!」


 足をバタつかせ、必死に抵抗しようとするアスラ。しかし、力でマルスに敵うはずも無い。唇を噛んで絶頂を我慢している。が、マルスは急に強い刺激を与え、我慢の意味無くアスラは果てた。


「はっ……、なんで、こんなこと……」
「本当に酷い人ですね。まだ気付かないのですか?」


 マルスは血が滲むアスラの唇を舐めて、そのまま深く優しいキスをした。


「私に必要なのは確かに『主』です。ですが…その主がアスラ様、貴方がいいと思うのは迷惑ですか?身の程知らずと私を突き返しますか?」
「そんな…嘘だ。だってお前、何しても無反応だったじゃないか。媚薬を盛った時だって、全然理性残して、僕ばっかり…。」
「たかが薬でしょう?そんな物に振り回されて貴方を傷つけようものなら奴隷なんかやってられませんよ。」


 全てはアスラのため。深入りせず、求めるまま応じたのは全てアスラの意志を尊重しようとした結果だ。しかし、今のアスラは誰の言葉も信じられない。


「そんな言葉並べられたって、信じられるもんか…。」
「……そうですよね。なら直接体に教え込むしかありませんよね。」
「………は?」


 マルスは指をアスラの肛門に入れた。マルスの指すら覚えたアスラの体は、求めていたものが来る感覚に過剰に反応している。直ぐに飲み込む動きを始め、きゅうきゅうと締め付けている。そのまますんなりと深くまで入った指は、的確に前立腺を押した。


「はっ…あ……♡こりこり、きもち……♡」
「出したばかりでもう垂れてますね。本当に…どうしたらこんな快楽に弱い体になるんでしょうか。」
「しらなっ……あっ♡あっ…でる……♡でっ…あっ………♡」


 何度も指で絶頂させられたが、アスラは段々と物足りなくなってしまう。指は器用に気持ちいいところを刺激出来るが、大きさが足りない。息もできないような圧迫感で犯され続けた体は貪欲になっていた。


「マルス、も、指やだぁ…」
「知ってます。私を貴方の奴隷に戻してくれるなら犯してあげますよ。でなければ貴方に従う必要はありません。」
「なんで、そんな…あっ!また、やだぁ……♡」


 アスラは内股になってガクガクと震えている。腰を高く突き上げ、空を打つ。先端からは先走りが精液のように飛び出し、今にも絶頂しそうだとすぐにわかる。


「あっ、あっ…だめ♡あっ?ちがっ!やだっ…!」
「……?」
「やめっ、でちゃう…!ちがうのっ、おしっこ、でちゃ……!やっ、やらっ!」


 射精感と同時に来てしまった尿意。アスラは何とか抵抗しようとマルスを足蹴にした。が、その時動いた衝撃で、アスラは絶頂した。


「あっ、あっ……やだ、見るな……!」


 なんとか膀胱に力を入れて耐えたが、一部耐えきれなかった分が漏れて伝っている。しかし、ここまで来ると尿意が収まるまでトイレに行くことすら出来ない。幸いなことに直ぐに尿意は収まり、マルスを無視してトイレに行こうとする。が、マルスは後ろから抱きしめて止めた。


「離せっ!」
「……逃しません。」


 トイレには鍵が付いている。そのまま閉じこもる可能性があるのだ。しかも実際にアスラはトイレに逃げようとしていた。


「やだっ、本当に漏れる…。」
「そうは言っても逃げるでしょう?」
「逃げないから…お願い、行かせてよ……。」


 とは言え逃げない保証は無い。結局2人でトイレに入った。


「見るな…、恥ずかしい。」
「いいから早くしたらどうです?」
「この変態!」
「知ってます。」
「へ………」


 変態を否定しないマルスに一瞬戸惑った。自ら望んで奴隷になった結果、歪んでしまったのだから仕方がないとマルス本人はそこまで気にしていないが。


「…まだですか?」
「だから、見られて恥ずかしくて出来ないって……。」
「仕方ないですね。」


 マルスはアスラの張ってる下腹部を押した。膀胱を押され、条件反射でアスラは我慢してしまう。王族のプライドなんてものが今更になって意識してしまっている。


「あっ、やだ…」
「何我慢してるんですか。」
「ひっ、押さないで…。」


 頑なに耐えるアスラに、マルスは容赦なく刺激を与える。お腹を押しても耐え続けるアスラに、今度は後ろから押し始めた。肛門に指を入れて前と後ろからぐりぐりと圧迫され、耐えきれなくなったアスラは放尿した。


「あっ、はっ…………。」
「軽くイってません?」
「……?なんで、おしっこしてるだけなのに、射精するみたいに気持ちい………」


 息を切らして惚けるアスラを見て、マルスはお尻に入れたままの指を動かした。


「あっ…!?やだっ、また…♡」
「……アスラ様、良いんですか?指だけでは足りないのでしょう?」
「んっ、ほしい…♡おねが、ちんちん、いれて……♡」
「駄目です。私を奴隷に戻さないなら、してあげませんよ。」


 マルスはずっとそんな取り引きを言い続けているが、彼も既に限界が近い。アスラがマルスに犯されたがってるように、マルスもアスラを犯したいと思っている。期待と興奮は既に高く、マルスの体もずっと限界ギリギリだ。


「やだ、奴隷は、やだ……」
「そこまで嫌ですか?」


 常に感情を表に出さないマルスが怒った。指を一度抜き出し、2本から一本に減らしてもう一度中を弄る。ただでさえ物足りない刺激が更に減り、もどかしさだけが増していく。


「やだ…奴隷じゃなきゃ、だめっ、なの……?」
「はい?」

「マルス、好きなんだ…。奴隷はやだ、僕のものになってよ……」


 その言葉を聞いて、マルスは指を抜きアスラが求めていた物で最奥を一気に突いた。


「あ゛っ……!」


 やっと来た求めていた感覚を手に入れたアスラは、挿入だけで出さずに達した。お預けを食らっていた分、刺激は普段とは段違いで大きい。


「な…んで、僕、奴隷に戻すなんて、言ってないよ……?」
「知ってます。それでも…どんな形であれ貴方のものになれるなら、それでいい。」
「え…?あっ…♡」


 マルスはアスラの細い腰を掴んで強く速く打ち付けている。立ったまま犯され力の抜けたアスラは、壁に手をついて便器に跨ったまま吐精し続けている。
 マルスは後ろからアスラを抱きしめ、耳元で囁いた。


「アスラ様、愛してます。」


 その言葉を聞いたアスラは、腰を抜かすほどの大きな絶頂を迎えた。あまりにも急に強く締まり、マルスも同時に達した。


「今…まさか、愛してると告げたから絶頂したのですか…?」
「あっ……♡マルス、本当に…?本当に僕を……?」



 マルスは固唾を飲んでアスラをベッドまで運んだ。覆い被さり服を脱ぎ、マルスは無表情のまま…強い視線のままアスラを見つめた。


「嘘なんて言いませんよ。」
「ほんとのほんと?」
「…えぇ、もちろん。でなければこうまでして留まろうとしていません。」


 マルスは再びゆっくりと挿入した。繋がって感じる熱と鼓動が言葉以上に気持ちを伝える。アスラはマルスの首に手を回してキスをした。


「マルス…僕も大好き。愛してる…♡」
「……!」


 マルスは素直なアスラの言葉を受けて体を僅かに震わせた。


「え、マルス、なんでもっと大きく……」
「貴方のせいですよ。…今のはずるいです。」


 そう言うマルスは無表情のままだが、僅かに耳が赤かった。自身を道具だと思い過ごしてきたマルスにとって、道具以上に人として求められる事があるとは思っていなかった。道具として従うのでは無く、人間として求め求められることがあるのは完全に想定外だ。


「アスラ様、私を側に置いてくれますか?」
「マルス、僕の側に居てくれる?」
「質問に質問で返さないでくださいよ。……まぁ、私は既に貴方のものですから、捨てないでくださいよ?」


 そう言ってマルスは薄く微笑んだ。アスラからすれば、マルスの笑った顔を見るのは初めてだ。普段とのギャップに一瞬だけ困惑した。


「マルス、お前…笑えたの!?」
「そこですか?というか、私も自分で驚いてます。」


 奴隷としての振る舞いが染み付き、何かを感じて笑ったり泣いたりすることは無かったマルス。人間味が出たのはアスラに仕えてからだ。


「それより…いつまでお預け食らわせるんです?」
「え?あっ、あっ……♡」


 マルスはそのまま、アスラの望むままに抱き潰した。体力に明確な差があり、先にダウンして眠りにつくアスラを介抱するマルス。疲れ果て、幸せそうな顔で眠るアスラにそっと口付けて微笑み、囁いた。


「貴方は、私が居なければダメになればいいんですよ………。」


 重く深い感情を抱いているのは、マルスの方だった。
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