【完】天使な淫魔は勇者に愛を教わる。

輝石玲

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悪魔、人間の本拠地へ

33.勇者の役目

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 絵の中の悪魔が抱えているものが気になり、俺は一歩近付いて近くで見ようとした。


「イオリさん!絵に触れてはいけませんよ!」
「あ、あぁ。悪い。」


 触れようとはしていなかったけど近過ぎたか。団長に叱られてしまった。結局よく見えなかった。少しでも多くの情報が手に入れば何か分かると思ったが、無理そうだ。




 そういえばもう一枚気になる絵があったんだ。少し離れた端の方にある絵画。

 ……絵画、と呼んでいいものだろうか。一面真っ黒に塗られた物があった。サイズもそこまで無く、よくある絵画のキャンバスくらいだろうか。
 しかしよく見ると、黒く見えるだけで色が混ざっていた。部分ごとに色味が違う。赤茶のような場所もあれば青紫のような場所もある。まるでたくさんの色をぐちゃぐちゃに塗りたくったような。そんな絵。どうにも引き込まれる。

 真っ黒な絵を見ていると、団長がこちらに来た。


「その絵だけ特殊ですよね。天使マイヤ様は基本的に実際に見たものを描くと言われています。ですが、それだけは物や風景では無く単色。一部のマイヤ様ファンは、この絵だけ別の天使様の作品では無いかと噂しています。」


 確かに、他の絵に比べて随分と雰囲気が違う。
 それにしても『天使マイヤは実際に見たものを描くと言われてる』か。だとしたらあの天魔大戦の絵は実際の光景?
 どうしても気になってしまう。




 一度全ての絵を見終わった。ここには無い絵画もどこかに展示か保管されてることだろう。ミカの目的の絵は一体どれだったのかは分からない。けど、少しだけ考え得る可能性は見つけた。


 部屋の中央のテーブルに集まるよう団長に言われ、俺と他の勇者と団長がそれぞれ席についた。何か話したい事があるらしい。


「急にすみません。せっかく勇者様が全員揃っているので今がタイミングかと思いまして…。実は、先日陛下から悪魔との戦闘を禁止されたのです。」


 それは…ミカが陛下と交渉して上手く行ったということか。これで人間と悪魔の中立という役目は終わった。……俺は特に何もしていないが。
 しかし、団長は少し言いづらそうにしている。ずっと敵対していた悪魔と敵対するなと言われ、複雑な心境なのだろうか。いや、それ以上に申し訳なさそうだ。たぶん……


「あら、それは勝手に私達を召喚しておいて役目が無くなった…と言うことかしら?」


 そうピリピリとしながら俺と同じことを思い話したのは外人系の女勇者アンナだ。団長もそう言われるだろうと思い身構えていたのだろう。


「…そう言うことになります。」
「なんて無責任。私達を帰す術もなく役目も消えた。なら私達はどうすればいいのかしら。」


 凄いなこの少女。言いたい事をはっきりと言っている。が、まぁ人の人生を捻じ曲げておいてなんの責任も取らないわけにはいかないだろう。俺はこうなると分かっていたけど、もし知らなかったら彼らと同じ事を思っていたかもしれない。


「衣食住の保証はもちろんします。」
「そういう事じゃ無いって分からない?貴方、大人でしょう?そんな当たり前のことを聞いてる訳じゃ無いの。」


 子供の方が大人よりしっかりしてると言うが事実だな。生活の保証はして当たり前のことだ。勝手に異世界から呼んだのだから。異世界召喚などただの誘拐とさして変わらない。
 問題は、悪魔と戦うために色々と修行や勉強をして来たこと。それが全て無意味になる。


「……騎士団長さん、せめて何か僕達に役目をください。勇者としての役目を!僕達だって努力してきました。勇者として呼ばれたからには守るために戦おうと。それを、無下にされたくありません!」


 ……なるほど、やっぱりシュウは主人公らしいな。皮肉も無しに自分の気持ちを真っ直ぐ大人にぶつける。探り合いも騙し合いも知らない、子供らしい純粋さ。俺の幼少期には無かったものだ。少し羨ましい。


「ですが、悪魔と戦う事が禁じられた以上は……」
「なら団長、俺に提案があります。」


 俺も駄目な大人の一人だからな。少しでも出来ることはしないと駄目な大人のままだ。


「ギルドタウンで俺が受けた依頼は、俺でも手こずるものがいくつもありました。なら、そう言う危険な依頼や魔獣の討伐も勇者の役目になるのでは?」
「そう…ですね。確かに、戦うべきは悪魔だけではありません。この国や人間を守ることが勇者様の役目。なら、魔獣討伐に参加して頂く事も……」


 団長は一人でぶつぶつと考え始めた。何かを殴り書きでメモすると、一度顔を上げて勇者達を見た。


「その…先程は申し訳ありませんでした。あなた方に勇者として戦う意志があるのなら、これからも人々を守るためにぜひ尽力して頂きたいです。もちろん強制はしませんが。」


 とりあえず丸く収まったようだ。三人の勇者はそれぞれ戦う意志があるらしい。もちろん俺にもある。俺は…守るとかそんな綺麗な理由ではないけど。ただ、少しでもミカの事を知れるのであれば何でもやる、というだけ。勇者である以上巻き込む可能性があると言われたが、なら自分から巻き込まれに行けばいいだけの事。
 悪いけど、俺はミカの思い通りにはならない。




 見学が終わり、そのまま現地解散の流れになった。
 俺も部屋に戻ろうとすると、シュウに呼び止められた。


「その、先程はありがとうございます!」
「えっと…何が?」
「あ、勇者の役目のことです。提案してくださって…みんな感謝してます。」


 感謝、されるようなことだったか?むしろ危険を増やしたかと心配してたんだけどな。でもまぁ、役目が欲しいと言っていた張本人なら、望みが叶えば感謝もするか。


「それで、話は変わるんですけど…展示室に来る途中に言おうとした事を思い出したんです。」


 そう言えばあったな、そんなこと。言おうとした事を忘れて、その後に思い出せる人っているんだ。忘れたら基本忘れたままだと思ってた。
 でも、後になってからまた言おうとするって事はただの雑談では無いのだろう。一体何を言いたいのだろうか。


「先日、イオリさんが訓練場で戦う姿を見て考えたんです。その、イオリさんさえ良ければですが、僕の武器の先生になってくれませんか?」



 ……………え?今、この少年、なんて言った?
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