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悪魔、人間の本拠地へ
34.失って得ない
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状況の理解に時間がかかった。えっと、今俺はシュウに
『僕の武器の先生になってくれませんか?』
と言われた。……俺が?なんで俺に?
俺もきちんとした剣術は齧った程度しか分かっていない。元の世界にいた時の感覚を使い、あとは実戦で鍛えた。いや、剣術に限った話では無いが。
シュウは『剣の先生』ではなく『武器の先生』になってくれと言った。それはつまり、剣以外にも複数の武器を扱えるようになりたいと言うことだろうか。
「あー、なんで俺に頼もうと思ったのか聞いていい?」
「実は騎士団長さんから話を聞いていたんです。イオリさんは複数の武器を使いこなす天才だと。その中でも特に剣は団長さんを越す腕だと。それを聞いて、先日の訓練の様子を見た。それだけでも頼みたいと思うのは自然な事だと思います。」
団長か…何を吹き込んでいるんだ。全てゲームやアニメの動きの模倣だと言うのに、完全に俺の実力だと思われている。基礎がしっかりしていない、理解もしていない俺に頼むなんて絶対に間違えている。
そう思うが、目を輝かせる目の前の少年を強く拒めない。
「俺は完全に感覚で戦っている。まともに教えられるとも限らない。」
「それでも構いません。近くで動きを見させてもらうだけでも十分です!」
……なかなか押しが強いな。自分から諦めてもらいたいとこではあるんだが。コミュニケーション能力が低い俺にはそんな誘導は出来ない。かと言って教える側になるのも難しい。
「……一応聞いておく。武器の先生にと言ってたけど、何の武器だ?」
「それは…その、僕にはどんな武器が合うのか分からなくて、色々試したいなって思ってるんです。」
「魔法があるのに武器を?」
上級魔法使いだったよな?武器なんて持たなくとも十分戦いの場で活躍できる実力の。
でもシュウの目は真っ直ぐだ。遊びや興味で習おうとしてるわけでは無いと伝わってくる。
「悪魔や魔獣の中には魔法が効かない個体もいると学びました。他にも、素速い相手には魔法を当てる事が難しいです。だから近接武器を習って、万が一のための戦力にしたいんです。」
魔法が効かない個体もいる、か。それは知らなかった。今まで俺は魔法で戦う事は無かったから。俺が勝手に城を出ている間、他の勇者達はそう言った知識も得ていた。自分の行動の軽薄さが伺えるな。
とは言え、俺が城を出なかったら勝ち目の無いミカと戦うことに……いや、戦いもせずに殺されるところだったけど。
「なるほど…理由は分かった。俺も未熟な身ではあるけど、それでいいなら近接戦を教えよう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
まさかこんな形で俺に弟子ができるとは思わなかった。しかも同じ勇者で魔法使いの。
なんて驚きはすぐに上塗りされた。
「あれ、どうしたタマキ?」
「うぅ………」
シュウは俺の背後にいる別の勇者に声をかけた。タマキと呼ばれた小さな勇者はアンナの背に隠れながらこっちを見ている。
「あの…その………」
「ほら、タマちゃんがんば!」
「えっと………」
何かを伝えようとするタマキと、彼女を『タマちゃん』と呼び応援するアンナ。……この状況はなんだ?
ちらりとこちらを見ては怯えるタマキ。しばらく経ってようやく言葉を発した。
「その、わ、私にも、剣…お、教えて欲しい、です……!」
「……え?」
ようやく告げられた言葉に驚いた。まさか勇者二人から頼まれるとは思わなかった。しかもタマキは俺と同じ近接戦を得意とする人だ。
「そう言えばタマキも騎士団長さんを上回ってたね。」
団長を上回る…?この、小学生にしか見えないような小柄な少女が……?どうにも想像できないが、そんな嘘はつかないだろう。
が、俺に怯えすぎだ。一歩近付いただけで小さく悲鳴をあげて隠れてしまった。……本当に団長以上の実力者なんだよな?
「ごめんイオリさん。タマキは背の高い男の人が苦手なんです。時間が経てば慣れるんですけど……。」
「そういうことか。」
確かに俺は180超えてるからな。苦手なら怯えるのも仕方が無い。
でも、苦手な対象でも声を掛けてくれたんだな。余計に断りづらい……。
俺は片膝立ててしゃがんだ。圧を感じないように合わせれば少しは大丈夫だろうか。
「俺で役不足じゃ無いならいいですよ。」
タマキはアンナの背中に隠れたまま頷いた。まぁ、少しずつ慣れるのを待つしか無いか。
これで俺には二人の弟子ができた。少しずつ交流をして、明日から早速教えることになった。上手く指導できる自信は無い。でも、やると決まった事は全力を出すだけだ。
……俺も、ミカがいなければ訓練出来ないから。
本当にミカは戻ってくるのだろうか。探しに行ったら…迷惑だろうか。顔を出しもしないミカに、俺は不安と恐怖ばかり感じる。
明日、まだ戻らなかったら陛下に聞いてみよう。日を改めると団長が聞いているのならまだ城には居るはずだ。団長に聞かないのは、俺とミカが離れてる事を知らなそうだったから。
ミカがいなくなってから何かを得ても、俺にはどれも無価値で不必要に感じてしまう。また、ミカと出会う前の臆病な自分に戻ってしまいそうだ。
早く明日に…いや、早く戻って来てくれ………。
『僕の武器の先生になってくれませんか?』
と言われた。……俺が?なんで俺に?
俺もきちんとした剣術は齧った程度しか分かっていない。元の世界にいた時の感覚を使い、あとは実戦で鍛えた。いや、剣術に限った話では無いが。
シュウは『剣の先生』ではなく『武器の先生』になってくれと言った。それはつまり、剣以外にも複数の武器を扱えるようになりたいと言うことだろうか。
「あー、なんで俺に頼もうと思ったのか聞いていい?」
「実は騎士団長さんから話を聞いていたんです。イオリさんは複数の武器を使いこなす天才だと。その中でも特に剣は団長さんを越す腕だと。それを聞いて、先日の訓練の様子を見た。それだけでも頼みたいと思うのは自然な事だと思います。」
団長か…何を吹き込んでいるんだ。全てゲームやアニメの動きの模倣だと言うのに、完全に俺の実力だと思われている。基礎がしっかりしていない、理解もしていない俺に頼むなんて絶対に間違えている。
そう思うが、目を輝かせる目の前の少年を強く拒めない。
「俺は完全に感覚で戦っている。まともに教えられるとも限らない。」
「それでも構いません。近くで動きを見させてもらうだけでも十分です!」
……なかなか押しが強いな。自分から諦めてもらいたいとこではあるんだが。コミュニケーション能力が低い俺にはそんな誘導は出来ない。かと言って教える側になるのも難しい。
「……一応聞いておく。武器の先生にと言ってたけど、何の武器だ?」
「それは…その、僕にはどんな武器が合うのか分からなくて、色々試したいなって思ってるんです。」
「魔法があるのに武器を?」
上級魔法使いだったよな?武器なんて持たなくとも十分戦いの場で活躍できる実力の。
でもシュウの目は真っ直ぐだ。遊びや興味で習おうとしてるわけでは無いと伝わってくる。
「悪魔や魔獣の中には魔法が効かない個体もいると学びました。他にも、素速い相手には魔法を当てる事が難しいです。だから近接武器を習って、万が一のための戦力にしたいんです。」
魔法が効かない個体もいる、か。それは知らなかった。今まで俺は魔法で戦う事は無かったから。俺が勝手に城を出ている間、他の勇者達はそう言った知識も得ていた。自分の行動の軽薄さが伺えるな。
とは言え、俺が城を出なかったら勝ち目の無いミカと戦うことに……いや、戦いもせずに殺されるところだったけど。
「なるほど…理由は分かった。俺も未熟な身ではあるけど、それでいいなら近接戦を教えよう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
まさかこんな形で俺に弟子ができるとは思わなかった。しかも同じ勇者で魔法使いの。
なんて驚きはすぐに上塗りされた。
「あれ、どうしたタマキ?」
「うぅ………」
シュウは俺の背後にいる別の勇者に声をかけた。タマキと呼ばれた小さな勇者はアンナの背に隠れながらこっちを見ている。
「あの…その………」
「ほら、タマちゃんがんば!」
「えっと………」
何かを伝えようとするタマキと、彼女を『タマちゃん』と呼び応援するアンナ。……この状況はなんだ?
ちらりとこちらを見ては怯えるタマキ。しばらく経ってようやく言葉を発した。
「その、わ、私にも、剣…お、教えて欲しい、です……!」
「……え?」
ようやく告げられた言葉に驚いた。まさか勇者二人から頼まれるとは思わなかった。しかもタマキは俺と同じ近接戦を得意とする人だ。
「そう言えばタマキも騎士団長さんを上回ってたね。」
団長を上回る…?この、小学生にしか見えないような小柄な少女が……?どうにも想像できないが、そんな嘘はつかないだろう。
が、俺に怯えすぎだ。一歩近付いただけで小さく悲鳴をあげて隠れてしまった。……本当に団長以上の実力者なんだよな?
「ごめんイオリさん。タマキは背の高い男の人が苦手なんです。時間が経てば慣れるんですけど……。」
「そういうことか。」
確かに俺は180超えてるからな。苦手なら怯えるのも仕方が無い。
でも、苦手な対象でも声を掛けてくれたんだな。余計に断りづらい……。
俺は片膝立ててしゃがんだ。圧を感じないように合わせれば少しは大丈夫だろうか。
「俺で役不足じゃ無いならいいですよ。」
タマキはアンナの背中に隠れたまま頷いた。まぁ、少しずつ慣れるのを待つしか無いか。
これで俺には二人の弟子ができた。少しずつ交流をして、明日から早速教えることになった。上手く指導できる自信は無い。でも、やると決まった事は全力を出すだけだ。
……俺も、ミカがいなければ訓練出来ないから。
本当にミカは戻ってくるのだろうか。探しに行ったら…迷惑だろうか。顔を出しもしないミカに、俺は不安と恐怖ばかり感じる。
明日、まだ戻らなかったら陛下に聞いてみよう。日を改めると団長が聞いているのならまだ城には居るはずだ。団長に聞かないのは、俺とミカが離れてる事を知らなそうだったから。
ミカがいなくなってから何かを得ても、俺にはどれも無価値で不必要に感じてしまう。また、ミカと出会う前の臆病な自分に戻ってしまいそうだ。
早く明日に…いや、早く戻って来てくれ………。
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