召喚され救世主じゃないと言われたが、復讐の旅でなぜか身体を狙われている

輝石玲

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いよいよ本格的な復讐へ

65.夜のお散歩(危険飛行)

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 新たな拠点に来たばかりか寝付けず、俺はまだ見ていない外を見てみることにした。とは言え、ベランダから眺めるだけだ。

 真っ黒な浴衣とは少し違う青紫に近い黒の羽織を羽織り、ベランダに出た。
 ここらの気候か浮かんでいる島で高さがあるからか、冷たい風が強く吹いている。気持ちいいが目が乾燥するな。


 早速身を乗り出して辺りを見渡そうとした。が、ちょうど木のてっぺんの高さだから見通しが悪く、今いる屋敷の庭すら位置的に見えない。少し離れたところに木が密集してることくらいしか見られないなんてな……

 そうだ、屋上に登れないだろうか。



 ベランダの手すりに乗り、風でグラグラと揺れる体でなんとかバランスを取る。そのまま上の屋根にジャンプで掴まれば………!

 あ、ミスった。

 嘘だろ!?ジャンプのタイミングで突風が吹くとか聞いてない!
 風に煽られながらもなんとか屋根の淵に手が届いた…が、指先で引っ掻くだけでそのまま落下するかと思いきや…………気付けばちょうど屋上の高さまで浮かんでいた。

 そのまま緩やかに屋上に足をつける。なんで突然体が浮いたのか、それは背中の違和感が物語っていた。

 ーー夜空のような翼が生えている。

 片翼で俺より大きな翼。手足のように思い通りに動き、触れてみると艶がありながらも柔らかい。少し骨を感じる手触り、そして明確に触れていると分かる翼から感じる感覚。

 驚いた、自分のことは大方調べたと思っていたが…まさかアカツキと同じような翼が生えてくるなんて。
 アカツキは鳳凰や不死鳥のような緋色の翼だったけど、俺の翼は鴉のような黒だ。これはこれで美しいが、もっと美しい翼を見た後だとパッとしないな。


 はっ、そういえば服は!?穴開いた!?あ、後で確認しないとだな。






 予想外のこともあったが、なんとか周りの風景を見ることが出来た。外は暗く灯りも無いのに月明かりだけでよく見える。とは言え空から見つけた他の城は中央の一つしか見えないけど。
 斜めの境界で分けられた白と黒の旗。中央には太陽のマークが描かれている。たしか、ピアスやミサンガを入れてたアカツキの巾着袋にも同じマークが描いてあったな。
 この屋敷の旗に描かれているのは三日月。俺の背中の傷痕とよく似ているな。もしかして、背中のは傷じゃ無くて意味のある物なのか?自分が月に関係してると分かっているから関連性を感じる。


 そういえば、新月が近いな。前回の低体温は酷かったけど、今回からどうなるんだろう。やっぱり動けなくなるのかな。

 朔日に動くのは良くないだろう。かと言って復讐を実行するとなったらどれだけ時間が必要になるか分からない。せめて低体温が治ってすぐに動くべきだろうな。
 それが翌月かもっと後かは今はまだ定かじゃ無いけど。



 そうだ、せっかく飛べるようになったわけだし飛んでみよう!夜の空中散歩だ。ここ周辺の事は見ておきたいしな。

 それじゃあ、翼をはためかせてレッツゴー!


 ……ん?あれ、滑空してる?つ、翼が上手く動かせない。風が強くて翔けない……!?しかもバランスを取るのが難しくて左右にグラつくし、どこに向かってるんだコレ!?

 ま、マズい…落ちるッ………!







「いっ…たた………」

 低いとこまで落ちてようやく勢いを殺すことが出来たから大事にはならなかった。が、一回木にバウンドしたせいで服や髪に木の葉や枝が引っかかっている。


 それにしてもここはどこだ?変にフラフラ飛んだからどの屋敷にいるのかさえサッパリ分からない。旗を確認すれば少しは分かるだろうか……。
 今いる場所を知るために旗を探して辺りを見渡すと、二階から灯が漏れているのが見えた。その部屋のベランダには………

 誰かいる。部屋の灯りが逆光になっていてシルエットしかハッキリと見えないけど、真っ直ぐな長い髪でロングスカートのような布の薄い服を着ているのは分かった。
 その誰かはベランダの手すりに身を乗り出して腰掛け、光の粒子を蝶の羽のような形にするとその羽でフワリと降りて来た。


「……誰?ここがどこか分かって来たのですか?」


 少年のような声と月明かりに照らされてようやく見えた姿。何より先に『美しい』と言う言葉だった。
 光の川のような金色の髪、前髪が無いことでハッキリと見える陶器のような肌、影を落とすほど長い睫毛、澄んだ翠の瞳、薄紅に色付いた小さな唇、呼吸に合わせるように動く長い耳。



 天女のような衣を羽織った小さく華奢な少女…いや少年か?顔、手、足のどれもが小さく、本当に人形のようだ。

「えっと、君は?」
「聞いているのはこちらです。わたくしの質問に答えて、貴方は誰?」

 おっと手厳しい。なんと言うか、高貴な貴族のようなものを感じる。側にいる王様二人があまりにもフランクだから感覚が狂ってたけど、普通高貴な人とかってこう言う感じでマナーとかルールに厳しいよな。

「俺は…ヤト、今日から青い旗の屋敷に居座ることになったんだ」
「青の旗に…?なるほど、その翼と言い貴方はわたくしと似た者なのでしょうか。いやしかし、獣人や悪魔とは気配が違う。一体、何者?」

 何者?って言われてもどう答えればいいのやら。たぶんこの子は妖精だよな。人間の国に滅ぼされた……おそらく生き残り。

「俺は…えっと……月の化身………?」
「月の化身?わたくしをバカにしていますか?」

 まぁ、そうなるか。でもどう説明していいやら。

「わたくしは既に知っています。月の化身は太陽の化身ほど有名ではありませんが、貴方ではありません」
「ん?」
「月の化身のお名前は『宵』様。太陽の化身の暁様と瓜二つで、夜空のような御髪と満月のように優しく輝く瞳を持った麗人。その慈愛で数多の人々を救っては見返りも求めず見守り続けている聖人の如き御仁です」

 んん…???それ、記憶を失う前の俺ってことか?当時の俺が何をしてたのかは分からないけど、そんな風に思われるような事をしてたのか?


 まぁ、この子は『月の化身・宵様』を尊敬してるようだし、記憶の無い俺が余計な事を喋るくらいなら違う事にしておくか。

「へ、へぇー、詳しいんだな……。ところで君は?」
「わたくしはアンリ。ここ、赤の旗の屋敷の住人で、見た通り妖精の生き残りです。ご近所のようですし、わたくしも貴方に興味が湧きました。これからよろしく」

 そう言って握手を求めて来たアンリ。その手に応じると、アンリはそのまま俺の手を両手で包んで距離を詰めて来た。

「それにしても驚きました。まさか『月の化身』という言葉を他の方から聞く時が来るとは…。宵様は千年前までは暁様と同じく信仰の対象であったのに、今ではその存在を忘れ去られてしまった方だから。宵様に興味がおありですか?是非よろしければまたこちらにいらしてくださいな。もっと宵様の事をお話ししたいです」

 おっと、唐突な早口。まぁ…昔の自分のことを知りたいとは思ってるし、この話に乗るのもいいかも。

「……実は俺、月の化身ってどんなのかよく分かって無いんだ。でも知りたいけどどこで知れるか分からなくて……」
「それならわたくしが教えて差し上げます」

 うおっ、即答か。それだけ話せる相手が欲しかったんだろうな。なんだろう、神秘的な姿でも話してみると可愛い子供なんだな。





 そういえば、結局アンリはどっち……?

「ところで、アンリの性別って……」
「わたくし?あぁ…確かに見た目では分かりませんよね。わたくしはれっきとした男です。ほら」

 ほら……でスカートを捲るんじゃ無い!確かに付いてるけど!っていうか下着は!?

「見せなくても言えばいいよな?」
「寝巻きで脱ぐ手間もありませんし、直接見たものの方が信じられるでしょう?」
「やめなさい」

 この子の教育はどうなってるんだ。知識があっても常識は知らないのか……?



 また夜にここで会う約束をして、なんとか根性で飛んで帰った。
 服に穴は開いてなかったから良かったけど、これ、背筋っていうか翼の付け根の筋力が必要そうだ。もちろん翼本体の筋力と、あと体幹も。

 せっかく飛べるようになったし、がんばるか。
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