一園木蓮

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焔(続編)

 別に取り立ててどうということのない普通のバーのようだが、一箇所だけ暗幕のようなカーテンが掛けられていて、奥には別の入り口があるようだった。出入りを見ていると、どうやらそこを通るには会員証なる個別カードが必要なようだ。
 店内に冰の姿は見当たらない。とすれば、やはりあのカーテンの向こう側か。
 トイレに立つふりをして個室から天井裏へ潜り、様子を探ることにした。店に入る前に建物全体の造りを見た限りでは、やはりカーテンの奥にもスペースがありそうだ。しかもかなり広いはず。おそらく表のバーは見せ掛けで、奥がメインと見た。
 天井裏は思ったよりも広く、普通に立って歩けるほどの高さがあった。俺にとっては都合がいいが、建築的には少々疑いたくなる造りといえる。普通、こんなに広い天井裏が必要だろうか。何か別の使い道でもあるのかと思わされる。
 気を配りながら物音に注意して先へ進むと、この広さの理由が明らかとなった。半間ほどの廊下の先に小部屋のようなスペースが現れて、そこから階下の様子が覗けるようになっていたからだ。しかもその階下を監視する為か、数台のカメラが設置されている。

 監視カメラか――。録画機能付きのところを見ると、階下の様子を秘密裏に撮影しているというわけか。

 幸い人の気配はしないので、録画中の画面を覗いてみることにした。と、想像を絶する――というよりも、やはりかと思わされる光景が視界に飛び込んできて、思わず眉根を寄せてしまった。なんとそこには転校初日に冰から見せられたのと同じ光景が広がっていたからだ。
 中央にはベッドが一台、大きさからしてキングサイズを超えている。天蓋は無く、ベッドヘッドはスチール製の格子で作られていて四隅には拘束用の手錠や縄紐などが引っ掛けられている。部屋の壁といい、冰のスマートフォンにあった画像と一致する。

(あの野郎……やはりまだこんな仕打ちをされ続けてたってわけか――)

 それにしても冰は自らの意思でここへ向かったことになる。酷い仕打ちが待っていると知っていて自ら――だ。
 察するにヤツの父親が経営する貿易会社に資金援助を申し出たという誰かが、その借金のカタに冰をこんな目に遭わせているということか。あいつはそれが金のカタだと知っているから拒否できずにいる。とすれば気の毒にも程がある。是が非でも救い出してやらねばならない。
 今は誰もいないが、そう時を待たずして冰はここへ連れて来られるに違いない。

(クソ……ッ、やはり会員カードを手に入れるしかねえか)

 猶予はない。ここからでは天井に大穴を開けてぶち抜きでもしない限り階下へ降りる術はない。のこのこやっていれば冰がまたあんな目に遭わされるのだ。一刻も早く誰かのカードを盗み取るしかない。
 そう思って戻ろうとした時だった。後方数メートル先に人の気配を感じて身構えた。ここには隠れるに都合がいいスペースが無いからだ。意識を刈り取り、とにかくは口を塞がんと思った時だった。
「ふふ――相変わらず勘がいいね」
 微笑めいたその声には聞き覚えがあった。忘れるはずもない、何と近付いて来たのは倫周だったからだ。

 柊倫周、麗さんの息子であり俺とは兄弟同然で育った男だ。

 香港に残してきたはずのヤツが何故ここにいる――驚く俺を見てヤツは笑いながら『しー、静かに!』とでもいうように唇の前で人差し指を立ててみせた。
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