一園木蓮

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焔(続編)

10

「倫……お前、何故ここに」
「久しぶり、遼二。元気そうだね」
「……香港じゃなかったのか」
「うん、それは後で説明するよ。それより驚いた。まさかお前とこんな所で会おうとはさ」
「そいつぁこっちの台詞だ」
「お前さんがトイレに立つのを見掛けたのでね。後をつけてきたわけ」

 それよりこんな所で何をしているのだと倫周は不思議顔で俺に訊いた。それを知りたいのは俺の方だが、今は冰の件が最優先だ。素直に理由を告げることにした。
「転入した先の同級生がやべえことに巻き込まれているようなんでな。心配になって後を追って来たんだが――」
「転入した先の同級生? まさか遼二の通ってる学園って桜蘭学園なの?」
「――そうだが」
 何故俺の通う学園を知っている――? 一瞬そうも思ったが、倫周とて俺と同様どっぷりと裏の世界で育った男だ。その気になれば朝飯前で調べはつくはずである。それよりももっと驚くことをヤツは言ってのけた。
「じゃあもしかして同級生っていうのは雪吹冰君?」
「冰を知っているのか……?」
「あ、やっぱり冰君か。実は僕もちょっと訳ありでね」
「訳ありだ?」

 その訳というのに関心をそそられたが、今はそれどころじゃない。
「倫、すまねえ! 急ぎなんだ。その冰のことで一刻も早く下の部屋に行かねえと……」
 ところが倫周は、「まあ待て」と言って余裕の笑みと共に俺を引き留めた。
「冰君を救い出しに来たんでしょ? だったら大丈夫。実は僕も同じ目的でここへ来たんだ」
「同じ目的って……お前」
「彼が強要されていかがわしい目に遭ってる。遼二もそれを知ってるんでしょ?」
「――俺も……ってことはお前も知ってるってのか?」
「そう。でも大丈夫。既に手は回してあるから。この天井裏に仕掛けられてるカメラを始末するのが僕の役目でさ。冰君を救い出す役者はもう下で待機してるよ」
「待機って……。じゃあお前、誰かと一緒にここへ来たってのか?」

 まさか――麗さんか。一瞬そう思った。
 この倫周は父親の麗さんを捜す為に香港に残ったからだ。

「麗さんが……見つかったのか?」
「麗ちゃん? あはは、違うよ。麗ちゃんは未だ行方知れずさ。生きてるのか死んでるのかも分からない。ってよりも、お前さんが香港を後にしてからまだほんの数ヶ月じゃない。僕一人の力でこんなに早く見つけられるなら苦労はしないよ」
 こいつは幼い頃から自分の父親のことを「麗ちゃん」と呼んでいる。「お父さん」とか「パパ」と呼んだのを聞いた記憶がない。おそらくは幼少の頃から麗さんがそう呼ばせていたのだろうが、確かに外見だけ見れば『父親』という印象とは程遠い、あの人らしい呼ばせ方だと苦笑させられる。
 と、その時だった。階下に数人の気配を感じてカメラを覗けば、冰が見知らぬ男たちに引き摺られるようにしながらやって来たことに心拍数が跳ね上がった。冰を除けば男たちは五人程が確認できる。
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