一園木蓮

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焔(続編)

12

 冰は俺たちが来たことに驚いていた様子だが、倫周から経緯を聞いて事の次第を理解したようだった。倫周の人懐こい雰囲気と、見た目がやさしそうに見える外見が安堵感をもたらすわけか、冰は案外落ち着いて話を受け入れることができているようだった。
 昔から倫周のこういうところは変わっていない。かくいう俺も、こいつのこの性質に何度気持ちを救われたことか知れない。過酷な環境の中にあっても、この倫周が常に一緒だったから俺は何とか生きてこられたんだ。
「僕は柊倫周。香港でキミのお父上にご恩をいただいてね。とても感謝しているの。そのお父上がキミのことを痛く心配していらしたからこうして出向いて来たんだけれど。でもまさかキミが遼二と同じクラスだったとは!」
 世間は狭いねと言って倫周は笑った。
 冰はといえば、俺がタクシーに乗せた時とはまるで人が変わったようにしょんぼりとしていて、さっきはすまなかったと言っては素直に頭を下げてきた。
「ごめんな、遼二……。せっかくお前が車まで拾ってくれたのに……俺」
 きっとこれが素のヤツなのだろう。これまで学園内で見せていたどこか張り詰めたような強張った表情や、何事にも諦めの境地のような無感情さは見受けられなかった。今のヤツは素直で年なりの感情を持った普通の高校生に見える。倫周と周焔によって助け出されたことで、ヤツの中で安堵という気持ちが生じたのだろうと思えた。もう二度とあんな目に遭わずに済む――その思いが冰を本来あるべき姿に戻したのだろうことは明らかだった。
「でもビックリした。お前が……この人たちを連れて助けに来てくれるなんて」
「いや――こいつらとは偶然あの店で出くわしたんだ。俺自身驚いている」
「そう……だったんだ? 前からの知り合い?」
「ああ。こいつらは俺があの学園に転入するずっと以前からの腐れ縁だ」
 そう言った俺に、「腐れ縁とは失礼だよね」と、倫周は笑った。
「とにかくお父上が心配してキミに会いたがっていらっしゃる。一度僕らと一緒に香港へ帰ろう。お父上は支社から離れられない業務が山積みのご様子なのでね。できれば冰君が香港に会いに行ってくれると有難いんだよ」
「そう……ですか。父が……。分かりました。俺が会いに行きます」
 冰は父親に会うことを決めたようだ。
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