一園木蓮

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焔(続編)

20

「本来ならば俺は香港で親父と同じ職に就いているはずだった。だがその親父が亡くなったことで俺は香港を離れることを決めたんだ。それと同時に裏の世界からも足を洗って――普通の高校生として平穏に生きたいと願った。だから今の学園に転入したんだ」
「……そっか。そういやお前、ご両親亡くしたっつってたな」
「ああ。親父とお袋は――銃撃されて死んだ。親父が請け負っていた任務の最中でな」
 さすがに紫月は驚いたようだった。大きな瞳を更に大きく見開いて俺を凝視する――。
「銃撃って……そんなに危ねえ仕事……だったんだ?」
「親父は裏の世界じゃ凄腕と言われていたからな。あんなヘマをするような人間じゃなかったんだがな」
「…………」
 返す言葉を失っている紫月を――更に驚かせることを告げた。
「紫月――」
「……うん?」
「俺の親父には常に仕事を組んで行うパートナーの男がいたんだが――そいつと親父は互いに妻子がありながらも愛し合ったようでな。いわば不義密通だ」
「……へ?」
「相手は麗さんといった。ひどく綺麗な男でな。そのことを知った麗さんの嫁はショックを受けて自害しちまった」
「……え、そんな……」
「俺のお袋も当然ショックだったろうが、幸い自殺を考えるまでには至らなかったようだった。だがお袋は――また別の意味で精神を壊しちまってな。息子の俺に抱かれようと迫ってきたんだ」

「――――! 抱……って、お前の母ちゃんが……お前……に?」

「そうだ。俺はもちろん拒んだし結果的には未遂で済んだが、それを知った親父は少なからず責任を感じたんだろう。両親が銃撃に遭ったのはそれから間もなく後のことだった。俺はあれが親父の無理心中だったんじゃねえかって――思っている」
「……そんな……ッ」
 絶句といった表情で固まってしまった紫月の手を取ってそっと腕の中へと引き寄せた。
「おめえを初めて見た時、えらく綺麗な男だと思った。誰かに似ているような既視感を覚えてな。よく考えたら――ああそうだ、麗さんに似てるんだと思ったんだ」
「麗さんって……お前の親父さんの……?」
「ああ――。俺はずっと……心のどこかで消化しきれねえものを抱えていてな。それが何なのかよく分からずじまいだったが、さっきお前に寝てみねえかって言われて気が付いたんだ。俺は……俺たち家族から親父を取り上げた麗さんを恨んでいるんじゃねえかって。それと同時に――親父と麗さんがどんな気持ちで互いの家族を裏切っていたのかを知りたかったんだということに気が付いたんだ。お前を抱いて……身体を重ねてみれば少しは親父たちの気持ちが理解できるかも知れねえと思った。だからつい……お前にあんな乱暴を……」
 すまなかったと言って謝った俺の手を握り返すと、紫月はその白魚のような綺麗な腕で俺を抱き締めた。
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