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8話
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――そんなことをするつもりでも、言うつもりでもなかったかも知れない。
こんなことをされるワケも、求められるワケも想像すらしていなかった――。
「なあ、知ってっか? 失恋に効く一番の方法ってよ――」
「あ……?」
「昔からよく言うじゃねえ? 失恋にゃ新しい恋とか何とか……」
頬に添えられた大きな掌、
じっと見つめてくる彫りの深い大きな瞳、
鼻梁の高い鼻筋に掛かる濡羽色のストレートの髪、
自分と氷川との間に急に立ち込めた妖しげな雰囲気に、冰はしばし唖然とさせられてしまった。
やはり酔いのせいで咄嗟には思考が回らないのか、呆然とする自身を他所に、頬を包み込むように添えられた掌がゆるりゆるりと髪を掻き上げるように耳裏までをも撫で上げる。突如、互いの間に立ち上った何とも艶めかしい雰囲気に焦る暇もなく――長く形のいい指先でツイと唇を撫でられ、まるでキスをされるかのようにいきなり顔を近付けられて、さすがに驚き、冰はビクリとソファの上で半身を起こした。
「ちょい待ちっ! 何考げーてんだてめえ……ッ!」
そう言うが早いか唇を奪われそうになって、慌てふためいた。
冰は飛び起きるように腰を引くと、今にも自分を抱き締める勢いの氷川の肩をガッと掴んで、思い切り眉根を寄せた。
「戯けてんじゃねーよ! 悪ふざけにも程があるっ……って……!」
余程ビックリしてか、そう怒鳴りながらソファの上で体勢を立て直すように身を捩る。その瞬間にローブの合間からチラりと太腿が露になり、ガラにもなくカッと頬が染まった。
そういえばまだ下着もつけていなかったことに気が付いて、冰は声を上ずらせた。
氷川にしてみればそんな様子も酷く意外だったのだろう。頬を赤らめて恥じらいを隠そうと、しどろもどろに視線を反らす様子など学生時代からは想像さえ付かない、別人そのものだ――何も言わずとも彼の視線がそう語っているのが分かる。
まるで急激に湧き上がった欲情を抑えられないとでもいうように、目の前の漆黒の瞳の中には焔の赤が獲物を狙う獣のように揺れていた。
「……んだよ、急にッ! おい、氷川ッ! てめ、聞いてる!?」
「ああ、聞いてる」
「……とにかくてめえのソファに戻れって……。んな、これじゃまるで……」
「――まるで、何だ」
「や、その……有り得ねえっしょ? これって、その……すっげやべえ……雰囲気」
何でもいいから会話を繰り出し、この淫猥な雰囲気を壊さなければと焦燥感が止め処ない。冰は大袈裟におどけてみせた。
だが、氷川の方はまるで聞いているのかいないのか、ますますもって距離を縮めながら瞳を細めてくる。まるで押し倒さん勢いで体重を掛けられそうになって、咄嗟に膝蹴りを繰り出すかのように両脚で彼の身体を押しやった。が、それと同時に、幸か不幸か、焦って動いたせいでローブが開けて太腿が丸出しになってしまい、更に焦る。それをピンポイントで逃さず捉える目の前の男の視線は既に餌を前にした雄の野獣のようだ。
片や熱気を帯びた視線、
片や焦る視線、
互いに呆然と見つめ合いながら、しばしの間、沈黙が二人を押し包んだ。
「とにかく冗談よせって……! どういうつもりか知らねえが、第一……てめえノンケだろうが……!」
「――ノンケ?」
「……っ、つかそれ以前に俺、タチだし……! だからてめえとはそーゆーの無理っ……ッ」
こんなことをされるワケも、求められるワケも想像すらしていなかった――。
「なあ、知ってっか? 失恋に効く一番の方法ってよ――」
「あ……?」
「昔からよく言うじゃねえ? 失恋にゃ新しい恋とか何とか……」
頬に添えられた大きな掌、
じっと見つめてくる彫りの深い大きな瞳、
鼻梁の高い鼻筋に掛かる濡羽色のストレートの髪、
自分と氷川との間に急に立ち込めた妖しげな雰囲気に、冰はしばし唖然とさせられてしまった。
やはり酔いのせいで咄嗟には思考が回らないのか、呆然とする自身を他所に、頬を包み込むように添えられた掌がゆるりゆるりと髪を掻き上げるように耳裏までをも撫で上げる。突如、互いの間に立ち上った何とも艶めかしい雰囲気に焦る暇もなく――長く形のいい指先でツイと唇を撫でられ、まるでキスをされるかのようにいきなり顔を近付けられて、さすがに驚き、冰はビクリとソファの上で半身を起こした。
「ちょい待ちっ! 何考げーてんだてめえ……ッ!」
そう言うが早いか唇を奪われそうになって、慌てふためいた。
冰は飛び起きるように腰を引くと、今にも自分を抱き締める勢いの氷川の肩をガッと掴んで、思い切り眉根を寄せた。
「戯けてんじゃねーよ! 悪ふざけにも程があるっ……って……!」
余程ビックリしてか、そう怒鳴りながらソファの上で体勢を立て直すように身を捩る。その瞬間にローブの合間からチラりと太腿が露になり、ガラにもなくカッと頬が染まった。
そういえばまだ下着もつけていなかったことに気が付いて、冰は声を上ずらせた。
氷川にしてみればそんな様子も酷く意外だったのだろう。頬を赤らめて恥じらいを隠そうと、しどろもどろに視線を反らす様子など学生時代からは想像さえ付かない、別人そのものだ――何も言わずとも彼の視線がそう語っているのが分かる。
まるで急激に湧き上がった欲情を抑えられないとでもいうように、目の前の漆黒の瞳の中には焔の赤が獲物を狙う獣のように揺れていた。
「……んだよ、急にッ! おい、氷川ッ! てめ、聞いてる!?」
「ああ、聞いてる」
「……とにかくてめえのソファに戻れって……。んな、これじゃまるで……」
「――まるで、何だ」
「や、その……有り得ねえっしょ? これって、その……すっげやべえ……雰囲気」
何でもいいから会話を繰り出し、この淫猥な雰囲気を壊さなければと焦燥感が止め処ない。冰は大袈裟におどけてみせた。
だが、氷川の方はまるで聞いているのかいないのか、ますますもって距離を縮めながら瞳を細めてくる。まるで押し倒さん勢いで体重を掛けられそうになって、咄嗟に膝蹴りを繰り出すかのように両脚で彼の身体を押しやった。が、それと同時に、幸か不幸か、焦って動いたせいでローブが開けて太腿が丸出しになってしまい、更に焦る。それをピンポイントで逃さず捉える目の前の男の視線は既に餌を前にした雄の野獣のようだ。
片や熱気を帯びた視線、
片や焦る視線、
互いに呆然と見つめ合いながら、しばしの間、沈黙が二人を押し包んだ。
「とにかく冗談よせって……! どういうつもりか知らねえが、第一……てめえノンケだろうが……!」
「――ノンケ?」
「……っ、つかそれ以前に俺、タチだし……! だからてめえとはそーゆーの無理っ……ッ」
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