Wild Passion

一園木蓮

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9話

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 もうおどけて誤魔化せる雰囲気ではないことを悟ってか、或いは完全に余裕を失ったわけか、冰はいきなり核心に突っ込むようなことを口走ってしまった。
「それ、専門用語よせって。タチって何だよ、分かるように言えって」
 まるで落ち着いたふうに低い声がそう問う。
 逃がさないとばかりに外してもらえない視線に見つめられながら、急激に背筋を這い上がってくるゾクりとした感覚に驚いて、冰は更に早口でまくし立てた。
「だから、つまりそのっ……俺、ゲイっつったって誰でもいいってワケじゃなくって……」
「俺が趣味じゃねえってことか?」
「……や、あの……そーじゃなくってよ! つまり……挿れるの専門っての? だからお前とは無理っ……! てか、何でいきなりこんなことになんだよ……! とにかく……俺りゃー、てめえに突っ込まれるなんてご免だし、かといって突っ込む気もねえってことで……」
 自分はこんなにも余裕がない男だっただろうか。今まで付き合ってきた恋人に対しても、はたまた一夜限りの火遊びの相手にも、こんな気持ちにさせられた覚えがない。
 そう、いつも余裕綽々で、組み敷く相手が恥じらい戸惑う様を眺めては、気障な台詞の一つや二つ――まるでゲームの勝者のように常に上位に立つのが当たり前だったはずなのだ。それなのに、今はまるで逆だ。アタフタと頬を染めて焦らされているのが自分の方だなんて――複雑な思いに冰はますます挙動不審に陥ってしまいそうになった。
 それとは逆に、氷川の方は酷く冷静にこちらを見下ろしてくる。
「なら、挿れなきゃいいんだろ?」
「……って、おい……! 氷川、てめ……ヒトの話聞いてんのかって……っ!」
 ソファの上に押し倒されて、今度は有無を言わさずといった調子で唇を奪い取られて、ゾワゾワとした独特の感覚に身震いまでもが湧き起こる。
「ちょ……ッ、よせ氷川ッ……!」
 身を捩り、顔を背けてキスから逃れようにもしっかりと両の掌で頬を包み込まれて、その腕の中へと捉えられてしまう。しっとりとした厚みのある唇で押し包まれるようなキスに掴まって、身動きさえままならない。
「……よせって……言……ってん……んっ」
「顔を真っ赤にして言われてもな」
 信憑性がないとばかりに、より一層真顔で迫ってくる。
「あ、はぁッ!? 誰が真っ赤……なんて……」
「触ってるだけでも分かる。頬っぺた、ものすげえ熱いぜ」
「……っそ」
「嘘じゃねえさ」
 遠慮がちだったキスはここまでか、その言葉と同時に完全に押し倒されて肩から背中までを強く抱き締められながら激しく唇を奪われた。口中を掻き回され、歯列を割って舌を絡め取られ、呼吸さえも取り上げられそうだ。思考は蕩け、このまま流されてしまいたいと思う情欲が顔を出し始めて冰は焦った。
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