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極道恋浪漫 第一章
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「――で? 女衒からはいくら巻き上げたんだ」
羅辰が不機嫌をあらわに真っ昼間から酒を煽っている。
「はい、向こう一年の報酬の半分ということで納得させました」
「向こう一年の半分だと? そんなものでは当然足りまい! あの周焔がそれで首を縦に振るとは思えんな!」
「いかにも。ですが、女衒とてあまり締め上げたところで逆効果でしょう。ウチではなく、もっと利のいい他所に話を持って行かれても困ります。かねてからのお約束通り、不足分は私が客を取って当てがいたいと存じます」
「ふん! お前が――ね?」
「はい」
「お前がちょっとその気になれば、あの周焔の首を縦に振らせるだけの金を稼ぎ出すのも朝飯前と言いたいわけか? 相変わらずに尊大というか殊勝というか」
「恐れながら事実でございますゆえ。既に太客への手回しも済んでおります」
「は! いったい一晩でいくらぼったくるんだか! 言っておくが上がりを全部周焔に渡せばそれで済むという話ではないぞ? 珍しくもお前が客を取るというからには――少しはこの私の懐も温めて欲しいものだな」
要はバックマージンを流せという意味だ。言葉をそのまま返すわけではないが、『相変わらずに』図々しいのはどちらだと舌打ちのひとつもしたくなる。だが、そんな思いは微塵も顔に出さないままで紫月は平静を装った。
「心得ております。父と私がこうして安泰に暮らしていられるのも、すべてお頭目のご慈悲ゆえでございますから。とにかくは一刻も早く謝罪に上がったという事実こそが重要です。むろん頭目がおっしゃるようにそれで皇帝様のお気がおさまるかどうかは何とも言えません。周家の出方によっては改めてご報告を申し上げ、対応を考えたいと存じます――」
「……チッ! 女衒も余計な手間を増やしやがって! 万が一その謝罪金で周家が引き下がらなかったらどう落とし前つけてくれようか!」
羅辰とて周一族の婚約者に手を出してしまった手前、簡単に事が済むとは思っていない様子だ。この苛立ちようから察するに、こちらが思っている以上の要求をされるかも知れないと危惧しているように受け取れた。
「それはそうと紫月――。分かっているとは思うが、お前さんが客を取ることについては親父に漏らしてくれるなよ? 奴さんの耳に入れば面倒事が増えるからな。周焔にふんだくられた上に、おめえの親父にまで恨まれたんじゃ割に合わん話だ」
「もちろん、承知いたしております……。此度のことは男遊廓を預かっているにもかかわらず、見落としました私の責任ゆえ、父とは無関係の話。当然口を挟むことではございません」
「ふん、分かっているなら良い」
「は――。ではこれにて失礼を」
ともかくは一番の危惧であった頭目・羅辰に偽の婚約話が疑われるという点に関してはなんとか無事に乗り切れそうなことにホッと胸を撫で下ろす。
と同時に、周家にある程度莫大な謝罪金を支払ったという前例を作れば、この頭目も少しは懲りて、今後女衒によって無理やり拉致されて来る若者たちを少しでも減らすことが叶うかも知れない。遊郭街の現状を憂う紫月にとって、それもまた重要なことのひとつといえるのだった。
◇ ◇ ◇
羅辰が不機嫌をあらわに真っ昼間から酒を煽っている。
「はい、向こう一年の報酬の半分ということで納得させました」
「向こう一年の半分だと? そんなものでは当然足りまい! あの周焔がそれで首を縦に振るとは思えんな!」
「いかにも。ですが、女衒とてあまり締め上げたところで逆効果でしょう。ウチではなく、もっと利のいい他所に話を持って行かれても困ります。かねてからのお約束通り、不足分は私が客を取って当てがいたいと存じます」
「ふん! お前が――ね?」
「はい」
「お前がちょっとその気になれば、あの周焔の首を縦に振らせるだけの金を稼ぎ出すのも朝飯前と言いたいわけか? 相変わらずに尊大というか殊勝というか」
「恐れながら事実でございますゆえ。既に太客への手回しも済んでおります」
「は! いったい一晩でいくらぼったくるんだか! 言っておくが上がりを全部周焔に渡せばそれで済むという話ではないぞ? 珍しくもお前が客を取るというからには――少しはこの私の懐も温めて欲しいものだな」
要はバックマージンを流せという意味だ。言葉をそのまま返すわけではないが、『相変わらずに』図々しいのはどちらだと舌打ちのひとつもしたくなる。だが、そんな思いは微塵も顔に出さないままで紫月は平静を装った。
「心得ております。父と私がこうして安泰に暮らしていられるのも、すべてお頭目のご慈悲ゆえでございますから。とにかくは一刻も早く謝罪に上がったという事実こそが重要です。むろん頭目がおっしゃるようにそれで皇帝様のお気がおさまるかどうかは何とも言えません。周家の出方によっては改めてご報告を申し上げ、対応を考えたいと存じます――」
「……チッ! 女衒も余計な手間を増やしやがって! 万が一その謝罪金で周家が引き下がらなかったらどう落とし前つけてくれようか!」
羅辰とて周一族の婚約者に手を出してしまった手前、簡単に事が済むとは思っていない様子だ。この苛立ちようから察するに、こちらが思っている以上の要求をされるかも知れないと危惧しているように受け取れた。
「それはそうと紫月――。分かっているとは思うが、お前さんが客を取ることについては親父に漏らしてくれるなよ? 奴さんの耳に入れば面倒事が増えるからな。周焔にふんだくられた上に、おめえの親父にまで恨まれたんじゃ割に合わん話だ」
「もちろん、承知いたしております……。此度のことは男遊廓を預かっているにもかかわらず、見落としました私の責任ゆえ、父とは無関係の話。当然口を挟むことではございません」
「ふん、分かっているなら良い」
「は――。ではこれにて失礼を」
ともかくは一番の危惧であった頭目・羅辰に偽の婚約話が疑われるという点に関してはなんとか無事に乗り切れそうなことにホッと胸を撫で下ろす。
と同時に、周家にある程度莫大な謝罪金を支払ったという前例を作れば、この頭目も少しは懲りて、今後女衒によって無理やり拉致されて来る若者たちを少しでも減らすことが叶うかも知れない。遊郭街の現状を憂う紫月にとって、それもまた重要なことのひとつといえるのだった。
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