極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)

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 通されたのは、この巨大な建物にふさわしい、いかにも高級感あふれる部屋だった。まるでどこかの雑誌で見た五つ星ホテルのラグジュアリールームのような雰囲気だ。広々とした部屋には重厚な造りの応接セットが設えてあり、ひょうは少しここでお待ちくださいと言われてソファを勧められた。
 室内にしては珍しい木彫りの極細彫刻が施されたアーチ型の扉の向こうには、次の間があるらしい。リーという男は軽いノックと共にそちらへと入っていった。周焔ジォウ イェンへの取り継ぎの為であろう、少しするとリーが戻って来て、どうぞこちらへと告げた。

 中で待っていた人物を目にするなり、軽い衝撃のような感覚が全身を電流のように突き抜けるのを感じて、しばし呆然となる。

 墨色の――見るからに品の良さそうなダークスーツをまとった長身の男がゆっくりとした所作で大きなデスクから立ち上がる。

 整い過ぎたという以外に形容のし難い男前の顔立ちながら眼力は半端でない。一目で万人を虜にするような華やかな雰囲気は、まるでファッションモデルさながらだ。
 濡羽色ぬればいろの髪をゆるくバックに梳かし付けていて、背後にある一面ガラス張りの窓から差し込む午後の陽射しに照らされ、その黒がキラキラと光る。まごうことなく、それは幼き日に会った漆黒の男だった。

[周焔ジォウ イェンだ。よく訪ねてくれた]
 短くも心のこもったそのひと言を掛けられた瞬間、ひょうの心臓は跳ね上がった。理由もなくドキドキとし出し、思わず挨拶も忘れてその場で硬直してしまう。男を捉えたまま視線が外せずに、ポカンと大口を開けて立ち尽くしてしまっていた。
 そんな様子を変に思ったのだろうか、ジォウという漆黒の男が、今度は日本語で話し掛けてきた。
「どうした? 日本語の方がいいのか?」
 リーから事の次第を聞いた際に、ひょうと広東語でやり取りをしたことも聞いていたらしく、先ずは広東語でと思ったようだ。
「あ、いえ……すみません。広東語でも日本語でもどちらでも大丈夫です。雪吹冰ふぶき ひょうです! 今日は突然お訪ねして申し訳ありません!」
 ガバッと腰を折り、ともすれば舌を噛みそうになりながらも慌てて自己紹介をする。
「そう畏ることはねえ」
 ジォウはわずかに口角を上げると、ひょうにソファを勧めた。
ウォンのじいさんが亡くなったそうだな。知らなかったとはいえ、葬儀にも出られずに不義理をしてすまなかった」
「いえ……! とんでもありません! 俺――いえ、私の方こそジォウさんにはひとかたならぬお世話に与りまして、何と御礼を申し上げても足りません!」
「――亡くなったのはいつだ」
「はい、ひと月ほど前です。その際に、ジォウさんから多大なご支援をいただいていたことを聞きました。どうしても直に御礼を申し上げたくて押し掛けたご無礼をお許しください」
「いや――わざわざすまない。それにしてもお前さん、香港に住んでた割には随分と日本語が達者なんだな」
 ひょうとの今のやり取りでそう感じたのだろう、ジォウは感心顔で言った。
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