極道恋事情

一園木蓮

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周焔編

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「あの……俺、夢……。そう、夢を見たんだ」
「――夢? どんな?」
「んと、じいちゃんが出てきた夢」
「黄のじいさんか」
「うん。それで、いろいろ懐かしいこととか思い出しちゃって。やっぱりちょっとホームシック……なのかも」
 えへへ、と所在なさげに笑う。実際には夢など見たわけではなかったのだが、こんなにも親身になってくれているのに『何でもない』の一点張りではあまりにも申し訳なくて、咄嗟に嘘が口をついて出てしまったのだ。
 そんな彼の様子を見つめながら、周もまた内心では合点がいかない思いを拭い切れずにいた。少しでも気持ちを話してくれたことには安堵するも、その笑顔が精一杯装ったものであるように思えてならなかったからだ。
「――そうか。もしかしたら時期的なものもあるのかも知れねえな。新しい仕事に新しい住処――短い間に環境がめまぐるしく変わって、お前にとっては緊張の連続だったろうからな。だが、そろそろここでの生活に慣れてきたっていう証拠なのかもな。黄のじいさんのことや香港でのことを思い出す余裕ができたってことなんだろう」
「……白龍。そっか。そうなのかも。ありがとね、白龍」
「少しは元気が出たか?」
「うん。……うん! なんか心配掛けちゃってごめん……」
「そんなことは気にするな。お前が元気になったならそれでいい」
 話はそこで終えて二人は出社したが、それでもやはりどことなく元気のない感じは変わらなかった。心配をかけまいと、努めて笑顔を見せる様子は健気であると同時に痛々しく思えなくもない。
 周も気掛かりな様子だったが、生憎とその日は立て続けに来客があり、プライベートなことは話す間もなく昼を迎えた。
 しかも、いつもだったら昼食は二人揃って出掛けることが多いのだが、周は午後から日帰りで関西方面での打ち合わせがあるとのことで、どうしても外せないらしかった。李を伴って午後一の新幹線に乗るというので、冰は一旦隣の棟にある自室に戻って昼食を取ることとなった。一人だし、そんなに食欲もないので、真田には軽めのものをお願いしてダイニングのいつもの席へと腰掛ける。窓の外をぼうっと眺めながら、冰は重たい溜め息を漏らしていた。
「はぁ……。俺もほんとダメなヤツだよなぁ」
 今し方、食事の為のカトラリーなどを揃えてくれた真田も、いつにも増して穏やか且つ丁寧で、『お仕事にも慣れられましたか』などと訊いてくれていた。少なからず心配を掛けているということだろう。
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