極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
35 / 1,212
漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)

35

しおりを挟む
 昼食を済ませると冰は社屋へと戻った。
 周と李は出掛けているし、明日からは週末の連休だ。社長室の隣の部屋で留守を預かっていた劉からも、特に雑務もないので午後は上がっていいと言われたのだが、部屋に帰ったところでやることもない。ちょうどいい機会だし、冰は社内を見てみたくなって、ふらりと巡ることにした。
 周の秘書となってこのかた、殆どは社長室で過ごすか外出するかのどちらかだったので、社内を見て回ることなどなかったのだ。
 この大きなビルの中全体が周の統治する企業が入っているらしく、もちろん子会社などの系列もあるようだが、他社のテナントなどはないと聞いている。これだけの巨大ビルの中で他の社員たちがどのような仕事をしているのか興味が湧いていたのだ。

 吹き抜けのロビーを見渡せる社屋の最上階からエスカレーターで一階ずつ降ってみる。
 全面ガラス張りで仕切られたような近代的な造りの階や、間仕切りのなく部屋全体が見渡せるような階、それとは対照的に内部の様子が分からないように壁で覆われた階など様々だが、どこの部署も洒落た建築の格好いいオフィスという印象だった。
 各部署を行き交う社員たちも何となく洗練されているような雰囲気で、仕事に誇りを持っているのか”デキる”人々といった感じである。冰は軽いカルチャーショックを受けながらも、もしも自分が一社員としてここに就職していたとしたら、正直なところ務まっただろうかという気にさせられてしまった。
 やはり自分はこれ以上ない待遇を与えられているのだ。周への独りよがりの想いや、彼の恋人への焼きもちなど、甚だお門違いだというのを痛感させられる思いだった。
「やっぱり俺、めちゃくちゃ我が侭なこと考えてたんだよね……。ほんと、マジでわきまえなきゃいけないや! 白龍バイロンの秘書なんてすごい役職与えてもらって、あんな豪華な部屋に住まわせてもらってるだけでもとんでもないってのに、反省しなきゃ――」
 苦笑しつつも気を引き締めなければと改めて思う。そろそろ戻ろうかと歩き出した時だった。
「ねえ、あなた! ちょっと待って」
 後方から呼び止められて、冰は声の主を振り返った。

「……あ!」

 そこには見覚えのある女性の姿があった。向こうもこんなところで会った偶然に驚いているといった表情でいる。なんと彼女は、初めて周を訪ねた日に出会った受付嬢の女だったのだ。
「あの、確か……」
「……まさかこんなところで会うなんてね」
 女の方は少々バツが悪いわけか、おずおずとしながらも近寄って来た。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...