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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
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「あの……ひとつ訊いてもいいですか?」
「ん? なぁに?」
今まですっかり忘れていたが、冰は彼女に会ったことで疑問に思っていたことを思い出したのだ。
「悪い意味じゃ全然ないですから、気を悪くしないで聞いていただけますか?」
「うん」
何かしら? といったように彼女が首を傾げる。
「実は――初めて俺がこの会社を訪ねた時のことで、あの……何だかあなたが最初からちょっと冷たいなって思ってしまったんです。会うのはあの時が初めてでしたし、だからどうしてかなって不思議だったんです。俺、何か勘に障るところがあったのかなって」
それは正直な疑問だった。確かにもう一人の受付嬢は普通に客に対する応対をしてくれようとしていたが、今ここにいる彼女は最初から敵意剥き出しといった調子だったからだ。
冰が問うと、彼女は苦笑気味ながらも正直にその理由を答えてくれた。
「そう、やっぱり冷たいって分かった?」
「ええ、まあ……。俺、なんかマズいことしちゃったのかなって気になってて」
「ん、そうじゃないんだけどね。あの時も言ったかもだけど、ちょっとしつこいっていうか図々しいお客がいてね。その人、ホストだったんだけど、何度か訪ねて来てたの。アタシたちがいた受付に社長の予定を教えてくれって言ってきたこともあるけど、会社の前で社長が出てくるのを待ち伏せしてたりすることもあってね」
「……そうだったんだ」
「それだけならまだしつこい営業だなって、よく言えば熱心といえなくもなかったんだけど。噂だけどその人、どうも社長個人のことを気に入っているっていうか……社長のことが好きだったみたいなの」
「好きって……。だってホストっていうんなら男……なんですよね?」
「バカね! 今時、好きになるのに男も女もないわよ。男同士や女同士で付き合うのが珍しい時代じゃないし」
「……はあ。そりゃまあ、そうです……よね?」
「まあ好きになるのは自由だから、それはいいとして。その人の場合はちょっと常軌を逸してるっていうか、ほんっとにしつこかったのよ。あの李さんが直接断っても全然動じなくて。それに、その人の格好も態度もいつもチャラチャラしてて、しまいには見てて腹が立ってきちゃったのよ。そりゃ、顔はまあイケメンだったけど態度がね。社長を好きなのはお金持ちでもあるからっていうのが見え見えだったし。もしも社長が一文なしなら、きっと鼻も引っ掛けなかったと思う。そんなのが社長に釣り合うわけないじゃんって思ったの」
興奮気味に彼女は語った。
「そっか。それで……俺がそのホストさんに似てたとか?」
「今考えたら全然似てない! あなたの方が俄然イイ男だけど、あの時はパッと見、ちょっと似てるかなって思っちゃって。またどこかの店で会った新たな虫が湧いて出たのかーって」
虫って――そこまでけなしたら気の毒だろうと思ったが、それは胸の内だけに留めて彼女の言い分の続きを待つ。
「受付嬢って会社の顔じゃない? だったらアタシがここで退治しなきゃとか、ヘンな正義感が湧いちゃって……」
今考えたらアタシ自身がヘンな奴そのものだったわよねと言って彼女は苦笑した。そして、冰にとっては少々ドキっとさせられるようなことも言ってのけた。
「実はさ、アタシも社長のこと……好きだったのよねぇ」
――――!?
「ん? なぁに?」
今まですっかり忘れていたが、冰は彼女に会ったことで疑問に思っていたことを思い出したのだ。
「悪い意味じゃ全然ないですから、気を悪くしないで聞いていただけますか?」
「うん」
何かしら? といったように彼女が首を傾げる。
「実は――初めて俺がこの会社を訪ねた時のことで、あの……何だかあなたが最初からちょっと冷たいなって思ってしまったんです。会うのはあの時が初めてでしたし、だからどうしてかなって不思議だったんです。俺、何か勘に障るところがあったのかなって」
それは正直な疑問だった。確かにもう一人の受付嬢は普通に客に対する応対をしてくれようとしていたが、今ここにいる彼女は最初から敵意剥き出しといった調子だったからだ。
冰が問うと、彼女は苦笑気味ながらも正直にその理由を答えてくれた。
「そう、やっぱり冷たいって分かった?」
「ええ、まあ……。俺、なんかマズいことしちゃったのかなって気になってて」
「ん、そうじゃないんだけどね。あの時も言ったかもだけど、ちょっとしつこいっていうか図々しいお客がいてね。その人、ホストだったんだけど、何度か訪ねて来てたの。アタシたちがいた受付に社長の予定を教えてくれって言ってきたこともあるけど、会社の前で社長が出てくるのを待ち伏せしてたりすることもあってね」
「……そうだったんだ」
「それだけならまだしつこい営業だなって、よく言えば熱心といえなくもなかったんだけど。噂だけどその人、どうも社長個人のことを気に入っているっていうか……社長のことが好きだったみたいなの」
「好きって……。だってホストっていうんなら男……なんですよね?」
「バカね! 今時、好きになるのに男も女もないわよ。男同士や女同士で付き合うのが珍しい時代じゃないし」
「……はあ。そりゃまあ、そうです……よね?」
「まあ好きになるのは自由だから、それはいいとして。その人の場合はちょっと常軌を逸してるっていうか、ほんっとにしつこかったのよ。あの李さんが直接断っても全然動じなくて。それに、その人の格好も態度もいつもチャラチャラしてて、しまいには見てて腹が立ってきちゃったのよ。そりゃ、顔はまあイケメンだったけど態度がね。社長を好きなのはお金持ちでもあるからっていうのが見え見えだったし。もしも社長が一文なしなら、きっと鼻も引っ掛けなかったと思う。そんなのが社長に釣り合うわけないじゃんって思ったの」
興奮気味に彼女は語った。
「そっか。それで……俺がそのホストさんに似てたとか?」
「今考えたら全然似てない! あなたの方が俄然イイ男だけど、あの時はパッと見、ちょっと似てるかなって思っちゃって。またどこかの店で会った新たな虫が湧いて出たのかーって」
虫って――そこまでけなしたら気の毒だろうと思ったが、それは胸の内だけに留めて彼女の言い分の続きを待つ。
「受付嬢って会社の顔じゃない? だったらアタシがここで退治しなきゃとか、ヘンな正義感が湧いちゃって……」
今考えたらアタシ自身がヘンな奴そのものだったわよねと言って彼女は苦笑した。そして、冰にとっては少々ドキっとさせられるようなことも言ってのけた。
「実はさ、アタシも社長のこと……好きだったのよねぇ」
――――!?
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