極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
74 / 1,212
告げられないほどに深い愛(極道若頭編)

しおりを挟む
 鐘崎とは物心ついた時から幼馴染として兄弟のように育ってきた間柄だ。高校を卒業するまで学園もクラスも一緒で、片時も離れることなくというくらい側で過ごしてきた。もはや相手のことは良いところも悪いところも知り尽くしているわけだが、ただ一つ告げ合っていないことがあるとすれば、それは互いに対する想いだった。
 鐘崎も紫月も共に恋愛対象として意識し合っているし、どう想い想われているのかもよくよく理解できているのだが、それを言葉にして伝え合ったことがないのだ。
 かれこれ十年以上も胸の内にだけ抱え込んでいる想いを告げられずにいるのには、それ相応の理由があった。

 鐘崎の両親は、彼がまだ幼い頃に離縁した。危険を伴う仕事に身を置く環境についていけず、別の男に心を寄せた母親が出ていってしまったのだ。
 鐘崎自身も彼の父親の僚一も気にしていないと言うが、周囲からすれば少なからず気遣うところである。紫月にとっても同様で、なるべく母親の話題については触れずに付き合ってきたつもりだ。
 組織としてもいわば”姐”のいないことになるわけで、いずれ若頭である鐘崎に連れ合いができれば、今度こそ上手くいって欲しいと誰しもが望んでいることだろうと思う。二十七歳といえばそろそろ結婚を意識してもおかしくない年頃だし、実のところ鐘崎にはここ最近ちらほらと縁談話が持ち掛けられていると耳にするようになった。
 いかに彼のことが好きでも、紫月は男性であるし、姐になることはおろか後継を産むこともできない立場である。そんな自分が想いを打ち明けたところで彼を苦しめるだけだ。紫月はずっとそう思ってきた。
 だが、鐘崎の方ではどう考えているのか、割合堂々とスキンシップをしてきたりする。今しがただって部屋に入るなり背後から抱き締めてきたりと、紫月にとっては気持ちを揺さぶられる扱いだ。が、彼もまたそうした大胆な行動のわりには、はっきりと言葉に出して『好きだ』と告げてきたことは一度もない。
 互いが互いをどう想っているのか、はたまたどういう未来を望んでいるのかという肝心な部分が言い出せないまま、ズルズルと過ぎゆく日々に身を任せているといった状態なのであった。

「はぁ……、今からだと二時間くらいっきゃ寝られねっか」
 目覚ましをセットすると紫月はベッドへと潜り込んだ。
「寒……ッ」
 暖房は効いているものの、めくった布団の中は冷んやりと冷たい。こんな時に寄り添って温め合える肌が隣にあればと思うと、心にまで冬の冷気が沁み入るようだった。
「あの野郎、無事に帰れたかな……」
 距離的にはさして遠くない近所だが、すぐ手を伸ばすところに望めるはずのない温もりを思えば、心の中を冷たい北風が吹き荒ぶようだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...