135 / 1,212
香港蜜月
29
しおりを挟む
如何に冰がデキるディーラーであろうと、さすがに足が震えるような金額だ。ファミリーの側近たちは無言ながらも、チラリと互いに視線をくれ合って、どうしたものかと動揺が隠せない。冰のガードに付いている周でこそ、また然りだった。
「ディーラー、こちらのお客様の言い分は論外です。これではゲームになりません。お受けになる道理はないかと」
怪しまれないようわざと丁寧な言葉使いで平静を装いつつも、目配せで無理をするなと訴えている。動向を見守る鐘崎も紫月も、そしてレイも、皆一様にその通りだという顔をしていた。
帽子の男がこれだけ自信満々で言うからには、カードにも何らかの仕掛けがなされているに違いないからだ。
「……そうですね。ですが、ここでお断りすれば当カジノの面目が立ちません……」
冰は、少し困ったなといったふうに表情を固くする。それを見た男の方は、得意顔で嘲笑の眼差しを細めてみせた。
確かにルーレットでの腕前は認めざるを得ないが、別のカードゲームではその手腕を振るえないだろうとばかりに余裕綽々なのだ。冰の顔付きからも戸惑いの様子が見て取れるので、痛いところを突いてやったというふうにして、更に追い詰めに掛かってきた。
「どうなんだ、ディーラー? 自信がないなら無理にとは言わねえ。そのかわり、このカジノでイカサマがあったことをマスコミに暴露するまでだがな」
高笑いする男に、
「……仕方ありません。当カジノでイカサマはございませんし、それを分かっていただく為にもお受けするしかないでしょう」
そう言って、冰は隣のカードゲームの卓へと歩を進めた。
「お客様も、それからご観覧の皆様方もどうぞこちらへ」
ギャラリーの観客たちを促しながら、テーブルの上に置かれていたカードの束を扇状に開いてみせる。そして、それらを開いたり閉じたりして観客を楽しませるべく、ある種マジシャン的な動作で魅せる演出を披露する。
その様子を窺いながら、男は内心でほくそ笑んでいた。
「ディーラー、こちらのお客様の言い分は論外です。これではゲームになりません。お受けになる道理はないかと」
怪しまれないようわざと丁寧な言葉使いで平静を装いつつも、目配せで無理をするなと訴えている。動向を見守る鐘崎も紫月も、そしてレイも、皆一様にその通りだという顔をしていた。
帽子の男がこれだけ自信満々で言うからには、カードにも何らかの仕掛けがなされているに違いないからだ。
「……そうですね。ですが、ここでお断りすれば当カジノの面目が立ちません……」
冰は、少し困ったなといったふうに表情を固くする。それを見た男の方は、得意顔で嘲笑の眼差しを細めてみせた。
確かにルーレットでの腕前は認めざるを得ないが、別のカードゲームではその手腕を振るえないだろうとばかりに余裕綽々なのだ。冰の顔付きからも戸惑いの様子が見て取れるので、痛いところを突いてやったというふうにして、更に追い詰めに掛かってきた。
「どうなんだ、ディーラー? 自信がないなら無理にとは言わねえ。そのかわり、このカジノでイカサマがあったことをマスコミに暴露するまでだがな」
高笑いする男に、
「……仕方ありません。当カジノでイカサマはございませんし、それを分かっていただく為にもお受けするしかないでしょう」
そう言って、冰は隣のカードゲームの卓へと歩を進めた。
「お客様も、それからご観覧の皆様方もどうぞこちらへ」
ギャラリーの観客たちを促しながら、テーブルの上に置かれていたカードの束を扇状に開いてみせる。そして、それらを開いたり閉じたりして観客を楽しませるべく、ある種マジシャン的な動作で魅せる演出を披露する。
その様子を窺いながら、男は内心でほくそ笑んでいた。
38
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる