極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
145 / 1,212
香港満月

1(香港満月 完結)

しおりを挟む
 紫月と冰がそっと部屋を出て行ったそのすぐ後のことだ。
「おい、氷川。起きてんだろうが」
 モゾモゾと寝返りを打ちながら対面のソファを見やると、
「まあな。やっぱりてめえも狸寝入りしてやがったか」
 二人は同時に起き上がると、恋人たちが掛けていった布団を愛しそうに眺めながらクスッと笑い合った。
「まあ、最初はうつらうつらしてたのは本当だがな」
「あんまりに可愛いことしやがるもんで、起きるに起きられんかった」
 二人、共に思いは同じだったようだ。
「あのまま布団に引きずり込んでも良かったんだが……」
 そうすると愛しさが募って、ただ添い寝するだけではおさまるわけもない。
「いくら何でもてめえと一緒の部屋でおっ始めるってのもな……?」
 鐘崎が苦笑すれば、
「言えてるな。冰の可愛い声を聞かせてやる義理もねえしな」
 周も同じように不敵に笑った。
 二人は裏社会に生きる精鋭だ。如何に寝入っていたとはいえ、他人の気配を感じ取れないまま無防備でいるわけはないのだ。
 当然、紫月らが部屋を訪れた時から気がついていたし、そのまま起きてしまってもよかったのだが、彼らが布団を掛けてくれたり、寝やすいように上着を脱がしてくれたりと、あまりに可愛らしいことをするものだから、起きるに起きられなくなってしまったわけだ。
 だが、そのお陰で恋人たちからは嬉しい言葉を聞くこともできたし、甲斐甲斐しく気遣ってくれる様子も体感できて、大黒柱たちにとっては思わぬところで愛情を確認できたのだ。
 添い寝して、あわよくばそのまま抱き締め、愛を紡ぐのもいいが、それとはまた違った形での幸せを感じることができたのは新鮮だった。
「たまにはこういうのも悪くはねえな」
「まったくだ」
 ああも可愛いと欲情を我慢するのは厳しいところだが、それ以上にあたたかい気持ちに包まれて、言葉では言い表しようのない嬉しさが泉のように湧き上がるのだ。

「……ったく、可愛いったらねえな」

 往路と同様、一字一句違わず同時に呟いて、二人はまたも苦笑し合ってしまった。
「せっかくだ。あいつらの気持ちに甘えて、少し休んでいくか」
「ああ、そうだな」
 周と鐘崎はそれぞれの恋人たちが掛けてくれた布団を愛しげに見つめながら、その暖かな温もりに包まれるように瞼を閉じたのだった。

香港満月 - FIN -
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...