極道恋事情

一園木蓮

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狙われた恋人

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「だって――張さんは俺をディーラーとしてすごく評価してくれて、張さんのカジノのフロアに立たせてくれるって言ってくれたんだ。それに、お給料も兄さんのところで秘書をしてるよりもたくさんくれるって……。焔兄さんにはとってもお世話になって、感謝してるんだけど……俺、やっぱりディーラーの仕事がしたいんだ。我が侭だとは思うけど、許してくれたら嬉しいなって」
 申し訳なさそうにしながら胸前で両手を組み、視線を左右に振って泳がせつつも、言葉じりは物怖じすることもなく堂々と言ってのける。少々唇を尖らせ、これではまるで駄々っ子の我が侭少年のようだ。普段の冰を知っている鐘崎や源次郎などは、彼の見事すぎる役者ぶりに噴いてしまいそうにさせられたほどで、表面上はしかめっ面を装うのがたいへんなくらいであった。――と同時に、冰が先程から何度も左右に視線を動かしては、何かを訴えようとしているのを見逃す鐘崎らではなかった。
 視線の先には張の部下と思われる男が二人、無表情でじっと立っている。いわば見張り役のようなものだろうと思っていたが、冰の仕草からは『彼らには充分気を付けて』という信号が感じ取れる。もしかしたら何か罠が用意されているのかも知れない――鐘崎も源次郎もそう察した。
 また、周の方も戦術的な面は鐘崎らに任せながら、冰との芝居のやり取りを楽しんでいた。
「そうか。お前がそんなにこの男の下でディーラーをやりたいのなら好きにすればいい」
「本当!? 兄さん、ありが……」
「――なんて言うと思ったか?」
「え……!? 何だよー! 今の、嘘なの?」
「当たり前だ。そんな我が侭に『はい、そうですか』――なんて言うわきゃねえだろうが」
「そんな……。ぬか喜びさせるなんて酷いよ、兄さん! でも俺、兄さんがどう言おうと、どうしてもここに残ってディーラーがしたいんだ」
「ディーラーならウチのカジノでやればいいだろうが。この前だって春節イベントの時にフロアに出させてやっただろう」
「あんなの、年にたった一度じゃない……。俺は毎日、ちゃんと仕事としてやりたいんだよ」
「毎日俺の秘書をやるのは嫌だってのか?」
「嫌……っていうわけじゃないけど……。でも……」
「冰、お前――ファミリーを舐めてんのか? 黄のじいさんが亡くなったお前を引き取って家族にまでしてやった恩を忘れたか?」
「……それは……だからこうして兄さんに頼んでるんじゃないかー」
「一丁前にひとり立ちしてえってか? お前、俺の側を離れて生きていけると思ってんのか?」
「……何だよ、兄さんはすぐそうやって俺を子供扱いするんだからさ! 俺だってもう大人の男だもんね! 自分の道は自分で決められるんだって!」
「言ったな、このガキんちょが!」
「ガキじゃないってば!」
 すっかり他の者は蚊帳の外といった調子で、兄弟喧嘩のような言い争いを始めた二人に、さすがの張も目を丸くしてしまった。
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