極道恋事情

一園木蓮

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狙われた恋人

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『雪吹君、昨夜はしっかり休めなかっただろうからな。今夜に備えて少し休んでくれたまえ。キミに使ってもらう部屋へ案内する』
『ありがとうございます。でも張さん、俺、ちょっと練習したいんです。ルーレットのボールを狙った位置に落とすのって本当にたいへんで……しくじったらいけないから張さんのカジノの盤にも慣れておきたいんです。それに、ちょっと買い物にも出掛けていいですか?』
『買い物? 何か欲しいものがあるのか?』
『今夜着るディーラーの衣装を選びたいなと思って』
『衣装ならウチの制服があるが――』
『ええ、それでもいいんですけど、俺の今後の人生を決める大事な勝負ですから。先ずは身支度から気構えを持てっていうのが黄のじいちゃんの教えだったんですよ』
『そうか、そうか。分かった。それじゃ好きな服を選ぶといい』
『ありがとう張さん! ね、張さんはどんな服で行かれるんですか?』
『そうだな、俺は中華服で行こうと思っている。普段はスーツが多いが、今夜は特別だしな。キミの為に正装するのも悪くない』
『うわぁ、嬉しいです! それじゃ、俺も中華服にしようかな。張さんも一緒に買い物に行ってくれますか?』
『もちろんだ。俺はキミの財布でもあるからな。どんな高価な衣装でも遠慮せずに選びたまえ』
『わぁ! 張さんってやっぱりやさしいんだー! 嬉しいなー』
 喜々とはしゃぐ音声を聞き流しながら、周は『チッ――』と小さな舌打ちをした。これが芝居だと分かってはいても、実際気分のいいものではない。
「――ったく! 冰のやつ……戻ったら抱き潰す――!」
 フン! と唇を尖らせ独りごちながらも、すかさず携帯を取り出してはホテルで待機しているファミリーの側近たちに連絡を入れるのも忘れない。
「――俺だ。これから冰が張と共に買い物に出掛けるから、気付かれないように後をつけてくれ。何を買ったかをできる限り詳細に報告して欲しい」
 盗聴器の音声からは今夜着るディーラー用の服を買いたいと言っていたが、周にはそれがどうにも引っ掛かっているのだ。服などカジノ専用の制服があるだろうに、わざわざ新しいものを用意したいということは、そこに何らかの意図があるような気がするからだった。
 冰なりにいろいろと考えを巡らせているのだろうことを思えば、その意図を漏らすことなく察して受け止めてやりたい。周の深い愛情が窺えた。
 嫉妬の言葉を口走りながらも、すべき手立てに抜かりはみせない。そんな周を横目に、鐘崎と源次郎はやれやれと目配せをし合ったのだった。



◇    ◇    ◇


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