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恋敵
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周の元恋人ということについては気持ちが穏やかではないが、この女性も周を想う気持ちは真剣なのだと思えた。
「あの……よろしければ俺が彼に話しますんで、お会いになりますか? 今夜は仕事の接待があって出掛けていますが、また後日にでも時間を作ってもらいますから……」
何だか気の毒に思えて、気が付けば冰はそう口走っていた。ところが、女の方は冰からそう言われたことが癇に障ったのか、額の剣を更に険しくすると、
「何よ……あなたが取り次いでやろうっていうの? アタシのことを憐んででもいるのかしら!?」
キッと睨みを据えながら暴言とも思えるようなことを口にした。
「そんなつもりじゃ……」
「恋人面しないでよ! ほんっと、図々しいんだから!」
さすがにこれでは冰が気の毒だ。紫月は思わず「おいおい――」と二人の間に割って入った。彼が他人を憐れんだり蔑んだりする性質でないことはよく知っているからだ。
「冰君はあんたが思ってるような嫌な人じゃねえって! とにかく落ち着けよ」
「指図しないで! っていうより……あなたいったい誰よ!? さっきっからお節介だわ!」
「誰って……俺は氷……いや、周焔とこの冰君の友人だって」
「へえ、そうなの。友人――ね。だったら、あなたが焔に取り次いでよ。とにかくこの子の世話になるのだけは絶対にご免だわ!」
冰を睨み付けながらあからさまにプイとそっぽを向いた女に、やれやれと肩をすくめる。
「まあ、とりあえず周焔に報告しないわけにもいかねえだろうから?」
紫月が呆れ気味にそう言った時だった。またしても突如個室の扉が開かれたと思ったら、今度は見知らぬ男が三人ほど、ドヤドヤと割り込んできた。見るからにガラの悪そうなチンピラ風情である。
[見つけたぞ、このアバズレ!]
[もう逃がさねえぞ! 覚悟しやがれ!]
広東語らしき言葉でそう言い放ち、あっという間に女を取り囲んで羽交い締めにしてしまった。
[きゃあッ! 何するのよ! 離して! 離してったら!]
[うるせえ! ギャアギャア騒ぐな、クソ女が!]
突然の騒動に紫月も冰も唖然である。
[ちょっ……! 何なんだ、あんたら]
紫月がたどたどしいながらも広東語でそう叫んだが、男たちの目当てはどうやら女だけのようだ。
[てめえらにゃ用はねえ! 怪我したくなかったらおとなしくしてろ!]
[嫌ー! 離して! 離してよッ!]
女は無我夢中といったように暴れまくっている。
「チッ……仕方ねえ。とりあえずこの場は逃げるっきゃねえな」
紫月は言うと同時に、一番近くにいた男の脚を蹴り飛ばして、よろけた隙に鳩尾に拳を入れた。
[ぐぁッ……!]
一人目をその場に沈めると、立て続けに二人目の首筋を薙ぎ払うように一発を見舞う。
「冰君、逃げろッ! ここを出るんだ!」
冰はコクコクとうなずくと、
「あ、あなたも……早く!」
とっさに女の腕を掴んで部屋を飛び出した。すぐ後からは三人目の男も沈めた紫月が駆けてくるのを確認しながら、一目散に店を出て全速力で夜の街を走り抜けた。
「あの……よろしければ俺が彼に話しますんで、お会いになりますか? 今夜は仕事の接待があって出掛けていますが、また後日にでも時間を作ってもらいますから……」
何だか気の毒に思えて、気が付けば冰はそう口走っていた。ところが、女の方は冰からそう言われたことが癇に障ったのか、額の剣を更に険しくすると、
「何よ……あなたが取り次いでやろうっていうの? アタシのことを憐んででもいるのかしら!?」
キッと睨みを据えながら暴言とも思えるようなことを口にした。
「そんなつもりじゃ……」
「恋人面しないでよ! ほんっと、図々しいんだから!」
さすがにこれでは冰が気の毒だ。紫月は思わず「おいおい――」と二人の間に割って入った。彼が他人を憐れんだり蔑んだりする性質でないことはよく知っているからだ。
「冰君はあんたが思ってるような嫌な人じゃねえって! とにかく落ち着けよ」
「指図しないで! っていうより……あなたいったい誰よ!? さっきっからお節介だわ!」
「誰って……俺は氷……いや、周焔とこの冰君の友人だって」
「へえ、そうなの。友人――ね。だったら、あなたが焔に取り次いでよ。とにかくこの子の世話になるのだけは絶対にご免だわ!」
冰を睨み付けながらあからさまにプイとそっぽを向いた女に、やれやれと肩をすくめる。
「まあ、とりあえず周焔に報告しないわけにもいかねえだろうから?」
紫月が呆れ気味にそう言った時だった。またしても突如個室の扉が開かれたと思ったら、今度は見知らぬ男が三人ほど、ドヤドヤと割り込んできた。見るからにガラの悪そうなチンピラ風情である。
[見つけたぞ、このアバズレ!]
[もう逃がさねえぞ! 覚悟しやがれ!]
広東語らしき言葉でそう言い放ち、あっという間に女を取り囲んで羽交い締めにしてしまった。
[きゃあッ! 何するのよ! 離して! 離してったら!]
[うるせえ! ギャアギャア騒ぐな、クソ女が!]
突然の騒動に紫月も冰も唖然である。
[ちょっ……! 何なんだ、あんたら]
紫月がたどたどしいながらも広東語でそう叫んだが、男たちの目当てはどうやら女だけのようだ。
[てめえらにゃ用はねえ! 怪我したくなかったらおとなしくしてろ!]
[嫌ー! 離して! 離してよッ!]
女は無我夢中といったように暴れまくっている。
「チッ……仕方ねえ。とりあえずこの場は逃げるっきゃねえな」
紫月は言うと同時に、一番近くにいた男の脚を蹴り飛ばして、よろけた隙に鳩尾に拳を入れた。
[ぐぁッ……!]
一人目をその場に沈めると、立て続けに二人目の首筋を薙ぎ払うように一発を見舞う。
「冰君、逃げろッ! ここを出るんだ!」
冰はコクコクとうなずくと、
「あ、あなたも……早く!」
とっさに女の腕を掴んで部屋を飛び出した。すぐ後からは三人目の男も沈めた紫月が駆けてくるのを確認しながら、一目散に店を出て全速力で夜の街を走り抜けた。
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