極道恋事情

一園木蓮

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恋敵

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「張さんのお気持ちは本当に有り難く思いますが、これは賭け事です。万が一にも大負けすることもないとはいえませんから、元手は一から作りたいと思います」
「雪吹君……だが、それじゃキミの負担が大き過ぎやしないか?」
「大丈夫です。少しずつ、テーブルをはしごして元手を増やしていきますので。そして、勝負ができるところまで整ったら――最初は少ないベットで適度に相手を勝たせます。それを数回繰り返せば、ディーラーの癖が把握できると思いますので、油断を誘えたところで一撃で潰します」
 本来、こういったやり方をするには、ある程度資金作りに協力してもらえる人数がいるとスムーズなのだが、今回は時間的に余裕がないし、そうもいっていられない。なるべく目立たずに少しずつ――店側が”今夜はどうも調子が悪い”と気付く頃にはすっかり大金に膨らませる必要があるのだ。それまではどのテーブルでも覚えられることなく、舐められる客でもなく、かといって警戒されるでもなく、空気のようにズルズルと勝ち続けて、一発勝負に出る為の資金を膨らませていかなければならないわけだ。
「目を付けられないように各テーブルで別人になるといった役者的要素が必要ですが、そこは任せてください。夜までに変装用の服などを揃えて、準備を整えたいと思います」
 冰の目は真剣だ。そして何より自信に満ちている。これまでも周ファミリーのカジノでの勝負の時や、張と対決した時などの経緯を見聞きしている紫月であっても、まるで普段とは別人と思えるほどに大人びて見える。空恐ろしささえも感じさせるほどだった。
 これが本物の自信の成せるオーラなのだろうか。紫月はほとほと感服の思いで冰を見つめてしまった。
「遼も言ってたが、冰君はエージェントにしたらめちゃくちゃキレ者になるって、あの言葉の意味が分かったよ。ほんと、大したものだ。それでこそ周焔の姐だな」
 紫月が感心する傍らで、張の方は少々不安そうに考え込んでもいた。
「でも本当にいいのかい? 一応、周焔さんやお父上の頭領・周にもご許可をいただいてからの方がいいかとも思うんだが」
 なるほど、申し出は有り難いが、一応主人である周ファミリーの諾をと思うのは張の誠意なのだろう。それに対しては紫月が返事を買って出た。
「それについては私が責任を持ちますので、冰君にやらせてやってください。それと、万が一を考えて、私も同行させていただきたいと思います。冰君に何かあった時に側で守ってやれるように。つまりはボディガードのようなものです」
「それは有り難いね。実は警備を兼ねて万一の乱闘が起きた時の為にと思って、腕の達つ人材は一応確保してはあるんだよ。ウチの若い連中も連れて行くことになっているんだが、一人でも多い方がいい。特に雪吹君のガードを頼めるなら有り難いことこの上ないよ。何せ彼は周家の大事なお人だ。若い奴らには荷が重いだろうからね」
「お任せください。これでも少しは役に立てると思います。それから、そのカジノの見取り図などもあると助かります。警備関係や万が一の時の為の脱出経路なども頭に入れておきたいので」
「分かった! そちらの詳細は任せてくれたまえ」
 三人はすぐに準備に取りかかるべくホテルを後にしたのだった。
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