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厄介な依頼人
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決して派手ではないが、洒落ていて質のいいダークなスーツに身を包み、長身で男前の容姿は黙っていても周囲の視線を釘付けにしている。しかも、従えている清水に橘、春日野の三人もなかなかにいい男の上、誰もがビシッとスーツ姿で決めている様は、否が応でも目を引くというわけだ。チケットを切る受付嬢らもドキドキとしたように頬を染め、来場者たちでさえ遠巻きに囁き合うほどだった。
「遼二さん……! 来てくださったのね!」
繭はそれこそ有頂天といった様子で甲高い声を上げた。
「――この度はおめでとうございます」
鐘崎が一応は丁寧に頭を下げながらそう言うと、繭を取り囲んでいたご令嬢たちも一気に頬を染め上げた。あわや大歓声が湧くかと思いきや、意外にも皆が絶句したようにその場に立ち尽くしては、恥ずかしそうに後退りする。想像していたよりも遥かに見目の良い男前ぶりに、騒ぐより以前に心臓を射抜かれたというような挙動不審の様子で、誰もがモジモジと頬を染めるのが精一杯といった調子なのだ。
そんな友たちに囲まれて、繭はより一層高揚をあらわにしたようだった。
「あの……今日はようこそ」
「いえ。こちらこそご招待いただきありがとうございます。こちらがお嬢様のお作品ですか?」
鐘崎が訊くと、繭は顔を真っ赤にしながらもコクコクとうなずいた。
「お、お嬢様だなんて……そんな他人行儀な呼び方なさらないで……。でも来てくださって嬉しいわ。今回は……その、遼二さんをイメージして生けたんですのよ」
「――私をですか? それは恐縮です」
鐘崎はしばし作品を眺めると、
「私は華道のことはよく分かりませんが、とても綺麗な生け花ですね」
当たり障りのない褒め言葉を口にし、側にいた清水らも同様だというふうにうなずいた。
「ね、繭さん。そろそろご紹介してくださらない?」
「そうよ、そうよ、独り占めはいけなくってよ」
しばらくはおとなしく様子を窺っていたご令嬢たちが痺れを切らしたように繭を急っつき始める。
「あ、ええ……そ、そうね。ごめんなさい。ご紹介するわ。こちら鐘崎遼二さん」
繭も皆に囲まれて得意げに頬を染めた、その時だった。
「遼二? 遼二じゃないかい?」
品のいいテノールの声に皆が一斉に後ろを振り返れば、そこには白馬の王子様といった雰囲気の男がにこやかに微笑みながらこちらへと近付いて来た。
「やっぱり遼二だ! まさかこんなところで会うとは奇遇だね」
「お前、粟津? ――粟津帝斗か?」
「そうだよ。かれこれ二年ぶり……いや、もっとになるかな。最後に会ったのはお前さんの披露目の席だったからね」
「もうそんなになるか。その節はいろいろと気遣いしてもらってすまない」
「いやいや、こちらこそだよ。それにしても珍しいこと! お前さんが花に興味があるとはね」
「遼二さん……! 来てくださったのね!」
繭はそれこそ有頂天といった様子で甲高い声を上げた。
「――この度はおめでとうございます」
鐘崎が一応は丁寧に頭を下げながらそう言うと、繭を取り囲んでいたご令嬢たちも一気に頬を染め上げた。あわや大歓声が湧くかと思いきや、意外にも皆が絶句したようにその場に立ち尽くしては、恥ずかしそうに後退りする。想像していたよりも遥かに見目の良い男前ぶりに、騒ぐより以前に心臓を射抜かれたというような挙動不審の様子で、誰もがモジモジと頬を染めるのが精一杯といった調子なのだ。
そんな友たちに囲まれて、繭はより一層高揚をあらわにしたようだった。
「あの……今日はようこそ」
「いえ。こちらこそご招待いただきありがとうございます。こちらがお嬢様のお作品ですか?」
鐘崎が訊くと、繭は顔を真っ赤にしながらもコクコクとうなずいた。
「お、お嬢様だなんて……そんな他人行儀な呼び方なさらないで……。でも来てくださって嬉しいわ。今回は……その、遼二さんをイメージして生けたんですのよ」
「――私をですか? それは恐縮です」
鐘崎はしばし作品を眺めると、
「私は華道のことはよく分かりませんが、とても綺麗な生け花ですね」
当たり障りのない褒め言葉を口にし、側にいた清水らも同様だというふうにうなずいた。
「ね、繭さん。そろそろご紹介してくださらない?」
「そうよ、そうよ、独り占めはいけなくってよ」
しばらくはおとなしく様子を窺っていたご令嬢たちが痺れを切らしたように繭を急っつき始める。
「あ、ええ……そ、そうね。ごめんなさい。ご紹介するわ。こちら鐘崎遼二さん」
繭も皆に囲まれて得意げに頬を染めた、その時だった。
「遼二? 遼二じゃないかい?」
品のいいテノールの声に皆が一斉に後ろを振り返れば、そこには白馬の王子様といった雰囲気の男がにこやかに微笑みながらこちらへと近付いて来た。
「やっぱり遼二だ! まさかこんなところで会うとは奇遇だね」
「お前、粟津? ――粟津帝斗か?」
「そうだよ。かれこれ二年ぶり……いや、もっとになるかな。最後に会ったのはお前さんの披露目の席だったからね」
「もうそんなになるか。その節はいろいろと気遣いしてもらってすまない」
「いやいや、こちらこそだよ。それにしても珍しいこと! お前さんが花に興味があるとはね」
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