極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
266 / 1,212
厄介な依頼人

15

しおりを挟む
 チラリと応接室の方を窺うと、扉は開け放たれており、そのことからも鐘崎が彼女と密室で二人きりになるという状況を避けている様子が見て取れた。
 静かに近くまで行き、そっと会話に耳をこらす。すると、どうやら二人共立ったままで話していたようで、
「あの……これは先日のお祝儀の御礼です。鐘崎さんに似合うと思って選んだんですが……使っていただけたら嬉しいわ」
 娘が洒落た包装紙に包まれた箱を差し出している様子が垣間見えた。
 それにしてもえらく大きな箱である。いったい何が入っているのだろうかと、正直なところ興味がなくても中身が気になってしまうほどの代物だ。しかも、一目で高級と分かるブランドものの包み紙は、内祝の品というよりも恋情が見え見えのプライベートなプレゼントといったところである。そんな大層な物を貰ってしまったとしたら、色々な意味で重荷になりそうなのは聞かずとも想像がつくというものだ。
 案の定、鐘崎もすぐには受け取らずに、祝儀はほんの心ばかりであるし、既に清水が菓子折を貰い受けているとも聞いているので、このような気遣いは過分だとも言っている。
「お嬢さん、誠に恐縮ですが、我々は仕事の報酬以外に接待や金品のご厚意をご遠慮させていただくのが決まりです。ここはお気持ちだけ頂戴させていただきたく存じます」
 立ったままで話していることからしても、彼女に椅子を勧めずに挨拶のみで終わらせたいらしいことが窺えた。
 周は一旦応接室から離れると、わざと大きな所作で足音を立てながら再び応接室へと向かいながら、
「おい、鐘崎。何やってんだ? いったいいつまで待たせる気……」
 そこで初めて先客に気付いたような素振りで、驚き顔をしてみせた。
「何だ、客人だったか。これは失礼」
 娘を一瞥し、わざとらしく瞳を見開いてみせる。いつものように『カネ』ではなく、他人行儀な呼び方をしたことで、鐘崎本人には周の助け舟の意図が読み取れたようであった。
 そんな周は、長身の鐘崎よりも数センチ上回る堂々とした体格で、顔立ちも万人が見惚れるほどの男前ぶりだ。それよりも何よりも、若くして大きな企業を背負って立つ経営者である上に、マフィアのファミリーでもある。例えその素性を知らずとも全身から滲み出る雰囲気は見るものを圧倒するオーラが半端でない。娘にもそう映ったのだろう、驚いたように硬直すると、
「あ、あの……も、もう失礼するところでしたから……!」
 焦ったように後退りし、周に席を譲らんとソファの上に置いていたバッグを手に取った。
 その様子に鐘崎はホッとしたように小さく肩を落とすと、視線だけで『助かった』と周に礼を告げた。
「あ、あの……ではこれで……。突然にお邪魔してしまってすみません」
 渡そうとしていた大きな箱も周の登場ですっかり気が動転したわけか、無意識のまま持って帰るべく手にしている。
「いえ、こちらこそわざわざご丁寧に恐縮です」
 鐘崎は娘を玄関まで見送りながら、外に車が待っていないことに気付いて、怪訝そうに首を傾げた。
「お嬢さん、車は外ですか?」
「あ、いえ……今日は歩きで来ましたの」
「お一人でですか? お父上はご存知で?」
「え……いえ、父には……近々お礼に伺うつもりだとだけは……」
 言いづらそうに口ごもる様子からして、今日出向いて来たことは告げていないのだろうと思えた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...