極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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「何よ! 極道だからダメだっていうの!? パパがそんな見方をしてたなんて見損なったわ! それに……パパみたいな頭の固い人がいるからあの人が男になんか走るのよ! 鐘崎さんだって本当はちゃんとした奥様をもらって、後継ぎだって欲しいと思っているはずだわ! それなのに……変な男になんか引っ掛っかって、心の中では後悔しているかも知れないわ!」
 引っ掛かってとは、さすがにあまりな言い方である。
「繭! 口を慎みなさい! 確かに世間的には珍しいことかも知れんが、それは周囲がどうこう言うことじゃない。ご本人たちだっていろいろと厳しい思いもしているだろうし、覚悟を持ってお互いを選ばれているんだ。そんなところに割り込もうだなんて考えは捨てて、もう諦めなさい!」
「……そんなことない……。誰にだって気の迷いはあるわ! 一時の感情で男の人に傾いたとしても、長い目で見れば……あの人だって堂々と世間に奥さんですって言える女性が側にいた方がいいに決まってるわ! ……アタシは鐘崎さんを諦めるつもりなんかない! 絶対に諦めないから!」
 まるで鐘崎の軌道を正して救ってやれるのは自分しかいないと思い込んでいるような言い分だ。
「いい加減にしなさい! あの人は既婚者だ! いつまで我が侭を言っているんじゃない!」
「既婚者って……相手は男でしょう? そんなの既婚って言わないわ! 何よ……今夜鐘崎さんに会う前はパパが何とかしてやるって……言ったのに……帰ってくるなり今度は諦めろって……そんなの酷いわよ!」
「彼のどこがそんなにいいんだ。私が仕事を依頼して初めて知り合った――それだけの関係だろうが! ただ見た目が格好いいというだけで、それを好きという感情にすり替えてしまっているだけじゃないのか?」
「違う違う!」
 ブンブンと千切れんばかりに首を横に振っては、悔しそうに涙を流して唇を噛み締める。
「なぁ、繭。確かに……彼はずば抜けて美男子だとは思うが、ああいった男は例え一緒になったとしても誰かに盗られやしないかと気苦労も絶えんと思うぞ? それよりは身の丈に合った穏やかでやさしい男性はいくらでもいる。今のお前はな、いわば芸能人や映画スターに憧れるような感覚でいるだけなんだ。もっと現実を見て……」
「そんなわけないでしょ! もういい! パパの役立たず! 顔もみたくないわ!」
「繭! 待ちなさい、繭!」
 繭は癇癪を起こしたようにして、泣きわめきながら自室へと駆け込んでしまった。
「……まったく! 困ったものだ」
 それ以来、父親が在宅中は自室に引きこもるようになり、リビングにさえ出てこなくなってしまった。秘書の仕事も放り投げて、会社でも顔を合わせたくないという態度である。父親の方も仕事が多忙なこともあって、娘のことには当たらず触らずという日々が続いた。
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