極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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 男の態度にも驚かされるところだが、それより何より彼が言った『自分の女』という台詞の意味の方に首を傾げさせられる。つまり、この男にとっては鐘崎が繭の恋人という認識でいるらしい。
「おい――、お前とお嬢さんとは一体どういった関係なんだ? 何故こんなことをした?」
「え? 何?」
 男はひょうひょうとしたまま我が物顔でソファへと腰掛けて、伸びまで繰り出すリラックスぶりでいる。
「なぁ、あんたはやっぱ、こーゆートコ来慣れてんの? 金持ちってのは羨ましいねぇ。俺らにしてみりゃさぁ、こーんな超高級ホテルなんて滅多に来られねえわけよ。飲み物からしてプレミアもん揃いで感激ー! つか、ツマミも旨えし、マジ最高! ってかー?」
 テーブルの上には缶ビールやらワインのクォーターボトルやらの空き瓶が数本とグラスが散らばっている。男の言うようにツマミの袋や缶も開けられていて、見たところ部屋に設られているミニバーのものを数人で空けたと思われる。
「お嬢さんは何処だ」
 娘の姿が見当たらないのでそう尋ねると、男は相変わらずの無警戒ぶりで、『あっち』と、寝室らしき扉を指さした。
「それよか、マジで持って来てくれたんだ? それ、金だろ?」
 アタッシュケースを見て、興奮気味に目を輝かせている。
「な、な! とりま、中開けて見せてよ!」
 あまりの堂々ぶりに、裏の世界に身を置く鐘崎からしてみれば、この軽率そうな男の態度は逆に巧妙な手口に映ってしまうといったところだ。素人を装ってこちらの意表をつくつもりであるなら、相当なキレ者だろうかと身構えさせられるほどだった。
 プロ中のプロか、はたまたズブの素人か。判断する為にも、鐘崎は言われた通りにアタッシュケースをテーブルの上に置いて蓋を開け、中の札束を男に見せた。と同時にいつでも体術で応戦できる体勢も忘れない。金を手にしたと同時にどんな攻撃が飛んでくるか分からないからだ。
 鐘崎のいる世界とはそういうものである。ところが、男はどうやら本当に素人同然だったようだ。
「うわっ、すっげえー! マジ本物かよ!」
 既に鐘崎の存在などそっちのけで、男が思わず歓喜の大声を上げた時だった。奥のベッドルームから『キャア!』という女の悲鳴が聞こえてきて、鐘崎は即座に身構えた。その叫び声は通信無線を通して廊下にいた周にも伝わったのだろう。すぐに彼も部屋へと飛び込んで来てくれて、最初に応対に出た暢気な男を瞬時に捻じ伏せて捕らえてくれた。清水と若い衆らも後に続き、テーブルの上にあったアタッシュケースごと金を回収する。この間わずか数秒、背後の憂いがなくなったところで、鐘崎はすかさずベッドルームへと向かった。
 ドアを蹴破る覚悟でいたが、何と鍵はかかっておらず、すんなりと開いたことにも驚かされる。だが、ベッドの上では繭が男に組み敷かれていることに、更に驚かされるハメとなった。
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