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厄介な依頼人
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とにかくは川久保老人が連れて行かれたという工場跡へ行ってみることにする。街中で悪さをするにはさすがに目立つし、犯人としては人目のないところで巻き上げるつもりなのだろう。
「とりあえず組にも応援をよこしてくれるように一報入れます!」
春日野がすぐに清水宛てに電話を入れる傍ら、紫月は彼と共に一足先に現場へと踏み込むことにした。応援が来るのを待っている間、万が一にも老人が暴力などを受けて痛い目に遭わされたらいけないし、こういう場合は時間が勝負だからだ。
ところが、中へ入ってみると想像していたよりも遥かに多いゴロつきふうの男たちで溢れ返っていることに驚かされる羽目となった。ザっと見たところ十人くらいは優にいそうだ。
川久保老人は両脇を男たちに捕えられていたが、幸い駆け付けたのが早かったので、まだ怪我もしていない様子に安堵する。
「じいちゃん! 無事か?」
「おい、お前ら、何やってんだ!」
二人は怒鳴ったが、薄暗がりの中、男たちに混じって一人の女がいることに気がついて、更に驚かされてしまった。
「あの女……まさか?」
なんと、ゴロつきたちと共に三崎財閥の娘である繭がいたからである。
紫月は彼女の顔に見覚えはなかったものの、春日野は依頼時や華道展で顔を合わせているから、見間違えるはずもなかった。
「あんた、三崎財閥の娘さんだな……。これはいったいどういうことだ」
すかさず春日野が紫月を庇うように前に出て、そう問いただす。すると、川久保老人を捕まえていた男たちが、信じられないようなことを言ってのけた。
「じいさん、良かったなー。お迎えが来たぜ! あんたの役目はこれで終わりだ。解放してやっから、とっとと消えな!」
老人を突き飛ばすようにして紫月らの目の前へと差し出した。
「じいちゃん! 怪我はねえか?」
躓きそうになった老人を紫月が間一髪で抱き留めてそう声を掛ける。
「紫月ちゃん! すまねえ、迷惑掛けちまって……」
「いや、構わねえって! 無事で良かった」
問題はその目的である。すぐに老人を解放したところをみると、本命はカツアゲでも何でもなく、紫月の方であるのだろう。特に春日野は繭の存在を目にした瞬間からそう睨んでいた。
「姐さん、ご主人と一緒に後ろに下がっていてください」
身を盾にするべく両腕を広げてそう囁く。だがその様子を見ていたゴロつき共が嘲るように笑い出したのに、現場には一気に緊張が走った。
「情けねえなぁ! 野郎のくせに野郎に庇ってもらうなんてさぁ。アンタ、男にホられて喜んでるって話だけど、それマジなのか?」
「つか、姐さんって何? あんたらヤクザごっこでもしてんのー?」
ギャハハと一斉に品のない笑い声が響く。この男たちは紫月らの素性――つまりは本物の極道だということ――を知らないのだろう。
「とりあえず組にも応援をよこしてくれるように一報入れます!」
春日野がすぐに清水宛てに電話を入れる傍ら、紫月は彼と共に一足先に現場へと踏み込むことにした。応援が来るのを待っている間、万が一にも老人が暴力などを受けて痛い目に遭わされたらいけないし、こういう場合は時間が勝負だからだ。
ところが、中へ入ってみると想像していたよりも遥かに多いゴロつきふうの男たちで溢れ返っていることに驚かされる羽目となった。ザっと見たところ十人くらいは優にいそうだ。
川久保老人は両脇を男たちに捕えられていたが、幸い駆け付けたのが早かったので、まだ怪我もしていない様子に安堵する。
「じいちゃん! 無事か?」
「おい、お前ら、何やってんだ!」
二人は怒鳴ったが、薄暗がりの中、男たちに混じって一人の女がいることに気がついて、更に驚かされてしまった。
「あの女……まさか?」
なんと、ゴロつきたちと共に三崎財閥の娘である繭がいたからである。
紫月は彼女の顔に見覚えはなかったものの、春日野は依頼時や華道展で顔を合わせているから、見間違えるはずもなかった。
「あんた、三崎財閥の娘さんだな……。これはいったいどういうことだ」
すかさず春日野が紫月を庇うように前に出て、そう問いただす。すると、川久保老人を捕まえていた男たちが、信じられないようなことを言ってのけた。
「じいさん、良かったなー。お迎えが来たぜ! あんたの役目はこれで終わりだ。解放してやっから、とっとと消えな!」
老人を突き飛ばすようにして紫月らの目の前へと差し出した。
「じいちゃん! 怪我はねえか?」
躓きそうになった老人を紫月が間一髪で抱き留めてそう声を掛ける。
「紫月ちゃん! すまねえ、迷惑掛けちまって……」
「いや、構わねえって! 無事で良かった」
問題はその目的である。すぐに老人を解放したところをみると、本命はカツアゲでも何でもなく、紫月の方であるのだろう。特に春日野は繭の存在を目にした瞬間からそう睨んでいた。
「姐さん、ご主人と一緒に後ろに下がっていてください」
身を盾にするべく両腕を広げてそう囁く。だがその様子を見ていたゴロつき共が嘲るように笑い出したのに、現場には一気に緊張が走った。
「情けねえなぁ! 野郎のくせに野郎に庇ってもらうなんてさぁ。アンタ、男にホられて喜んでるって話だけど、それマジなのか?」
「つか、姐さんって何? あんたらヤクザごっこでもしてんのー?」
ギャハハと一斉に品のない笑い声が響く。この男たちは紫月らの素性――つまりは本物の極道だということ――を知らないのだろう。
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