299 / 1,212
厄介な依頼人
48
しおりを挟む
その数日後、紫月は鐘崎に誘われてベイサイドにある老舗ホテルに来ていた。夕陽が落ちる寸前から街の灯りが煌めき出す絶景の時間帯にホテル上層階にあるフレンチレストランでゴージャスなディナーデートである。
「いきなしこんなトコでメシ食おうだなんてさ、どうかしたのか?」
紫月が驚いたように瞳をグリグリとさせている。
「今回、お前には苦労を掛けたからな。日頃の感謝も込めて、たまには水入らずのデートもいいかと思ってな」
「はは! ンな感謝だなんてよぉ。大袈裟なんだから」
「それに、ちょっと話したいこともあってな」
「話? 俺に?」
それなら家ででもいいのにと、紫月は不思議顔だ。
「大事な話なんだ」
鐘崎が真顔でじっと見つめながらそう言うのに、ますます首を傾げてしまった。
「何だよ、改まって……」
「なぁ、紫月。俺らが伴侶として生きると決めて、披露目の宴も行ってから二年半になるな」
「ああ、もうそんなになるか」
「俺はお前と共に生きられればそれだけでいいと思ってきたんだが……」
「うん……」
「実は前々から頭の隅にはあったことなんだが、俺とお前の籍のことだ」
「籍?」
紫月はまたひとたび不思議そうに瞳を見開きながら真向かいの鐘崎を見つめてしまった。
「俺らは伴侶としての契りは交わしたが、籍は未だにそのままだろう? お前の親父さんの気持ちを考えると、一人息子のお前を貰った上に籍まで変えちまうのはどうかと思って今日までそのままにしてきたんだが……。今回いろいろと考えさせられることもあってな。これは俺の我が侭だが、お前に鐘崎の籍に入って欲しいという気持ちがある。それを相談したくてな」
「遼……」
「もちろん、今すぐでなくともいい。ただ、俺にそういう希望があるということを伝えておきたかった。お前の気持ちもだが、親父さんの気持ちも大切にしたいと思っている」
紫月は驚いたように鐘崎を見つめた。
「遼、それって……」
「正直、お前といられるだけで俺は満足だし、これ以上望むものなどないというのも本当のところなんだが。氷川が冰を周家の籍に入れたがった時も、俺にとっては特に自分たちに置き換えて考えることもなかったんだ。もちろん、氷川の気持ちはよく分かるし、そういった選択肢もあるな――くらいに思っていた。俺とお前の気持ちさえきちんと繋がっていられればそれで充分だし、形にこだわる必要はねえとも思っていた。だが、今回三崎社長のところの娘の件で考えさせられることも多くてな。気持ちだけじゃなく形にするというのも大事なのかも知れねえと思うようになったんだ」
「いきなしこんなトコでメシ食おうだなんてさ、どうかしたのか?」
紫月が驚いたように瞳をグリグリとさせている。
「今回、お前には苦労を掛けたからな。日頃の感謝も込めて、たまには水入らずのデートもいいかと思ってな」
「はは! ンな感謝だなんてよぉ。大袈裟なんだから」
「それに、ちょっと話したいこともあってな」
「話? 俺に?」
それなら家ででもいいのにと、紫月は不思議顔だ。
「大事な話なんだ」
鐘崎が真顔でじっと見つめながらそう言うのに、ますます首を傾げてしまった。
「何だよ、改まって……」
「なぁ、紫月。俺らが伴侶として生きると決めて、披露目の宴も行ってから二年半になるな」
「ああ、もうそんなになるか」
「俺はお前と共に生きられればそれだけでいいと思ってきたんだが……」
「うん……」
「実は前々から頭の隅にはあったことなんだが、俺とお前の籍のことだ」
「籍?」
紫月はまたひとたび不思議そうに瞳を見開きながら真向かいの鐘崎を見つめてしまった。
「俺らは伴侶としての契りは交わしたが、籍は未だにそのままだろう? お前の親父さんの気持ちを考えると、一人息子のお前を貰った上に籍まで変えちまうのはどうかと思って今日までそのままにしてきたんだが……。今回いろいろと考えさせられることもあってな。これは俺の我が侭だが、お前に鐘崎の籍に入って欲しいという気持ちがある。それを相談したくてな」
「遼……」
「もちろん、今すぐでなくともいい。ただ、俺にそういう希望があるということを伝えておきたかった。お前の気持ちもだが、親父さんの気持ちも大切にしたいと思っている」
紫月は驚いたように鐘崎を見つめた。
「遼、それって……」
「正直、お前といられるだけで俺は満足だし、これ以上望むものなどないというのも本当のところなんだが。氷川が冰を周家の籍に入れたがった時も、俺にとっては特に自分たちに置き換えて考えることもなかったんだ。もちろん、氷川の気持ちはよく分かるし、そういった選択肢もあるな――くらいに思っていた。俺とお前の気持ちさえきちんと繋がっていられればそれで充分だし、形にこだわる必要はねえとも思っていた。だが、今回三崎社長のところの娘の件で考えさせられることも多くてな。気持ちだけじゃなく形にするというのも大事なのかも知れねえと思うようになったんだ」
25
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる