303 / 1,212
厄介な依頼人
52
しおりを挟む
「よし! 今夜は宴会だ! 急なことでざっくばらんな持てなししかできねえが、皆で祝杯といこうじゃねえか!」
鐘崎親子にしてみれば、一応は飛燕からの承諾を得るまではと思い、入籍祝いの宴の準備まではしていなかったのだが、無事に届け出も済んだとなれば、やはり祝杯くらいはあげたい気分になるというものだ。今ここに顔を揃えている者たちと組の若い衆らだけだが、皆で集まって一杯やろうと思うのだった。
すると、周が僭越ながら――と、前置きと共に割って入った。
「実はウチの料理人たちが心ばかりですがケータリングの準備をしております。よろしければささやかながらの俺と冰の祝いの気持ちとして受け取っていただければ幸いです」
なんと、周の汐留の邸で調理を担当しているシェフたちによって、宴の用意が整っているというのだ。しかも、ケータリング――つまりは他所へ料理や飲み物を運んでパーティーを催す形式――ということである。一報が届けば、すぐさま鐘崎家へ向けて出発する用意が万端だとのことだった。
周としては、飛燕が承諾することを見込んで、その日は内々で軽く祝杯をあげたいだろうと踏んで用意をしていたのだ。
そんな友の厚情に、鐘崎も紫月も、そして双方の親たちも心から有り難く思うのだった。信頼し合える家族と仲間たちに囲まれて、誰もがしみじみと幸せを噛み締める、そんな瞬間であった。
「ところでカネ、お前らハネムーンはどうするんだ」
周に訊かれて鐘崎は瞳を瞬かせた。
「おう、そうだな。披露目の時には特にそういったことはしないまま今日まできちまったからな。紫月、何処か行きたい所はあるか?」
「ハネムーン? そういやそんなことまったく頭になかったわなぁ」
紫月も言われて初めて気がついた口ぶりである。そんな二人を横目に周がワクワクとした顔で提案した。
「実は俺と冰もハネムーンらしきものはやらずじまいでな、香港の実家に挨拶しただけで済ませちまったんだ。改めてお前らと一緒に行くってのもいいかと思っているんだが」
「そいつはいいな。紫月、冰、お前たちの行きたい所があれば何処でもいいぞ!」
「マジ?」
「うわぁ! 紫月さんたちと一緒ならめちゃくちゃ楽しそうだね!」
旦那衆の言葉に紫月と冰は両手放しで歓喜の声を上げた。
「ニューヨークでミュージカルや美術館巡り、あるいはミラノかパリで城巡りもいいぞ」
「それか、バリやセイシェルあたりでマリンスポーツを楽しむって手もあるぜ」
「敦煌の砂漠でラクダに乗るのもオツだ」
「これからの時期なら北欧のロッジで雪遊びってのもいい」
周と鐘崎が交互にさまざま魅惑的な提案を口にするので、紫月と冰は大きな瞳をグリグリとさせながら興奮状態で手を取り合う。
「何処も良さげで迷っちまうな! 冰君はどれがいい?」
「そうですねぇ、俺は香港とマカオ、日本以外は行ったことがないので何処でも嬉しいです!」
はしゃぐ嫁たちを見つめながら、旦那衆二人からは頼もしげな言葉が飛び出した。
「二人でよく相談して行きたい所を決めりゃいい」
「だな! 俺らは奥方の財布役に徹するさ」
「おっほほー! やったな冰君!」
「はい! 最高ですね!」
気前のいい亭主たちの愛情に包まれて、喜び勇んだ紫月と冰であった。
◇ ◇ ◇
鐘崎親子にしてみれば、一応は飛燕からの承諾を得るまではと思い、入籍祝いの宴の準備まではしていなかったのだが、無事に届け出も済んだとなれば、やはり祝杯くらいはあげたい気分になるというものだ。今ここに顔を揃えている者たちと組の若い衆らだけだが、皆で集まって一杯やろうと思うのだった。
すると、周が僭越ながら――と、前置きと共に割って入った。
「実はウチの料理人たちが心ばかりですがケータリングの準備をしております。よろしければささやかながらの俺と冰の祝いの気持ちとして受け取っていただければ幸いです」
なんと、周の汐留の邸で調理を担当しているシェフたちによって、宴の用意が整っているというのだ。しかも、ケータリング――つまりは他所へ料理や飲み物を運んでパーティーを催す形式――ということである。一報が届けば、すぐさま鐘崎家へ向けて出発する用意が万端だとのことだった。
周としては、飛燕が承諾することを見込んで、その日は内々で軽く祝杯をあげたいだろうと踏んで用意をしていたのだ。
そんな友の厚情に、鐘崎も紫月も、そして双方の親たちも心から有り難く思うのだった。信頼し合える家族と仲間たちに囲まれて、誰もがしみじみと幸せを噛み締める、そんな瞬間であった。
「ところでカネ、お前らハネムーンはどうするんだ」
周に訊かれて鐘崎は瞳を瞬かせた。
「おう、そうだな。披露目の時には特にそういったことはしないまま今日まできちまったからな。紫月、何処か行きたい所はあるか?」
「ハネムーン? そういやそんなことまったく頭になかったわなぁ」
紫月も言われて初めて気がついた口ぶりである。そんな二人を横目に周がワクワクとした顔で提案した。
「実は俺と冰もハネムーンらしきものはやらずじまいでな、香港の実家に挨拶しただけで済ませちまったんだ。改めてお前らと一緒に行くってのもいいかと思っているんだが」
「そいつはいいな。紫月、冰、お前たちの行きたい所があれば何処でもいいぞ!」
「マジ?」
「うわぁ! 紫月さんたちと一緒ならめちゃくちゃ楽しそうだね!」
旦那衆の言葉に紫月と冰は両手放しで歓喜の声を上げた。
「ニューヨークでミュージカルや美術館巡り、あるいはミラノかパリで城巡りもいいぞ」
「それか、バリやセイシェルあたりでマリンスポーツを楽しむって手もあるぜ」
「敦煌の砂漠でラクダに乗るのもオツだ」
「これからの時期なら北欧のロッジで雪遊びってのもいい」
周と鐘崎が交互にさまざま魅惑的な提案を口にするので、紫月と冰は大きな瞳をグリグリとさせながら興奮状態で手を取り合う。
「何処も良さげで迷っちまうな! 冰君はどれがいい?」
「そうですねぇ、俺は香港とマカオ、日本以外は行ったことがないので何処でも嬉しいです!」
はしゃぐ嫁たちを見つめながら、旦那衆二人からは頼もしげな言葉が飛び出した。
「二人でよく相談して行きたい所を決めりゃいい」
「だな! 俺らは奥方の財布役に徹するさ」
「おっほほー! やったな冰君!」
「はい! 最高ですね!」
気前のいい亭主たちの愛情に包まれて、喜び勇んだ紫月と冰であった。
◇ ◇ ◇
25
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる