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極道の姐
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「紫月が来たのはちょうどアタシが遼二に抱かれようとしてる時だったわ。彼、怒るどころか……逃げるんじゃねえってアタシに言ったの」
「……どういうこと?」
「ん、本当だったら俺の亭主に何すんだって、ぶん殴られても当然だったんでしょうけど。紫月は遼二と寝ることが本当にアタシのしたいことなのかって訊いてきたわ。そうじゃねえだろって。どうせなら本当に自分が心底望むことに体当たりしろって、アタシを激励してくれたわ。アタシは……敵わないって思った。嫉妬するどころかアタシの気持ちまで汲んで、心からの言葉をくれた紫月から……彼の一番大事な遼二を取り上げるなんてできないって思った。完全に心を折られたっていうのかしら」
サリーは切なげに笑いながらも先を続けた。
「でも不思議ね。紫月を見ていたらなんだか分からないけど感動しちゃってね。とっても清々しい気持ちになるのを感じたのよ。アタシもこんなふうに大きな心を持てる人間になりたいって……そう思ったの」
サリーの言葉を聞きながら、静雨もまた心が揺れ動くのを感じたようであった。
「……そうね……なんとなくあなたの言いたいこと分かる気がする……。アタシも……あの焔があの子を裏切るなんてって心のどこかで疑っていたわ。あの子、冰っていう子ね。きっと本来はすごく人の好いやさしい子だと思うの。アタシを闇市に堕とさない為に大金を都合してくれようとした子だもの。見ず知らずのアタシに……よ? しかもアタシはあの子に焔の恋人だなんて嘘すらついたっていうのに。そんないい子を焔が手放すわけないって……。心の隅でそう思いながらも、あの子の普段とはまったく逆の人間性を目の当たりにして……もしかしたらアタシは騙されているんじゃないかって分かってたような気がする。でもあの子の一生懸命なお芝居に逆らってはいけない気がして……。もしかしたらアタシは分かってたんだわ。あの子が焔を……命をかけて焔を助ける姿を見たかったのかも知れない……」
静雨もまた、完全にアタシの負けねと言って弱々しく笑った。
「最初から敵わなかったのね、アタシたち。本物の恋人たちの愛って……いうか、覚悟っていうか、そういうのを見た気がするわ。まさに命がけの愛ね」
サリーもそう言って寂しげに笑う。と、そこへ扉をノックする音がして、遠慮がちに中を窺いながら冰が顔を出した。
「冰ちゃん!」
サリーが出迎えると、冰が申し訳なさそうな顔で静かに部屋へと入って来た。
「静雨さん、お身体の具合は如何ですか?」
先程までとはまるで違う、他人を気遣うことのできる人の好さが身体中から滲み出るようなやわらかな雰囲気に瞳を見開いてしまう。やはりこれが本来の彼なのだろうと静雨は思った。
「……どういうこと?」
「ん、本当だったら俺の亭主に何すんだって、ぶん殴られても当然だったんでしょうけど。紫月は遼二と寝ることが本当にアタシのしたいことなのかって訊いてきたわ。そうじゃねえだろって。どうせなら本当に自分が心底望むことに体当たりしろって、アタシを激励してくれたわ。アタシは……敵わないって思った。嫉妬するどころかアタシの気持ちまで汲んで、心からの言葉をくれた紫月から……彼の一番大事な遼二を取り上げるなんてできないって思った。完全に心を折られたっていうのかしら」
サリーは切なげに笑いながらも先を続けた。
「でも不思議ね。紫月を見ていたらなんだか分からないけど感動しちゃってね。とっても清々しい気持ちになるのを感じたのよ。アタシもこんなふうに大きな心を持てる人間になりたいって……そう思ったの」
サリーの言葉を聞きながら、静雨もまた心が揺れ動くのを感じたようであった。
「……そうね……なんとなくあなたの言いたいこと分かる気がする……。アタシも……あの焔があの子を裏切るなんてって心のどこかで疑っていたわ。あの子、冰っていう子ね。きっと本来はすごく人の好いやさしい子だと思うの。アタシを闇市に堕とさない為に大金を都合してくれようとした子だもの。見ず知らずのアタシに……よ? しかもアタシはあの子に焔の恋人だなんて嘘すらついたっていうのに。そんないい子を焔が手放すわけないって……。心の隅でそう思いながらも、あの子の普段とはまったく逆の人間性を目の当たりにして……もしかしたらアタシは騙されているんじゃないかって分かってたような気がする。でもあの子の一生懸命なお芝居に逆らってはいけない気がして……。もしかしたらアタシは分かってたんだわ。あの子が焔を……命をかけて焔を助ける姿を見たかったのかも知れない……」
静雨もまた、完全にアタシの負けねと言って弱々しく笑った。
「最初から敵わなかったのね、アタシたち。本物の恋人たちの愛って……いうか、覚悟っていうか、そういうのを見た気がするわ。まさに命がけの愛ね」
サリーもそう言って寂しげに笑う。と、そこへ扉をノックする音がして、遠慮がちに中を窺いながら冰が顔を出した。
「冰ちゃん!」
サリーが出迎えると、冰が申し訳なさそうな顔で静かに部屋へと入って来た。
「静雨さん、お身体の具合は如何ですか?」
先程までとはまるで違う、他人を気遣うことのできる人の好さが身体中から滲み出るようなやわらかな雰囲気に瞳を見開いてしまう。やはりこれが本来の彼なのだろうと静雨は思った。
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