極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
382 / 1,212
極道の姐

70

しおりを挟む
「もう決めたんだ。俺にとって組や親父も大事だが、それよりももっと大事なものがあると気付いたからだ。里恵子、それはお前だ。それなのにフラフラと迷って、愛してもいない女と縁組しようとした自分を恥じている。体裁の為だけに利用しようとしてしまった彼女にも申し訳ないと思っている」
「瑛二……」
 我慢できずにしゃくり上げて涙する里恵子の肩にそっと手を差し伸べながら男は言った。
「すまなかった。お前にも辛い思いをさせてしまったことを許して欲しい。そして……これからの俺を見ていて欲しい」
「え……じ、瑛二……。ええ、ええもちろん……」
 涙にくれながら手を取り合った二人を静かに見守りながら、そっと席を立ち上がって鐘崎は自分と似た名の男を見つめた。
「森崎――だったな。節介なことを言うようだがひとつだけ約束して欲しい」
 至極真剣な表情で――まっすぐに視線を合わせてそう言った鐘崎に、森崎という男もまた真摯な態度で話の続きを待った。
「間違ってもこのサリーを食いもんにするようなマネはしてくれるなよ。部外者の俺がえらそうなことを言えた義理じゃねえが、この店の名をクラブ・フォレストに決めてたった一人で背負っていこうとしてた彼女を泣かせるようなことだけはしねえと約束してくれ」
 鐘崎の言葉に男はハッと瞳を見開いた。確かに地位も何も投げ捨てて、一文無し同然の状態で家を飛び出した男にとって、しばらくは甘くない現実が待っていよう。例え苦しくとも、サリーの稼ぎを目当てに甘い言葉で騙くらかすようなマネだけはしてくれるなという鐘崎の願いだった。
 男にもそれが充分理解できたのだろう、背筋をピンと伸ばしてうなずくと、意思のあるしっかりとした声でその思いに応えたのだった。
「はい、肝に銘じてそんなマネはしないと誓います――!」
「そうか」
 鐘崎は静かな眼差しで安堵の気持ちを表してみせた。そんな二人の様子に、里恵子がより一層熱くなってしまった目頭を押さえる。愛する瑛二の覚悟もむろんだが、散々迷惑を掛けてしまったにもかかわらず鐘崎がこんなふうに思いやってくれることが嬉しくてならなかったのだ。
「さあ、せっかくの開店の日に涙は禁物だ。今日は皆で目一杯里恵子の門出を祝おうじゃねえか!」
 僚一はそう言うと、
「森崎、お前さんも一緒に席につけ。今宵は俺の奢りだ! 一緒に里恵子を祝ってやろう」
 森崎にも自分たちのテーブルへ来いと誘いの言葉を口にする。驚いたのは森崎だ。
「そんな……滅相もございません。手前なぞまだまだ駆け出しとも言えない青二才です。皆様のお邪魔をするつもりは毛頭ございません」
 森崎は祝いの花束だけを渡してすぐに帰るつもりでいたようだ。
「まあそう言うな。これからはお前たち若いモンがこの世界を背負っていくんだ。いい機会だから遠慮せずに付き合え」
「は……、こんな手前にそのような有り難いお言葉……。感謝の言葉もございません」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...