極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の記憶

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 掛け布団をキュッと両の手で掴みながら頬を紅潮させ、嬉しそうに天井を仰いでいる。大きな枕の上ではやわらかな髪が無造作に揺れていて、周は思わず抱き締めたくなる衝動を抑えながら、「よしよし」というふうにその髪を撫でるだけに留めたのだった。
「――よし、じゃあそろそろ休むか」
 ベッドサイドの灯りが落とされると、冰は周へと向き合う体勢で仔猫のように身体を丸めた。
「おやすみなさい、お兄さん。僕、まだ何ができるか分からないけど……明日からお兄さんと一緒に会社に行ってもいい? お仕事教えてもらえば少しは何かお手伝いできるかも」
 まったくもって可愛いことを言う。例え記憶を失っても、性質の素直さは変わらない。いつものやさしく思いやりのある彼でいてくれることが周には何より安心できるものであった。
「その気持ちだけで充分だ。まだしばらくは鄧先生のところで検査などもあるからな。怪我が完全に良くなるまではここにいて好きなことをして過ごせばいい。鄧先生の許可がおりたら徐々に会社の仕事も手伝ってくれればいいから、それまではゆっくりしていろ」
「うん、分かった」
「会社が見たければたまに遊びに寄るといい。朝晩はもちろんだが、お前が来てくれれば昼飯なんかも一緒に食えるしな?」
「ありがとうお兄さん。じゃあ邪魔にならないようにお兄さんのお仕事してるとこ見に行ってもいい?」
「もちろん大歓迎だ。十時と三時にはおやつも出してやる!」
「ホント? わぁ、楽しみだなぁ」
「見学の他にはテレビや本を見て過ごしてもいい。やることがなくて暇なら……そうだ、確かうちの倉庫にルーレットの台が取ってあったから、朝になったらそれを出してやろう。退屈しのぎになるだろう」
「ルーレット! うわぁ、嬉しいな! 退院するまでに少しでも上手になってじいちゃんを驚かせられるかも」
 そう言いながらもウトウトとしかけた瞼をそっと指でなぞってやりながら、周も眠りについたのだった。



◇    ◇    ◇



 その翌日、事情を知った鐘崎と紫月が大慌てといった調子で汐留の周の社を訪ねて来た。
「冰君の容態は!?」
 紫月が蒼い顔をして、まるで我がことのように焦りながら周へと詰め寄る。
「一之宮――、カネも忙しいのにすまねえな」
「ンなことは全然! それよりマジで思い出せない様子なのか?」
「ああ。冰の記憶は九歳の頃に戻っちまってる。だが、俺と会ったことを覚えていてくれたからな。それだけは不幸中の幸いってところだ」
「そっか……」
 紫月はひとまず安堵しているが、鐘崎の方はまた別の角度で事態を見ているようだ。
「――とすると、冰がガキの頃、氷川と出会った後に今回の怪我と連動するような何かが起こって、それがヤツの記憶をガキの頃まで逆戻りさせちまった――ってことになるのか……」
 鐘崎は今回のような事態に陥った経緯を想像しているようであった。周としてはさすがに冰の記憶が飛んでしまった原因までは考える余裕がなかった為、今の鐘崎のひと言は衝撃的だったようだ。
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