極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の記憶

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「どんな事故だったのか、黄のじいさんに訊ければ言うことなしなんだが、生憎もう他界しちまってるからな……」
 つまり事実がどうだったのか、はたしてそんな事故があったのかどうかさえ今となっては知る術もない。
「冰がその時のことを覚えていればいいんだがな」
「まあ、記憶が飛んじまうくらいだからそれも期待できねえか……」
 周と鐘崎が難しい顔をしていると、ダイニングの扉が開いて当の冰が姿を現した。
「白龍のお兄さん! お帰りなさ……。あ……! お客様……?」
 話し声を聞いて周が帰って来たと思ったのだろう。待ちわびたような笑顔で扉を開けたと同時に鐘崎と紫月に気がつくと、遠慮がちにペコリと頭を下げてみせた。
「冰! ちょうどよかった。こっちへ来い」
 周に手招きされて、おずおずとしながらも客人に対して挨拶の言葉を口にする。
「こ、こんにちは。あの……はじめまして」
 やはりか――鐘崎らのことも見覚えはない様子である。分かってはいても紫月などはショックが大きかったようで、つい切なげに瞳を細めてしまいそうになり慌てて笑顔を取り繕った。
「こんにちは冰君! お邪魔してるぜ?」
 にこやかに握手を差し出した紫月に、冰も恥ずかしそうにしながらも手を取って頭を下げた。
「こんにちは……」
「俺は紫月っていうんだ。氷川……いや、周のお兄ちゃんのダチだ。よろしくな?」
「ダチ……さん?」
「ああ、そっか。キミ、香港育ちだったな? ダチってのは友達っていう意味な!」
「お友達……。白龍のお兄さんのお友達の人?」
「そうだよ。でもってコイツは遼二! やっぱり白龍の兄ちゃんの友達だ」
 紫月が側にいた鐘崎のことも紹介すると、冰は自らも『雪吹冰です』と名乗った。
 本当は既に周冰なのだが、今はまだ周の籍に入って夫婦となっていることまでは伝えていないので致し方ない。だが冰は今の紫月とのやり取りで何か感じるところがあったのか、ほんの一瞬苦しそうに瞳を細めては両の手で額を押さえた。
「どうした冰? どこか痛むのか?」
 すぐに周が心配そうに訊いたが、冰はブンブンと首を横に振っては、『そうじゃない』という仕草をしてみせた。
「んとね、なんだか前にもこんなことがあったような気がして……懐かしいっていうか、よく分からないけど不思議な感じがしたんだ」
 確かに紫月と初めて電話で話した際に、今と似たようなやり取りをしたことは事実である。あの時も紫月は『俺、一之宮紫月ってんだ。氷川のダチだ。よろしくな!』と言い、ダチの意味が分からなかった冰が『ダチですか?』と聞き返したことがあった。それが既視感覚となって冰の心を揺さぶったのかも知れない。
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