極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 雅な着物の裾をビシッと叩きながらゆっくりと立ち上がる。その姿に無法者たちは一瞬ピタリと動きをとめたが、次の瞬間には誰からともなく嘲笑が沸き起こり、ゲラゲラと品のない罵声で溢れ出した。
「何だぁ、てめえ」
「聞いたか? やめなんしときたもんだ!」
「付け焼き刃の男娼風情が聞いて呆れらぁな! 一丁前に花魁気取りしてやがる!」
「てめえなんぞに用はねえんだよ! すっこんでやがれ!」
「てめえはおとなしく物好きな野郎共にケツだけくれてりゃいいんだ!」
 言いたい放題である。さすがに主人の伊三郎と番頭もワナワナと拳を震わせたものの、だが逆らう勇気などとうにない。彼らと向き合った位置にいた源次郎らには、黙って唇を噛み締める主人らの悔しい心の内が手に取るようであった。
 だが、当の紫月は悔しがるわけでもなく、また怒るでもなく、落ち着き払った口調で一歩一歩敵方へと近付きながら先を続けた。
「兄さん方、ここは遊郭でありんすよ。品のない言い草はやめなんし。それにその子は壺振り以前にわちきの禿でありんす。勝手に連れ出されては困りますね」
 優雅に扇を仰ぎながら微笑む。そのままゆっくりと冰の肩越しに立つと、扇を閉じて彼を掴んでいた男たちの腕をピシャリと叩いてみせた。
「……! こんの淫売のオトコオンナが!」
「調子こきやがって!」
「しゃらくせえ! 付け焼き刃のド素人が花魁気取りしてんじゃねえ!」
 憤った男たちが腰に携えた真剣を抜こうとした時だ。それより先に紫月らの一等側にいた男の着物の袖がハラリと切れて肌があらわになった。

 一瞬、何が起こったのかというように座敷内に静寂が立ち込める。

 誰もが我に返った時には紫月の手が男らの内の一人の腰元にあった剣の柄に添えられていた。
「て、てめえ……ッ、何しやがった……」
 何と紫月は男の持つ鞘から剣を抜き取って袖を切り付けると同時に、再びその剣を鞘へと戻してみせたのだ。つまり居合い抜きの技である。
 剣を抜き取られた者はおろか、周りにいた誰一人としてその技の動きを目視できないほどの早技、いや神業といえた。
 それまで粋がって怒鳴り散らしていた男たちが、一瞬で青ざめた瞬間でもあった。
「物分かりの悪ィヤツらだな。こいつぁ俺の禿だ。手ぇ出すんじゃねえ」
 今までの花魁言葉を一転、低くドスのきいた声音と鋭い眼光で直視する別人のようなオーラに押されてか、その一挙手一投足が無法者たちを更に震え上がらせた。
「て、てめえ……何モンだ……」
 もはや『よくもやりやがったな』のひと言さえ発せられずに、腰が抜けたようにして脚を震わせている。それも当然であろう、その気になれば袖どころか腕の一本を平気で持っていかれていたかも知れない腕前は火を見るより明らかだ。
 このままでは敵わないと悟ったのだろう、一番後ろで見ていた男がうわずる声をもつれさせながら、
「ず、ずらかるぞ……!」
 短くそれだけ言い残すと、それを合図に男たちは転げるようにしながら一目散に座敷を後にしていった。
 残された主人と番頭は、既にヘナヘナと畳の上に崩れ落ちたまま、呆然としたように瞬きさえ儘ならずといったふうである。男たちから解放された冰もまた同様に、賭場用の毛線の上にペタンと糸の切れた人形のように座った姿勢で硬直してしまっていた。
「もう大丈夫だ。怖かったな」
 紫月が冰の肩を抱いてさすりながら落ち着かせんと声を掛ける。
「あ……りがとうござい……ます。だ、だだ大丈夫……です」
 しどろもどろながらも安心したのか、冰が差し出された紫月の腕の中に縋るようにして抱きついた。
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