極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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「どうだい、茶屋に来た順に賭けるってのは道理だろうが。先ずは俺からだ! 異存はねえな!」
 男が立て膝を立ててがなり散らすので、他の三人もそれでいいと苦笑で返す。
「好きにしろ」
「よし! それじゃヨイチの半だ!」
 ヨイチ――つまりさいの目は『四』と『一』を指す。二つの目を足すと奇数の『五』になるので”半”である。
 続いては頬に傷のある男の番だ。
「そうかい。だったら俺はニロクの丁だ」
 こちらは二と六で、二つを足せば八となり、偶数なので”丁”。男はニヤッと不敵に笑みながら懐から帯封のついたままの札束を三つほど差し出してみせた。
「……ッ!?」
 その金額を目にした参謀の男からは憎々しげな舌打ちが飛び出した。
「何が誕生日だ! 今日は如月の十七日だぜ? ニロクとは何の関係もねえじゃねえか! てめえ、その歳で早くもボケてやがるんじゃねえのか? こんな……ハッタリかましたような額を突き出しやがって!」
「花魁を賭けようってんだ。このくれえ驚くような額じゃあるめえよ?」
 頬傷の男は余裕の態度で笑う。
「嫌ならここで降りてもらって構わねえぜ?」
「……ッそ! 舐めやがって! 誰が降りるか!」
 参謀の男も致し方なくといったふうに同じ額を壺振りの目の前へと放り投げた。実に頭から預かってきた全額であるが、この際致し方ない。こうなった以上、持ち金がこれで全部だなどとは間違っても悟られてはならないからだ。参謀の男は額をヒクつかせながらも、せいぜい余裕のあるふりを装うのに必死になっていた。
 残るは白髪混じりの男と丹羽である。
「は、誕生日ね。面白え願掛けじゃねえか。だったら俺も乗っかってみるかな。ピンゾロの丁でどうだ」
 ピンゾロとはピン――つまり『一』のゾロ目のことだ。誕生日にあやかるというなら、この白髪の男は一月一日生まれということなのだろうか。あるいは十一月十一日という可能性もある。
「ピンゾロとはまたデカく出たもんだな」
 頬傷の男がニヤッと隣で不敵に笑う。
「縁起がいい数字だろ? 俺の気に入りなんだ」
 白髪の男もフフンと得意気に返してみせた。
「なら俺はゴロクの半とでもいってみるか」
 正直なところ丹羽にとってはどう転んでもいい勝負である。頬傷の男と白髪の男が丁と言うので、自分は参謀の男に倣って半に賭けただけである。丁半互角に出揃ったところでいよいよ運命の女神が舞い降りる瞬間だ。
「勝負!」
 ゆっくりと壺から覗いた賽子の目は、

「――ニロクの丁!」

 結果は頬傷の男の勝利であった。
 中盆によって素早く札束が回収され、頬傷の男の前へと差し出される。
「……クッ! 貴様……」
 参謀の男はワナワナと肩を震わせながら唇を噛み締めていた。一瞬イカサマかと疑ってみたものの、頬傷の男が賭けたのはニロクの丁である。誕生日というワードが引っ掛からないこともないが、十七日という日付けからは想像できる目でもない。

(クソ……本当に偶然なのか?)

 ここで悶着をつけても、この頬傷の男が相手では勝ち目はないだろうか。先程、店先で感じた空恐ろしい雰囲気がこの男にはあるのだ。ここは一先ずアジトに戻って対策を練り直すのが得策か――参謀の男は舌打ちながらもこの場は黙って引き下がることに決めたようだった。
 火鉢の側では花魁紅椿がふかしていた煙管を頬傷の男へと差し出しながら手招きしてみせる。
「主さん、ここへ」
 こちらへ来てこの煙管を含みなんしと言わんばかりに艶っぽい視線を送っている。花魁が差し出す煙管を受け取った時点で今宵の契りが約束されたことになるというわけだ。それを見ていた白髪の男が祝いの言葉を口にした。
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